合間の休日
お久しぶりでございます(*'ω'*)
不意の交通事故にあってしばらく入院しておりました
今もまだリハビリ真っ最中なのですがどうにか日常に復帰しつつあります。
こちらの更新も再開したいと思います~!狩猟祭準備編ラストです
あとがきに絶望令嬢新刊告知もあります(*'ω'*)
秋は淑女のようだとどこかの詩人が紡いでいたと思う。
その言葉通り淑女めいた優雅な足取りで秋が訪れたことを知らせる様、ゆっくりとでも確実に瞳に映る色彩を変えていく。
少しだけ冷たさを纏った風のリズムに従う様、軽やかにステップを踏み踊る彼女の纏うドレスが色鮮やかに染まり出し、景色はすっかり秋模様となっていた。
そんな季節の移り変わりに気を向けることも出来ぬまま、狩猟祭を目前に控えた私は仕事の合間に乗馬の練習を重ね続けている。
たゆまぬ努力と言うと大げさかもしれない。
それでも速歩に毛が生えた程度ではあるけど、走らせることまでどうにか形になったのだ。
だから、少しくらいは自分を褒めるくらいのことはしてもいいと思うのよね……、うん。
「ずいぶんと上達されましたね、奥様」
そんな私の心を読んだかのようにかけられる声。
視線を横に向けると切りそろえた茶色の髪を陽光に照らしながら、ラフな私服姿で馬を駆るイスラ卿の姿が映る。
一月前は馬へ跨ったまま、されるがままになっていた私を手綱を持ってひきながら声をかけていたイスラ卿は、今日は馬上の人となって私の乗っている馬と並走していた。
人馬一体と唱えていただけあって、乗りこなしている姿は自然そのもの。
日々鍛錬をかかさない真面目な分隊長の鍛え上げた筋肉は伊達じゃなく、片腕で難なく大きな愛馬をいなし操っていく。
私はまだその境地には至れるわけもないけれど、会話をする程度の余裕は生まれるようになっていた。
「ありがとう。 お休みの日なのにこうして練習に付き合ってくれるおかげよ」
「奥様の安全に繋がることですので」
そうイスラ卿へお礼を告げると、お気遣いなくと笑顔を返してくれた。
***
狩猟祭の日程が近づくと、俄然張り切り出したナイジェル様の補佐に駆り出されているカイルもこちらを訪れる暇が作れないようで姿を見せない日が続いていた。
そのおかげもあって屋敷も私の心も平穏を取り戻しつつある。
祭り間際になっても二人に負けず劣らず目まぐるしい日々を送っていた私に対して、祭事の前なのだから……と体を休めることをイスラ卿とマリアからこれ以上ないほど力強く勧められた。
普段なら執務室でこなせる程度の仕事は……と抵抗するところだけど、情けないことにあちこち体が痛むのも事実。
現実的に考えてもここで無理をすることは控えた方がいいと判断した。
だって催し物の最中に怪我なんてしたら目も当てられないもの。
そんなわけで決裁書類をアンドルに託し、久しぶりになにもしない日を過ごすことになった。
時間をかけて湯あみをし、温まった体に好きな香りの香油をたっぷり使ってマッサージをしてもらう。
そんな至福の時間を過ごしたあと、火照りきった体に冷たい果実水を補給してから一人にさせてもらった。
私室のソファにお気に入りのクッションを敷き詰めて楽な姿勢で身を委ねると、ソファのカバーが厚手の織物に代わっていることに今更気づく。
暖かくて柔らかな純毛の織物の手触りは、カイルの屋敷へ向かう途中にあるなだらかな丘を白で埋め尽くすような羊たちの群れを思い出させる。
ロゼウェルから王都へ続く街道が整備され、リューベルハルク大公領の名産でもある安価で上質な羊の毛織物も王都へかなりの量が流通されるようになったと聞いた。
そのおかげもあって、屋敷中の寒さ対策として扱う冬用のカーテンやカーペットを揃えるのにとても助かったのよね。
そうして目を閉じて廊下から漏れ聞こえてくる音を聞く。
秋が深まれば侯爵邸も近づく冬の気配に備えて、侍女たちが目まぐるしく働いている。
大陸の南に位置し、大きな湾に面したロゼウェルは冬でも穏やかな気候なのだけど、王都の冬の寒さは厳しいのよ。
皆にとって初めて迎える冬だから、冬のお仕着せは全て新調しないとよね。マリアもきっと大忙しだわ。
広い邸内を暖めるために山のような薪の確保も、雪が降り始める前に終えないとだもの。
シェフたちも空いた時間を見繕っては、侯爵家の敷地内のちいさな林に使用人を連れて入り木の実を集め始めている。
そして肉や野菜を長く保存できるよう塩漬けにして、沢山の瓶詰を作っていく。
オーブンが空いていれば保存の利くパンやクッキーもこまめに焼いているから、この季節は常に邸内中良い匂いが漂っているのよね。
『ねえねえ、次のお休み同じ日でしょ? お買い物付き合ってよ、お願い!』
『え~。じゃあ大通りのカフェにも付き合ってくれるならいいよ』
あはは、うふふと響く楽しそうな声。
元気な足音と笑い声は入ったばかりの娘たちかしら? そんなに走ると転んでしまってよ……あ、マリアの声。
『侯爵家の侍女として自覚をお持ちなさい』
厳しくも愛情深いマリアの声が廊下越しに響く。
きっと叱られた侍女たちは昔の私のように泣きべそを浮かべてるかしら。
どこに出ても、誰と会っても恥をかくことが無いようにと願う、マリアの気持ちをわかってあげてね。
まあ、私もそれを理解したのは最近のことだけど……。
小さくなる足音を聞きながら、廊下越しの様子を想像して小さく笑った。
王都の冬を迎えるのは前の生を含めてこれで4度目。
……でもこんな穏やかな気持ちで冬支度が始まるのは初めてだわ。
そんな気持ちで閉じていた瞳を開けると、鮮やかに色づいた淑女の木の葉がようやく気付いたのねと言いたげに揺れていた。
――初めての狩猟祭まであと数日。
お読みくださってありがとうございます
しばらくは不定期更新となると思いますので
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そして本日3月8日絶望令嬢の華麗なる離婚コミック4巻、コミックシーモア様から
先行配信始まりました!
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本作同様コミカライズの方もよろしくお願いします