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王子様と……

続きです。今回は間に合った

このペースで続けられますように!

漠然と考えていた頃からマデリン嬢は妖精姫…ッってなっていたので

やっと出て来てくれてうれしい

ナイジェル様とマデリン嬢のスピンオフもひそかに考えてますw

 頬のほてりが収まった頃、荷物の搬入がひと段落したらしく、休憩を取り始めた使用人達を見て良い頃合いかしらとアンドルとイスラ卿に儀式への同行をと声をかけ、広場へ移動した。

 

 暗くなっていく深い森の中に居ても先に到着していた貴族たちの騒めきのおかげで、森の中迷子1号にならなくてとりあえず一安心だわ。


 ホッとしながら広場へたどり着くと、まずはどこに腰を落ち着けたらよいのかと視線を巡らす。

 席の話はナイジェル様もされて行かなかったので空いている場にご自由にという方式なのよね?


 出来れば見知った方の傍がいいわ、と空いている席付近に知っている顔がいないか見分しようとしたけれど、暗くてよくわからない……。


 そんな私の様子が目に入ったのか、王家の侍従長様が声をかけて下さって席へと案内をしてくれた。

 

「侯爵夫人こちらへ。どうぞごゆるりとお過ごしください」


 恭しく頭を下げた侍従長様が立ち去ると、ひらりと振られる手に視線を向ける。

 空いている席に案内をして下さるのかと思えば、見慣れた方がお一人で座っていらした。


 説明を受けるまでもない、王室関係の貴賓席。

 ……まあ侍従長様が直々に案内くださったのだからこうなるのよね、うん。


 わかってた。


 にこやかに微笑む王妃様と目が合ったので私も笑み返しながら近づき、パンツスタイルだからフロックコートの裾を摘まみ略式のカーテシーでそれに応える。


「エリザベス、此方へいらっしゃい」


 にっこりと微笑みながらご自分の席の隣をポンポンと叩く王妃様。

 そこはもう家族席ではないのかしらと一瞬たじろいだけれど、いつまでも立っているのも邪魔になりそうなのでお言葉に甘えた。


「失礼します」


 軽く会釈しながら王妃様のお隣に腰を下ろす。

 アンドルたちは他の場所へ移動しようとしていたけど、王妃様の計らいで護衛騎士たちと共に私たちの背後に控え、儀式を見学させて頂くことになった。


 それにしても、ここにも居ないのね。

 ナイジェル様も席についていないので、カイルも同様何かしらお役目があるのかしらと視線だけ動かしてあたりを眺めていれば、そんな私の仕草に気づいた王妃様がクスクスと笑いながら小さく肩を揺らされた。


「私だけでごめんなさいね。あの子はあっちの席にいるのよ」


 そういわれて王妃様の指示した扇の先を視線で追う。

 ちょうど対角の席で見慣れた明るい金色の髪をした彼を見つけた。


 カイルの周りには年ごろの令嬢達……ではなくて、宰相様や長老院のお歴々など行政の重鎮の皆様方。

 多分に平均年齢がカイルの周りだけ異常なほど高くなっているだろう場所へ視線を向けていると、助けを求めるような彼の目とかち合ったので反射的に顔を背けてしまった。


「フフ、人気者でしょう? あの子もすっかり大きくなって」


 あのサイズになったのはつい最近の話ではないのだけど、小さな頃を知っている家族ならの感性なのでしょうね。

 私もマリアの息子たちとか会うたびに、タケノコのように伸びゆく姿を見ては「……すっかり大きくなって」って感じるもの。なので王妃様の言葉にうんうんと頷きながら応えた。


 ナイジェル様が即位なされば補佐として動いているカイルも彼のお父様同様宰相府へ入るのだろうから、地盤固めは大事よね、邪魔をしてはいけないわ。

 

 彼の現状を知ってホッとしたのもあり、少し余裕を取り戻した私は周囲の様子へ気を向けることにした。

 

 きっと近隣の村々の集会場に使われている場所なのだろう。きちんと手入れをされ下草のない踏み固められた硬い地面。

 そこにしつらえられた手作りのベンチにカラフルな手織りの布が掛けられていて、それぞれが好きな場所へ腰を下ろし儀式が始まるのを待っている。

 

