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ひとりで出来るもん!

お久しぶりです、自動投稿設定ミスって投稿できてなかったオチです。

お楽しみいただけると幸いなのです、ごめんなさい

 乗馬の練習……といっても、私はただ馬に跨るだけ。

 手綱を引いて貰いながらひたすら庭をぐるぐると回ることが日課になっている。

 

 カイルも流石に毎日顔を出せるわけじゃないので、彼が同席出来ない日は手の空いている護衛騎士に付き添ってもらった。

 この練習のおかげか、皆との間にも話題が多少なりだけど、増えてたので侍女の中にも馬に乗れる娘がチラホラ居ることを知った。


 マリアが流行っているというだけあるのね……。

 

 始めて馬に跨ったあの日。初めて体験する、目がくらみそうな高さにまず固まってしまった。

 そこから歩き出すために更に時間が必要で「待って、お願い」と馬上で言い続けたのよね……。

 ようやく歩き出したかと思えば、馬が足を踏み出しただけで、直接伝わる振動の大きさに悲鳴を上げてしまう。途中で嘶いたり首を振ったりする仕草にすらおっかなびっくり。

 

「だって動くのよ」

 

 と、あの時の私はかなり真剣に訴えたのに……。

 

「生き物とはそういうものでございますよ」

 

 なんて少し離れた場所で練習を見守っていたマリアが答えた。カイルはなぜか私から顔を見せないようにして、肩を震わせていたように見えたのだけど……。


 笑っていたのよね、あれは。

 

 初めてなのだから、笑うことなんてないじゃない! なんて勝手に彼を恨んで、見てらっしゃいと私の負けず嫌いが発動した。


 次に訪ねて来たときは驚くくらい上達してあげるのだから! ……と、颯爽と馬を操る私を見て、驚くカイルを頭の中で思い描いていたけれど、現実はそうもいかないようで。


 ――あれから3日たった今も、まだ私は馬上でただ座っている人だ。

 

「奥様、かなり姿勢が安定されています。きちんと上達しておいでですよ」

 

 手綱を引いているのは当家の護衛騎士分隊長のイスラ卿。せっかくのお休みの日に、雑事に付き合わせるのは気が引けたけど「新米騎士の指導で教師役は慣れている」と言ってくれたので甘えさせてもらった。

 

 確かに乗馬の練習初日は、あらゆる部分から筋肉痛が起きて大変だったわ……。

 生まれたての小鹿みたいに、支えがないと歩けなかったくらい。でも今はそこまで体に負担を感じてはいない。

 ちゃんと体を起こして前を向き、景色や馬の様子を見る余裕が出来ている……と思う。

 

 周りの状況が見えるようになったのは上達の証よね。

 ……なんて考えながら、手綱を引いてゆっくり歩いているイスラ卿のつむじを眺めてみる。


 無骨に感じるいつもの甲冑姿でない、ざっくりとしたリネンのシャツに濃い色のズボンとブーツ。

 腕まくりしたシャツから覗く逞しい腕は日に焼けていて、連日鍛え上げている成果のような筋肉や血管が隆起している。


 静かに過ごされているのか、あまり表に出てこない休日のイスラ卿の姿はとても新鮮。

 

「奥様、跨っているだけとはいえ、馬上から落ちるだけで怪我をされますよ。乗っている間は気を引き締めていてください」

 

 ぼんやりと考え事をしているのが、ばれていたみたい。

 首を竦めて謝ると、きちんと前を見据えて馬の歩く振動に合わせる。ほんの少しの意識の差で、馬のほうも負担が減るのだそう。


 「人馬一体」が騎馬の理想なのだと馬を引きながら教えてくれた。

 

 ……ん? 『乗馬』で終わるのよね?

