表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/80

妖精の魔法と小さな恋

 式を終えてユリア様とお相手の令息にお祝いの言葉を告げてから、パーティのほうは辞退させていただき次の場所へと向かう。


 向かうのは貴族街の目抜き通り。

 都に初めてできたロゼウェルの仕立ての大店の支店のほか、宝飾店の開店準備に大忙しだったりする。


 勿論目玉商品は王妃様の名付けた混ざり気のない氷細工のような透明度を持つアクアティア。


 舞踏会で約束した王妃様へ献上するアクアティアでそろえた装飾品は、ロゼウェルの名工のまさに命を込めた渾身の出来栄えの作品。……見た時は震えたわ。


 大変喜んで下さった王妃様にお伺いを立て許しをもらったので、使っている色石の種類を別のものに変えデザインを簡素にしたものを売りに出せることとなった。


 それはディアオリヴィアというシリーズで冬あたりから店頭に並ぶ予定。……その前に侯爵家でお披露目の夜会でも開こうかしら。


 そしてロゼウェルならではの諸外国からもたらされた希少な宝石の数々を、王都で加工したものを売る計画もある。


 契約を結んだ王都の細工職人の手によって、重厚で繊細な王都らしい伝統的なデザインの宝飾品に使用してもらい売り出すつもりなのだけど。


 職人の方々も王都では見たこともない希少な石を手にして、子供のように興味津々にあれこれと意見を出しては熱心に取り組んでくれている。


 楽しんで仕事に取り組んでもらえているようで、私も嬉しい。新しい流行や文化が生まれるといいな。


 意欲的に視察を続け、会合がてら少し遅いランチを食べた。


 職人達の作業場にも顔を出させてもらい、仕事のことから待遇面まで様々な話を聞かせてもらう。


 こんな汚いところでと恐縮する彼らに笑顔で答え、手が汚れるのも構わず道具を触らせてもらったりしながら、問いかけ続ける私を見て驚いていたわね。


 ロゼウェルの職人街が第2の我が家のようなものだから、懐かしい雰囲気についはしゃいでしまったかも。


 ***


 本日最後に赴く予定の場所はアルルベルの住むラルボ伯爵の邸宅。


 勿論事前にお約束をしているのでご両親も揃っていらっしゃる。


 ロゼウェルでお話をすることも出来たのだけど、お茶会のお手伝いをしてもらっていたのでついでのようにお話しする事ではないからと、王都に帰ってから改めての訪問となった。


