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一人よりも

お久しぶりです。

漸く時間に余裕が生まれたのでなろうの活動の方再開いたします!

毎日投稿は無理そうなのですが、何曜日にアップみたいに決めて投稿できるようになると

いいなーと思っております。

あとがきに絶望令嬢コミック関連の速報書いたので目を通してくださるとうれしいのです

 馬に揺られている私を眺めながら庭を半周ほどしたところでカイルが告げる。

 次はとうとう手綱をもって馬を操る練習なのね。私に出来るかしら……と、まだ残る不安を伝えようとカイルが居た場所に視線を向けた。


 ……あれ? 居ない。そう思った瞬間のこと。

 

「失礼するね」

 

 本当に軽い。軽すぎる一言とそれ以上に身軽な動作で、カイルがひらりと馬の背に跨った。

 何をしているの? と声をあげようとした矢先、突然増えた重みに馬が、文句を言いたげに前足を大きく上げるものだから――。

 

「きゃあああっ」

「おっと……どうどう、いい子だ」

 

 大きく視界が揺れ、体が浮いた。

 投げ出される! と目を閉じたと同時に、背後から彼の右腕が私の体にまわされる。

 そして私の体をしっかりホールドしたまま、カイルはひょいという様にもう片方の腕で手綱を掴んだ。


 そのまま手綱を捌き、暴れて後ろ足で立ち上がろうとした馬を難なく制してしまう。

 馬は前足を地面につけ、まだ不服だと言いたげに地面を数回ひづめで掻くが、すぐにおとなしくなってくれた。

 

「はは、ごめんよ。大丈夫?」

 

「……もう、いつも突然なんだから。馬って繊細なんでしょう? 丁寧に扱ってあげて」

 

 ポクポクとゆっくり歩くひづめの音を聞きながら、後ろにいる彼へ振り向くことはせずに声を上げた。

 

「……全く君は、危険な目にあわされたことで詰られるかと思ったら。馬の心配のほうが先なんだね」

 

「……だって、カイルがこんなにそばに居るのに、何が危ないの?」

 

 そりゃあ、驚いたわよ。と続けてみたけれど……私が全幅の信頼を置いている人が、こんな傍にいて何が怖いのかと不思議そうに呟いた。

 

 そして、返事の代わりのように腰に回されたままの彼の腕に力がこもる。

 

「オリヴィア様がね、君の歳くらいならもっとお茶やお菓子、ドレスやおしゃれの話題で忙しい時期なのに、君は仕事ばかりだから心配されていたよ。社交界の中心にいるのに心のどこかは周りの令嬢達と少し離れた場所から眺めているみたいで」

 

 ……なんというか、達観しているように見えるってさ、と軽口めいた口調で告げた。

 

 頂点に立たれている方の洞察力の鋭さに、ドキリとしてしまう。

 

「そ、それはほら。私も立場があるし。両親の影響とか、ね? それを言うならあなただってそうでしょう?」

 

「まあ、年相応に感じないとはよく言われているけど。ナイジェルには子ども扱いを受けてばかりだよ。たったふたつしか違わないのにさ」

 

 そして「だから僕は年相応」だと、ずいぶん無理のある結論を言い放った。

 

 王妃様が最近お茶の席に招いてくれるのは、令嬢たちとの心の距離を案じて下さっているのかしら。

 乗馬に興味を持ったらしいと知って喜んでくれたとも。そのうち乗馬のお誘いもされるかもしれないわね。

 

「ほら、馬も落ち着いてくれたから、しっかり教えてちょうだい。手綱はどう持てばいいの?」

 

 王妃様の前で無様な姿は見せられないからしっかり習おうと意気込んでみる。

 

「……ああ、それはね。ここを持って。弛ませすぎると指示を出すのが遅れるけど、引きすぎると歩きづらくて馬がつかれてしまうんだ」

 

 このくらいの加減だ、と手綱を握る私の手に自分の手を添えて引く力を教えてくれた。

 

 ……早くひとりで乗りこなせるようにならないと、心臓がもたないかも。

 カイルと会う機会が増えて私の心臓は弾みすぎて休む暇がないけれど。最近はずっとこのままで構わないと、思う自分もいて混乱する。


 ****


 ひょんなことから余計に忙しく、でも賑やかな日々を過ごしていると、騎士を連れた辺境伯家の使者が訪れた。


 使者が運んでくれたものはバカンスの帰り際、父にお願いしていたもの。

 辺境伯の全権を委任するという書状なので、流石に手紙で送る訳にいかないわよね。とかなり大掛かりな人数で組まれた伝令となり、故郷から訪れた使者を歓待した。

 

 こちらに戻ってから乗馬の練習をしているのだと、折り返し父への伝言に混ぜて伝えたら、古くから仕える辺境伯家の使用人も父のエピソードを思い出したと教えてくれた。

 

「さて、必要なものは揃えたわね。あとは……」

 

 前侯爵夫妻が王都へ来られる日が私にとっての決戦日になるだろう。

 

 領地からあれ以来連絡が来ないことは少し気になるが、王都の知り合いに顔を合わせる為にこちらへ来るとアンドルから聞かされている。

 

 ずっと長く王都で暮らしていたおふたりなら、定期的な行事は把握されているだろう。

 

 それならこちらに来られるのは、狩猟祭の後かしら。せっかく来られてもご友人も森へ出かけて留守なのでは困るものね。

 

 家同士の婚姻契約を、破棄するために必要なものは全て揃った。私に勇気を与えてくれる人はきっとそばにいてくれるから、怖くなんてない。

 

「とうとう、あの夜と決別できる最初の1歩を踏み出せるのよ、エリザベス」

 

 絶望という色に染めあげられた炎の中、あの夜の私に伝える様に呟く。

 

 忘れることなんて出来ないけれど、それ以上の幸せで塗り替えられると思いたい。


 そんな決意を胸に秘めた私の前に、前侯爵夫妻の手紙が舞い込んで来た。



お読みくださってありがとうございます。

マンガPark様で連載中の「絶望令嬢の華麗なる離婚」第3巻が

コミックシーモア様にて本日9月10日から先行発売

9月5日から、全国書店で発売始収録巻です

ナイジェル様登場回、アリスとアバンのざまぁ回収録巻ですよろしくお願いします



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