幸せは連鎖する
バカンスシーズンが始まり、王都から多数の貴族達がそれぞれの自分の領地や保養施設のある都市、別荘とそれぞれの目的に合わせて散らばっていく。
私の実家のあるロズウェルから数台の馬車が十数台の荷馬車を引き連れて侯爵邸へ辿り着いた。
馬車には王都に残る使用人たちの家族や親類、故郷に残る家族からの手紙や届け物など様々な人や物を連れてみんなに笑顔をもたらしてくれている。
私宛に両親から手紙が届けられた。
「……これから帰るのに、もう」
嫁ぐ前は此処まで親ばかだったかしらと手紙を開けば王都に展開し始めた支店の店長たちへバカンス中の指示をいくつか出し忘れていたのでつけ足しておいてくれという伝言で、思わず半目になってしまう。
……まあ、王都を出る前でよかったと思いましょう。
旅行の支度はマリア達に任せきりにしたまま、出かける間際まで忙しく動き続けていることが出来る。
だから、余計なことを考えずに済むのはとても有難いの。
◇◇◇
妖精の祭りから夜が明けて数日程、カイルへの気持ちに気づいてしまった私は寝室のベッドから一歩も出られない文字通りの謹慎・自粛の時間を過ごしていた。
部屋から出てしまうとすでに侯爵邸内の使用人たちにすっかり認知されて出入りがフリーになっていた神出鬼没なカイルといつ、どこで顔を合わせてしまうかわからなかったから。
女性はどれだけ頑張って忍んで居ようと、かさばるドレスや淑女を気遣って当然な使用人たちに囲まれて居場所がばれるけど、男性陣はもう機動力からして違うんだからホント不公平だわ。
ナイジェル様を見習って先触れくらい出しなさいよ、もう!
結局何の解決も出来ぬまま、ナイジェル様から舞踏会の件の報告書が舞い込み、被害に遭われた令嬢やご夫人の皆様の元へ謝罪ではなく見舞い、という形で訪問させてもらうことになった。
不貞を働いた挙句騒動を起こしたアバンとアリスの罪を私が負う必要はないと言う嘆願が舞踏会へ参加された様々な立場の貴族、被害に遭われた家の当主様からも提出されたからだとナイジェル様が教えてくださった。
そして王家の代表としてナイジェル様、迷惑をかけた侯爵家の家の者、そして見舞いの代表として私、なぜかその場のエスコーターとしてカイルが連名で各家の見舞いに足を向けることとなった。
国の頂点に並び立つ高貴な血を持つ二人を従え、爵位に関係なく平等に来訪させてもらえば王族の来訪などほぼあり得ない男爵家や子爵家の皆様はお二人の訪問を末代まで語りつぐ最高の誉れと涙ぐんでらしたわね……。
「当家のアリスの不作法で大事なご令嬢のドレスと夜会の場を台無しにしてしまった事、お詫びのしようもありませんわ」
長女様の婚活がてら参加されていた子爵家のご夫妻にそう頭を下げると
「いいえいいえ、実はあの後着替えにと王家の方々から提供していただいたドレスなのですけど。歴代の王女様、王妃様のお召しになられたものばかりで逆にこちらがお支払いするべきかとハラハラしたのですわ。
でも無償で下賜下さいまして王宮付きの侍女様の手を借りて娘を此れでもかと着飾らせていただいた結果、伯爵家の次男様と良い縁が結ばれそうなのですの。逆に感謝したいくらいですわ」
「まぁ、そんなことが」
「はい、王太子殿下も未婚の令息を引き連れて、若い者の出会いに尽力して下さいました」
「私が愛すべき伴侶を持つ幸せを手にしたからね、これから私を支える臣下達もその幸せを味わってほしいからだよ」
王妃様との話し合いに遅れた理由はそれなんだそうだ。
柔和な笑みを湛えるナイジェル様は私やカイルを揶揄って笑い転げる笑い上戸なところは微塵にも見せぬまま、貴公子然とされている。顔面詐欺よね、ほんと……。
「私の片腕を担う者もいつまでも独り身では何かと心配なのだけどね」
何処から切り取ってもカイルのことをおっしゃっているのに当の本人は涼しい顔をして出された紅茶をすすっている。
「でも、それは、ほら……時間が解決してくださりそうですわ」
どことなく楽しげな夫人がナイジェル様に言葉を返している。
そうよね、カイルだっていつまでも一人で居られるわけがないもの。
この気持ちに蓋をしていられる間に、貴方を心から祝福できる間に決まって欲しいわ。
「ん~……先は困難かもしれないねえ」
ナイジェル様は私の顔をちらりと眺めた後、夫人と楽し気にカイルの今後の話に花を咲かせていた。
全ての家に訪問させてもらった後でわかったのですけど、アリスのナプキン代わりにされたご令嬢達皆さん婚約者を探しに舞踏会へ参加なされていて、アリスに対峙してくださった勇気あるユリシーズ子爵家のご長女のテレア様も含むすべてのご令嬢が良縁を結ばれたとのこと。
おかげさまでと言うかバカンスが終わったら、各家の婚約式に招待されたので秋の社交シーズンも目が回るほど忙しくなりそう。
◇◇◇
王都に点在する支店の責任者の元を訪問して、伝え漏れていた事項を知らせていく。
仕事の話が済めばすっかり懇意になり親しくなった支店長たちにロズウェルに戻るのならと本店との連絡や、試作の運搬から果ては家族や親族との手紙を運ぶよう頼まれ、帰る足だから問題ないと快諾する。
侯爵邸に戻ると荷造りはあらかた終わっていた。私さえよければいつでも出立出来るとアンドルが知らせてくれたので、いればいるほど雑用が増えて出ていけなくなりそうなのでそのまま出かけることにする。
街道の事業はまだ始まったばかりだけれど、途中の街道沿いの宿場町は随分と整備も進み、様々な階級向けの宿屋がオープンし始めている。
行きはゆっくりと宿場町に滞在して、特色や名物品になりそうなものを確認したり、宿などの設備について客側の立場としてのレポートを頼まれているので、今疲れたとしてもすぐに癒しが待っているのだから問題ないのよ。
「じゃあ、アンドル。暫く留守にするけど侯爵邸のこと頼んだわ」
「はい、侯爵邸のほうは何も心配せずこのアンドルにお任せください。奥様の帰宅まで万全を期してこの侯爵邸をしっかりと守っておりますので、奥様もゆっくり旅をお楽しみください。ロズウェルの当主様達もご壮健であられることをアンドルが心よりお祈り申し上げておりますとお伝えくださいませ」
「わかったわ。伝えておきます」
そうして残る使用人達に見送られながら、ロズウェルからやってきた馬車は来た時以上の人と荷物を載せて、故郷を目指して動き出した。
宣伝のおかげかロズウェルの街に向かう王都貴族の数も多いらしい。
人が増えればトラブルもまた増えるもの。
それを実感するのはもう少し後のお話。
カイルとエリザベスの関係がどう変わっていくか、楽しんでくださると嬉しいです
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