ある日、森の中
なかなか思うように時間が取れなくてすいません
そんな訳で更新です(*'ω'*)やっと狩猟祭始まったw
カイルとリズの仲が祭りの間どう進展するかお楽しみくださいませ
狩猟祭前日、私を含め使用人や騎士10数名を乗せた馬車数台が侯爵家からゆっくりと動き出す。
旅の目的地は王都から馬車で半日ほどの距離にある王家の直轄領。
ナイジェル様が言うには大きな湖を囲むように広がる森が舞台なのだそう。
旅先の状況と現地での予定を鑑みて少しフォーマルに寄せドレスのようなドレープを飾り付けた乗馬服を身に着けている。
カイルの治める領地でもあるリューベルハルク領も王家の直轄領だった頃に一度だけ、狩猟祭の舞台に選ばれたこともあったらしい。
新しく爵位を得た家へ褒賞として下賜されることもあるし、家を取り潰されたり継ぐ者が居なくなったり様々な事情で領地の管理が出来なくなった場合は、王家がその土地や領民を引き受け直轄領として管理することになるので時代によって増減があるのだそう。
流石にローズベルとほとんど距離感の変わらないリューベルハルク領が祭りの舞台になっていたら断っていたかも。
いくら街道が整備されたとは言っても間を開けずにあの距離を2往復は流石に避けたいもの……。
程よい距離感の場所でよかったわ。景色もいいし気分転換に最適な気がする……だなんて考えながら、ゆっくりと動く景色を窓越しに視線を向けた。
賑やかで洗練された王都の街並みがゆっくりと過ぎ去り、自然豊かな風情のある郊外へ移っていく。
外から聞こえる軽快な蹄の音や溌溂とした騎士たちの点呼の声も「今」が日常の場面じゃないことを報せてくれた。
声のする方へ視線を向ければ見えるのは馬車を警護する侯爵家の騎士隊。
隊長のイスラ卿に隊長補佐のショーン他若手の騎士5名。前方と後方を騎馬で挟むように道中の安全を護ってくれている。
夏のロゼウェルへの移動の疲れが抜けないマリアは大事を取って今回の旅はお休み。そのかわりに夏の間一人で侯爵家を仕切っていた家令のアンドルが休暇を兼ねて同行することとなった。
「私とあなたが同時に屋敷を留守にしても大丈夫かしら?」
目の前で書類に目を通しているアンドルへそう言葉を投げると、おやおやと呟き唇を優美に持ち上げながら笑みを深めた彼が顔をあげる。
「まあ数日程度の留守ですし、この期間の王都は舞踏会ほどではないにせよだいたいの者が狩猟祭へと出払うので、そう突飛な客もやってまいりませんよ。 それにちょうどいい実習にもなります」
見慣れたアルカイックな笑みを浮かべながら、淡々とアンドルが告げる。
最近アンドルは侍従の中から使えそうな者を数名、執事として指導しているのだと聞く。
……本来は女主人の私が気を配らないといけない部分なのよね。
侯爵家の深刻な人手不足を解消するために、アンドルも時間を割いて後進の育成に励んでいる事実を目の当たりにして心の中で反省する。
冬になれば公式行事や社交の場も減るので服飾関連の仕事はそれなりに落ち着くはず。
他のシーズンに比べれば時間も取れるだろうからこの問題にも本腰入れて取り掛かろうと心の片隅にメモを取った。
「そう、数日程度のことでございますゆえ。奥様も些末なことを忘れになって楽しまれてください。マリア殿の足元に及びませんがご不便のないよう精一杯お世話に勤めさせていただきます」
「ふふ、ありがとう。せっかくなのだからあなたも私に構わず息抜きしてね」
「そんな訳には参りません。マリア殿に叱られてしまいます」
故郷であるロゼウェルの海、羊たちの群れが緑の丘を白く染め上げるのどかな風景の広がるリューベルハルク領。それと洗練された背の高い建物が並ぶ文化と芸術に満たされた王都。
いろいろな場所を訪ねた私でも実は湖や森に深いなじみはない。その上乗馬での散策もついてくる。
お言葉に甘えて初めての経験を存分に楽しみましょう。
***
目的地に馬車がたどり着いた頃は陽も傾きだし、森の木々が長い影を伸ばし始める頃。
案内された場所へ馬車を止めれば、暗くなる前に暮らす場を整えなければならないと、アンドルの指示の元使用人達が忙しなく動き出す。
騎士たちも協力し合い荷物を侯爵家に宛がわれた天幕や小屋にせっせと運び込んでいった。
なら私も、手伝おうかしらと馬車に近づくと「若い使用人達の気が引けて逆に効率が下がるので奥様は大人しくそこにいて下さい」なんてアンドルに言われ、私は丸太で作られたベンチにぽつんと一人で腰を掛けた。
効率が下がると言われれば手を出す訳にもいかず、忙しく動く皆の姿とゆっくり雲と森の葉の色を変えていく夕日をぼんやり眺めている。
そんな時、背後から声が掛かった。
「やあ、エリザベス嬢」
「ナイジェル様」
声のする方に顔を向ければすっかり見慣れてしまった人好きする笑みを湛えたナイジェル様が細い林道を歩きながらこちらへ近づいて来る。
立ち上がって礼をしようとする私をナイジェル様がやんわりと止めて下さり、彼もまた近くの丸太ベンチに同じように腰を下ろすとそっと息を漏らした。
「淑女の前で恐縮だけど一息つかせてくれ」
ナイジェル様のご衣裳は濃紺の乗馬服に短い丈のマントを羽織る狩人姿。
腰を下ろしながら額の汗をぬぐい、髪や衣装の乱れを直す姿まで様になるのは良いお顔の恩恵なのかしら。
そんなことを考えながらナイジェル様の言葉に緩く頷く。
朝から狩猟祭の仕度のために森の中を忙しく歩き回っているそうで、ずいぶんとお疲れのよう。
まあ愛しの姫君がお傍に居るとの事だから良いところを見せようと王都に居るときから張り切ってらしたもの。当然かしら。
いつも飄々とされている王太子殿下も恋心を燃やすいじらしい男性なのだとわかり小さく笑ってしまう。
「報告が入った順に挨拶がてら顔を出しているんだ。それより夕暮れ前に間に合って何よりだ。日暮れを合図に狩猟祭開幕の儀式が始まるから、ぜひ参加して欲しいな」
一息ついたナイジェル様が儀式や宴をおこなう中心となる広場の場所を簡単に教えてくれた。
そして、ナイジェル様は一仕事を済ませたというお顔をなさりながら他の貴族たちの馬車を目指して足早に歩き出す。
そんな彼をお疲れ様です、と頭を下げながら見送った。
……そういえば、先に来ているはずなのに姿が見えないわね。
こういう場面ではナイジェル様を押しのけてでも率先してやってきそうなカイルが来なかったことを少し不思議に思った後、どんなことよりも私の優先するに違いないと考えてしまった自分の思い上がりが恥ずかしくて夕日より赤く染まった顔を手のひらで覆い隠したのだった……。
読んでくださってありがとうございます。
次回はナイジェル様の女神、マデリン嬢ようやくの初登場です。
以前舞踏会でさらっとファーストダンスのお相手として名前しか出てないんですよね…w
やっと出せてうれしいです。
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