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まずはお掃除

今日は3話投稿予定です

「……さて、旦那様(棒)の許可も貰ったことだし、さっさとごみ掃除をしてしまいましょうか。アンドル、マリア……あとイスラ卿、ついてきて頂戴」


「「「 はい 」」」


 アバンに紹介した三人を従えてまずは横領執事のハウルを閉じ込めている空き部屋に向かう。


 逃亡出来ないよう部屋の中と外に一人ずつ騎士も配置しておいた。部屋の前に立つ騎士が私たちに気づき一礼したのでそれに軽い会釈で応えた。


「何も問題はなくて? 開けてちょうだい」


 声をかけると騎士は扉の施錠を解除してまず最初に部屋の中を確認した後私達を通してくれる。


「エっ……エリザベス様、酷いではないですか、なぜこのような仕打ちを私めに」


 寝起きに私と到着したばかりの騎士とアンドルの強襲を受けシャツと黒の長ズボンという簡単な服装で閉じ込められていたハウルが私の顔を見て叫ぶ。


 近づこうとすれば室内にいた騎士と私の隣にいたイスラ卿が取り押さえ、そのまま引きずるようにして距離を取らせた。


「あら、驚いた。自分が何をしていたのかもわからないの? アンドル、説明してあげて」


 私の代わりに傍で控えていたこの屋敷の家令となったアンドルが前へ踏み出し、ハウルの傍へと近づいていく。


「はい、奥様。……では、ハウル殿……明け方ぶりですね、挨拶が遅れました。私は元ローズベル辺境伯家の次席家令、現在はロッテバルト侯爵家の家令を任されたアンドル・フィズローと申します。若輩者ですがよしなに……ああ、貴方とは今日限りのお付き合いになりそうですね」


 なら覚えなくとも結構、と温度の無い声色でハウルに向かい仰々しいまでの深い礼を執る。慇懃無礼ってこういうことなのね……。


 長い黒髪を後ろで束ね、冷たい灰色の瞳をモノクル越しに覗かせながら口元だけ笑みを浮かべるアンドルの圧に負けたのか私に食って掛かってきた勢いはどこへやら、気圧された様子を見せるハウルが小さく唸る。


 それとも何かしら、祖父の代から100年以上も仕え支えてきたのにいまだに執事以上の役割を与えられずにいたのに、目の前に現れたぽっと出の若造に家令の座をかすめ取られて悔しがっているのかしらね?


「一介の執事に帳簿を任せたきりでチェックのひとつもせずにいた、侯爵家の姿勢もどうかと思いますが……。こんな改めなくとも見れば子供でも分かる穴だらけの帳簿、いくら上がバカであろうと、もう少し頭を使って戴きたいものですね。

 まだ今年度分しか見ておりませんが、不透明な流れで消えた金額は650万リエル(1リエル=1円でお考え下さい)。

 この勢いで行くと年間1500万リエル以上は使われぬままどこかに消えている事になりますね……」


 前当主が起こした事業はことごとく失敗に終わり広大だった領地を切り売りした結果、侯爵家は領屋敷の周りの痩せた畑と森林地帯の領地のみとなった。


 微々たる額の税収以外は王宮の閑職官僚の俸禄のみで他はろくな収入源などなく、新しく我がローズベル家と提携した事業での利益配分が今現在の主な収入だろう。


 それをすでに横からかすめ取られていたのだ。


 ウハウハですかねと馬鹿にした声でアンドルが告げた後検分を終えた帳簿をパラパラとめくりながら微笑んだ。それに相反するようにハウルの顔はどんどん青ざめていく。


「……おっ……お許しください! 出来心だったのです。侯爵家へ仕える忠誠心に変わりはございません! ……どうか私めにチャンスを、貴方様の下で精いっぱい働かせてもらいます! 執事……いえ、フットマンからでも構いません、どうか……ッ」


 帳簿を読み取れる者が味方以外で現れたことを、ようやく悟ったハウルが慌てて頭を下げる。


 まあ侯爵家を推薦状もなしに追い出されたら、他の家だって雇ってもらえるところなんてないでしょうしね。


「謝る相手が違いますよ。この家の内政の統括を担う方の邪魔ばかりしておいて、悪いという思いすらないようですね」


 ハウルがランドルの言葉を聞いてハッとした顔で私を見つめる。表情を見せないように口元に扇を当て、すがる瞳からス……っと視線を逸らすとハウルの顔が絶望に歪んでいく。


「そ、そうだ! アバン様がこんなことお許しになるはずがありません! アバン様に会わせてください、あの方ならわかって下さるはず……!」


「残念だけどあなたより大事な幼馴染の下にいらっしゃるわ。それにこの件はあの人が私にすべてを任せるとおっしゃったの、使用人の雇用は私の仕事ですから、問題を起こした使用人の処罰も私が裁定するものよ」


「で、では奥様……ッどうか、どうかお許しを。かすめた金はお返しいたします、心を入れ替え下級使用人からやり直しますので此処に置いてください」


「分が悪くなって最後の最後で初めて私を奥様と呼んだわね。そんな主人を侮り続けるような者、馬小屋番にすら置いておけないわ。

 それに大丈夫、放逐なんてしません…………貴方が行くのは憲兵隊舎の獄舎だもの。此れからあなたの部屋と家の中を調査するわ。

 貴方が仕えていた時代より前の年代の帳簿も改めましょうか。一族総出でかすめ取っていた財産を耳をそろえて返していただきましょう」


「そんなことをされたら私の立場が……ッ」


「悪事に手を染めて築いた財産で作った立場など、子供が砂場で作った山よりも価値の無いものよ。貴方の一族全ての者が、あなたと父や祖父のせいで大きな借金を背負い奴隷に落ちるの。忘れないでね、あなたの選択がそれを起こしたのよ?」


 がくりと膝を突くハウルを見下ろしていれば、詰所から憲兵が到着したと連絡が来たので部屋にいた騎士たちへハウルを引き渡すよう頼んでから次の部屋へと移動していく。



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