 夜の訪れを合図にして円形に広がる場を囲むように置かれた篝火に火が灯されると、パチパチと乾いた木が燃える小さな音を奏でながら周囲を照らしはじめる。

 あたりが炎に照らされて明るくなると広場の中央に大きく組まれた木材のシルエットが浮かび上がった。


 木材の焦げる匂いに一瞬だけ身構えてしまったけれど、あのくらいの小さな炎なら今は大丈夫。

 気を引き締めなさいと自分に言い聞かせながらゆっくり呼吸を繰り返した。


「さあ、始まるわよ。あちらを御覧なさい」


 闇の中浮かび上がったそれを王妃様が指をさすから、私も何だろうと目を凝らす。


 まるでそれを合図にするように傍に控えていた楽隊が壮言な音楽を奏で始め、たいまつを持ったローブ姿の男が広場の中央へ向かう。

 フードを深くかぶっているので正体は分からないが、威風堂々とした男の歩みに観衆たちの騒めきが止まり、森は静けさを取り戻す。


 周囲の者の声が静まったのを確認して広場の中央に立つ男がフードを外した。

 

 ……やっぱり、ナイジェル様ね。

 

 松明の陽光にも似た揺れる炎に照らされ、ナイジェル様の赤い髪も燃えるように闇に浮かぶ。

 炎に照らされた顔へ彫像のような陰影が落ちて端正な顔立ちを引き立てた。


 お顔が見えた瞬間、令嬢達の色めき立つ声があちらこちらから聞こえたのはご愛敬。


 少し間を置きその声も静まると松明を掲げたナイジェル様が朗々とした声で話し始める。


「冬支度の忙しい中集まってくれた紳士淑女の諸君にこの場を借りて感謝の言葉を贈らせてもらおう。森の恵みを司る大精霊の加護が(みな)にあらんことを」


 ナイジェル様のお言葉に参加している貴族たちが拍手で応えていく。

 

 深い自然に抱かれたこの場に居ると、大精霊の存在が本当にあるかのような気持ちになる。

 大きな事故や事件が起きませんように、と私も心からいるかもしれない不可思議な存在へ祈りを込めた。


「狩猟祭の成功を祈り大精霊へ乙女から聖なる火を捧げる。……乙女よ、こちらへ」


 そして再びナイジェル様が声をあげ、ゆっくりと手を差し伸べる。

 その先にまだ火の灯らない小さな松明を手にした白いローブを纏った女性がナイジェル様の方へ歩いていく姿が目に映った。


 すっきりとした整った鼻筋、緊張に震える可憐な唇。

 俯いているけれどその瞳は夏の森に似た深いグリーン。

 歩くたびに揺れる木漏れ日のような淡い金の髪。


 ローブからわずかに見える手足の華奢さ、重さを感じさせない可憐な足取り。

 まるで森に住まう精霊のようにすべてが神秘的だった。


 あの方は、ナイジェル様の想い人であるマデリン・グリューネワルト・オーベル公爵令嬢。

 もうすぐ王太子妃になり、ナイジェル様のお隣に並び立つ尊き方となる御方。


 ほんの触りしか存じてないけれど、はねっかえりとかお転婆とか言われる私と真逆の深窓のご令嬢。


 性格や思考がカイルによく似ていらっしゃるナイジェル様だけど、女性の好みは正反対なのねとぼんやり考える。

 

 お体が弱くて人前にあまり出ていないとナイジェル様から聞いているので、お茶会やサロンの集まりで確かに顔を合わせた記憶がない。


 舞踏会もファーストダンスを済ませた後すぐに控えで休まれてしまったからお話する機会が今まで作れなかったのよね。


 オーベル公爵家とは特に親交もなかったので、この祭りをきっかけに仲良くなれるといいなと思う。


 そんなことを想っているうちにマデリン様がナイジェル様の元へたどり着く。


 マデリン嬢がもつ小さな松明へナイジェル様が手にした松明を近づけ火を移し、その火を森の大精霊に捧げるまでの流れが開催の儀式らしい。

 

 隣にいる王妃様が森の乙女の役は高位貴族の令嬢やうら若い夫人が選ばれるのよと耳打ちしてくれた。


 なるほど、選ばれたらそのお家は家門ごと強制参加になるのかしら。


 参加者を増やすために尽力されていたナイジェル様の姿を思い出して小さく笑うと王妃様の次の言葉に固まってしまった。

 

「……来年は貴女の番かしらね」


 それって貴族的な順番のお話ですよね?

 あ、でも年ごろの公爵家のご令嬢だってまだいらっしゃるはず……。

 

 思わず王妃様へ顔を向けると悪戯気な笑みを向けて甥嫁も娘みたいなものよ、なんておっしゃるからもうどういう顔をしたらいいのかわからなくて正面に顔を向けなおした。



 さあ、おしゃべりはやめて儀式の見学に集中しましょう!


 ……って、あれ?


 

 

お読みくださってありがとうございます

本日、絶望令嬢コミカライズ4巻の発売日です

4巻まで行きましたよ~読んでくださっている皆様たちのおかげです、ありがとうございます

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