 

 我が家の騎士たちの助力のおかげで、この数日で『助けを借りずに馬にひとりで跨る』という目標を達成できた。

 抱き上げて貰ったり、踏み台がないと乗れないのでは、結局は緊急時に使えない。……と、思ったのでまずはそこから! って何度も繰り返し練習をした。

 

 鞍にしがみ付いてじたばたしていても、じっと我慢してくれていたこの馬 が、とても良い子だったのが大きいかしら。

 今日も美味しい人参あげるからよろしくね。


 カイルが侯爵家へ再び訪れたのは最初の日から数えて7日目のこと。

 

 洗い替え出来るように、数着乗馬服を新調した頃だった。

 前回は手直しをするために採寸を念入りにしてもらったので、2回目の直しは手早く済んでよかったわ。……それに心持ちウエストが緩いような。

 

 そんなわけで今日もスタンダートな乗馬服。


 前を大きく切り替えた、フロックコートの背中側の裾は膝を隠すくらい長さがある。


 それが気になるヒップラインや、ジョッパーズズボン特有の幅広の太股部分を隠してくれていた。


 それもあってか、タイトなジャケットも併せてすっきりしたシルエットを描き、腰回りには柔らかなドレープに女性らしい丸みのあるラインに沿うために精密に仕込まれたタック。袖周りにも繊細なレースがさりげなく施され、どことなくドレスに似た印象もあった。


 流石王妃様のお気に入りの職人の作。

 

「じゃあ、リズお手をどうぞ」

 

 この間と同じように、庭に連れて来た馬の前でカイルが手を差し出してくれる。

 

 カイルはライトグレーの乗馬服ね。裾の短いジャケットにジョッパーズ姿、だから今日は彼も馬に乗るつもりなのかも。

 

 なんて考えながら、カイルの申し出をやんわりと断る。


 独りで馬に近づき馬の鼻面を「今日もよろしくね」と、気持ちを込めてそっと撫でた。

 そして鞍を掴み、鐙に足をかけてから地面を蹴り上げる。浮いた身体を馬の背へ乗せるようにしながら、足を向こう側に置いて鞍に跨ってみせた。

 

「……リズ、君って」

 

 どう? 驚いたでしょう。

 

 きっともう自信満々の顔で、カイルを見下ろしていたに違いない。

 でも私の予想に反して、彼が取った行動はこうだった。


 顔真っ赤にして、そのまま顔を伏せる様に馬のお腹付近に顔を埋めてしまい、こう呟いた。

 

「……可愛すぎるよ、これは反則だ」

 

 そう漏らしてから、赤く染まったままの顔を隠すように俯きながら目線だけ挙げて私を見る。突然言い出すことじゃないでしょ! もう私にも移っちゃうじゃない!

 

 ……まあ、あとで聞いたら、自信満々に向けた顔が小さな頃の私そのままだった――


 だからですって。


確かに昔から不得意なことが出来るようになれば、真っ先に彼へ見せていたものね。

私ってもしかして全然成長してないの?


 ****


「でも本当にすごいよ、リズ」

 

「……そう? なら嬉しいわ。たくさん練習したもの」

 

 とはいえ、まだ一人で乗れるようになっただけだけど。

 

「もともと君はダンスも上手だし、出来ると思っていたけどね」

 

「でもまだ自分で手綱をもって歩くことも出来てないのよ?」

 

「大丈夫だよ、一番難しい所を覚えちゃったんだし。今だって何も言わずに歩きだしたのに、君は驚きもせずに揺られているだろう?」

 

 ……そういえば。話しながらカイルは、馬の手綱を引いて庭を歩きだしている。

 初日は歩き出すまですごい時間が必要だったし、それこそ馬の脚が動くことまで教えてって叫んでいたわね。

 ゆっくりだったのもあるだろうけれど、言われるまで本当に気にも留めていなかった。

 

「うん、しっかり乗れているね。これなら次に進んでも大丈夫かな」

 

コミカライズの2巻、本日発売しました(*'ω'*)

近況の方は活動報告の方に書きますね、地味に忙しくてなかなか進めなくてごめんなさい


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