 アルルベル嬢の家に向かうまで他の用事があったため、職人街の会合の後で同行者と落ち合った。

 午後に半休を取ったらしいロッテバルト侯爵家の騎士団分隊長の補佐官殿。


 まあ、実際は辺境伯家の騎士団から派遣されている分隊という立ち位置らしい。訓練や交代も基本的に辺境とのやり取りだものね。


「奥様っ……こ、この度はお日柄もよろしく!」


 待ち合わせ場所に指定していた商会の建物の前で、私が出て来るのを待っていた彼は私が出てきたと同時に、言葉を嚙みながら突然口上めいた挨拶を言い始めた。


 くすんだアッシュブロンドの癖のあるショートヘアと珍しい白緑(びゃくろく)の瞳を持つ当家の騎士ショーン・ウェル。


 今日は騎士団の略式の礼服。髪も珍しく整えているので一瞬誰かと思ったけれど、この慌てようで誰なのかを理解する。


「待って、待って。落ち着いてちょうだい。お日柄がいいのは結構だけどそれはあちらのご両親に言ってあげて」


 深呼吸して落ち着きなさいと告げる。促した通りに大きく深呼吸を始める素直な青年の背をポンポンと叩いて馬車へ同乗させた。


 本日は彼とアルルベルのご両親との顔合わせの日。


 ロゼウェルに住んでいる彼のご両親からは『息子に任せる』という言葉も頂いたので、彼の同伴者はとりあえず一番上の上司である私となった。


「いや、だって、奥様。俺の顔を見て嫌がられたらと思うと……」


「え? そこからなの?」


 話を聞いてみるとあの妖精たちのお祭りの夜、酔いつぶれてしまった私と介抱に付き添ってくれていたカイルが立ち去った後、責任をもって令嬢たちの家まで送り届けたという。


 勿論アルルベルの屋敷まで送り届けもしたが律義な彼は、妖精祭りの習いに従い仮面を外すことなく立ち去ったのだという。


 その後は私の里帰りに同行していたのでアルルベル嬢と直接会う機会も作れずでの今日だとのこと。


「大丈夫、あなたを気に入ったと言い出したのはアルルベル嬢なのよ。あなたの真摯な心に惹かれたのでしょう?」


「でもほら……ご令嬢達は大公閣下のような立派な人が好きでしょう?」


 俺はしがない騎士ですし……とショーンは肩を落とす。

 ああ、ここにイスラ卿が同行してなくてよかった。馬車の中で惨劇が起きそう……。


「ショーン。あれと比べたらだめよ……」


 まあ確かに、祭りの時も突然参加したカイルにご令嬢達は熱い視線を向けてはいたけど、恋しいお方へ向けるとは違うものに感じた。


 それになによりもアルルベルは割とあっさりした対応していたし、何より彼がいたところでショーンが気になるとまで言ってくれたのだからね……っ!


「まあそろそろ覚悟を決めなさい.もうじきラルボ邸に到着してよ」


 おかげでこちらが緊張する暇もない。緊張感が振り切れたか小刻みに震えだしたショーンを横目に、馬車は私たちを乗せてラルボ邸の門を潜り抜けた。


 馬車が止まると流石に覚悟を決めたのかショーンはそれなりに落ち着いた様子。先に馬車をおり、私が降りる手助けをしてくれる。


 差し出された手を借りて馬車を降りたところでアルルベル嬢が小走りに近づいてくる。


「エリザベスお姉様、いらっしゃいませ」


 相変わらず愛くるしい彼女を見てほっこりしながらお互いカーテシーで挨拶をしあう。


「ほら、あなたも挨拶なさいな」


 突然現れたアルルベル嬢を見て固まっていたショーンを肘先でつつくと我に返った彼が頭を下げた。


「す、素顔では初めましてです。あの夜に貴方の護衛の栄誉を賜ったショーン・ウェルです」


「はい、やっと魔法が解けたのですね。この姿では初めまして、アルルベルです。ラルボ伯爵家の次女です」


 魔法がかかっているうちは素性がわからないまま、ということね。

 ……もっと早くにお話を纏めたらよかったのかしら。


 ふたりの挨拶が終わった時、傍で見計らっていたのかラルボ伯爵夫人が玄関の扉を開けて中に入ってもらいなさいとアルルベルに声を掛けた。


 そしてお茶の仕度をしてあるのだと告げながら私たちを先導するアルルベルの案内を受け邸内へと迎えられていく。


 品のいい彫刻や絵画の置かれた落ち着いた雰囲気の応接間に通される。室内にはラルボ伯爵が先に居た。


「ああ、ロッテバルト侯爵夫人。お久しぶりですな、ご健勝そうでなによりです」


「こちらこそ、お久しぶりです。そして我がローズベル家の夜会にも参加くださって誠にありがとうございます。ラルボ伯爵。ロゼウェルにも長い間滞在なさってくれていたそうで。気に入っていただけたのならなによりですわ」


「私もそうだが家内たちが大変気に入って。またバカンスへ入った時に伺わせていただきます……で、そちらが?」


 伯と挨拶を交わした後、隣にいるショーンの存在を問う声に私も姿勢を正す。そして手のひらを上にして彼へ向けた。


「こちらが我が侯爵家の護衛騎士。騎士団分隊長補佐役のショーン・ウェル卿です。実家のウェル子爵家はローズベル辺境伯家を古くから支えている家門です。ウェル卿の父君は今も現役でローズベル辺境伯家の海軍で将官をされている武人の家ですわ。彼もこの若さで分隊長補佐に付くほど将来有望な青年です」


 自他ともに軽いと言われているらしい彼だが、仕事対する実直さはイスラ卿も認めている。


 もう少し年齢を重ね経験を得て落ち着くようになれば、なかなか有望な青年に育ちそうだし『今がお買い得ですよ』と念を込めながらラルボ伯爵に彼を売り込んだ。


 伯爵はロゼウェルを訪れた際、海軍の訓練風景も見学したらしい。大型の帆船を見たとショーンに話題を振る。


 そしてお茶を淹れてくれた夫人やアルルベル嬢も話の輪に加わると、話はロゼウェルでの話題一色となった。故郷の話題に囲まれているうちに彼の緊張もずいぶん解れたようで、話の合間に笑顔がこぼれ始めている。


 その笑顔を見てはアルルベルが頬を染める様子を見て、ショーンの心配は意味のない事なのだと感じる。


 でも、自分のことになると、全然わからないのはどうしてなのかしら……。

主人公より先にまとまるカップル二組目でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