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届いた手紙

再開するとか言っておいてお待たせしました(*'ω'*)

なぜこんなに忙しいのか。

秋の章の始まりでございます

 午前中に乗馬の練習を済ませた後、私はいつも通りの業務をこなすため執務室に籠っていた。

 

 乗馬の為だけれど、運動しているおかげかこうして座っていても体がずいぶん楽なのよね。

 ……特に腰が。


 狩猟祭に間に合わせる様にと鍛錬しているのだけど、軽い運動程度は日課にしてみようかしら。


 なんて手元の書類に目を通し決済のサインを終え、同じ姿勢でこわばった首や背筋をほぐすように椅子に座ったまま伸びをしたとき、執務室の扉からノックの音が響いた。


「ど、どうぞ」


 慌てて天に伸ばした腕を下ろし、髪やドレスが乱れてないか軽くチェックしてから扉に向かって声をかける。


 その声を合図に静かに扉が開くと家令のアンドルが何時ものように仰々しく一礼し、脇に置いてあったらしいお茶のセットを乗せたワゴンを押しながら執務室の中へ入って来た。


「奥様、お仕事中に失礼いたします」


「あら、アンドル。 珍しいもの押してきたのね」


 いつも人の仕事を奪うことはよろしくないと、必要以上に手を貸すことを避ける人なのに。


「ああ、ちょうどお茶を差し入れにとこれを押していた娘を追い越したところでして。 あちらの家の話をしに来たので、他者の干渉は奥様の意見を聞いてからした方が良いとの判断した上です」


 仕事を取り上げたわけではございませんよと、相変わらずの口調で答えるアンドルに笑いながら「そうなのね」と答えて立ち上がる。


 うん、こちらの(ローズベル)家なら構わないけれど、あちら(ロッテバルト)のお話なら納得だわ。


 執務室に備えてある応接用のテーブルセットへワゴンを押してアンドルが向かう。


 普段は執務机でお茶の用意をしてもらって仕事をしながら喉を潤すので、マリアに睨まれてしまうのだけれど改まった話らしいので私もそちらに移動した。


 ロゼウェルの屋敷で彼の叔父上にあたる辺境伯家の筆頭家令ローウェンから家令としての教育を受けながら、マリアの元で侍従として働いていた経験の賜物かアンドルの淹れるお茶も絶品なのだ。


 アンドルの優美と表現するしかない滑らかな所作でお茶の仕度をこなしていく姿を眺めながら、ソファに腰を下ろす。


「執務もひと段落したのであなたも急ぎの仕事が無いのなら一緒にどうかしら?」


「お気遣い感謝いたします。 ではお言葉に甘えて」


 アンドルはそう告げると伏せてあった予備のカップを返し、自分の分の紅茶を注いでから向かい側のソファに腰を下ろした。

 

 仕事中はどうしても甘いものが欲しくなる私とは違い、彼はどんな時であっても紅茶になにも入れないストレートを好む。


 私は目の前に丁寧に置かれた薔薇の形の砂糖を2粒落としてスプーンでかき混ぜる。

 程よく溶けたところにミルクを少し入れて一息つくことにした。


「それであちらの話って?」


 カップの中身を半分ほど飲み干してカップをテーブルへ戻す。

 アンドルもそれに気づいて視線を上にあげたので、私から話を切り出した。


「はい、先ほどこちらが奥様宛に届きまして」


「あら、お義父様からね」


 上着の内ポケットから取り出したのは一通の封書。

 封蝋に記された印章を見て、差出人が義父からだと理解した。


 領地の屋敷や周辺の村の問題は基本アンドルに丸投げ状態なので、義両親からのおねだりや村人の嘆願等は直接アンドルに宛てて来るらしいのだけど、これは私宛だということですぐに持参してくれたらしい。


「ありがとう。 そうね、内容次第ではうちの侍女()達に聞かせられない話かもしれないわね」


 うっかりヒステリー起こして叫ぶ姿を見せたくないし、こちらこそお気遣いに感謝よ。

 まあ、アバンほど非常識なことはなさらないでしょうから……と、心を落ち着かせながら封を開けた。


「…………え?」


 しばらく中の手紙に書かれた文面を上手く理解することが出来ずに、書かれた文字に視線を向けたまま固まってしまう。


 そんな私を見てアンドルが声をかける。


「奥様?」

「ああごめんなさい、予想もしてなかったことが書いてあったので驚いてしまって」


 領屋敷が炎上でもされましたか? なんて怖いことを呟くアンドルに首を振って否定する。

 まあ、させそうなのが二人もあちらにいるわけだからそれは『あり得ること』でしょうと返すと、彼は薄く笑いながら確かにって納得した。


 「ええとね、サリーナ様……お義母様がご懐妊されたのですって」


 アバンをお産みになったのが嫁いですぐと聞いたから、まだ30歳を過ぎたばかりだもの。

 ……ありえない年齢でもないわね。


「なるほど、それでこちらに来られないと?」

「いえ、安定期に入る頃にとは書いてあるわ。 こちらに来られることは変わらないでしょうけど冬の移動はお体に障ると思うから春まで伸びそうね」


 春か……。

 カイルから届いた勿忘草のメッセージカード。


 きっと今の生で貰うことはないだろう、私を慰めて支えてくれた3枚のカードのことを思い出して胸がきゅ、と痛んだ。


「……ではこちらで出来ることから致しましょう。どうせロッテバルトの血族は皆あちらに行っているのですし、侯爵家の抱えている医者も派遣することにいたしますね」


 この際だから領地の医療施設のテコ入れもしてしまいましょうか、と飲み干したカップをワゴンに戻しながら、休憩を終えたらしいアンドルが立ち上がって一礼する。

 

 アンドルがテーブルの上を片付けている間、提案されたことを頭の中で整理してからで頷いて応えた。


 領民もずいぶん戻って来たと聞くし、人が増えても支えるための基盤の整備が追い付かないのも困るものね。


「そうね、妊娠されるといろいろ体調が変わると聞くし……大変でしょうから少しでも安心できる方が良いものね、お願いするわ。 あとお祝いの品も贈らないとね、忙しい中大変だろうと思うけど、マリアと相談して候補をまとめて置いてちょうだい」


「了解いたしました。 奥様の心のままに何なりと致しますのでご命令ください」


 私のティーカップもワゴンに戻すと、アンドルはそれを押しながら廊下へ向かう。

 扉をくぐる際に振り返ると「これで心置きなく閣下と狩猟祭を楽しめますね」なんて、にっこりと絵にかいたような笑顔を向けていうものだから二の句が継げぬまま、彼を見送ってしまった。

 

 もうっ! きっと廊下で大笑いしているに違いないわ。


 

お読みいただきありがとうございました

まだ不定期連載になると思うので、続きが気になると思って下さったら是非ブックマークを

お願いします(*'ω'*)


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