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どうしてこうなるの? 後編 ※アリス視点

「そこまでだ、娘、命が惜しければそれ以上奥様に近づくな」


 背後から、冷たい声が届くと同時に私は地面に倒れ伏した。


 全身に生まれて初めて打ち付けられた鈍く重い痛みを感じるが、何が起きたのか確かめたくても頭を地面に押し付けられるように押さえられていて頭を上げることも出来ない。


 どうして私がこんな目に遭わないとならないの!?抗えずに押さえられ抵抗することの敵わない状況に、初めて怒りを通り越えた焦りと恐怖が心を支配する。


 私はこんなところで死んでしまうの?嫌、嫌よ、私はアバンのお嫁さんになるんだから……ッ!




「おやめ、一応は女の子なのよ。力任せは良くないわ」



 まるで天から降り注ぐ許しの声のように響くおば様の声、押さえていた力が緩み体を起こされた。

 まだ後ろから肩を掴まれたままだけど呼吸がしやすくなってほっと息をつく。


「久しぶりね、アリスさん。見ないうちにまたお母様によく似てきてらっしゃること」


「おば様っ私……ッ」


 何かの誤解なのかしら、おば様の騎士様にこんなことされる意味が分からない、腕を放してほしいと訴えようとおば様に声を掛けようとすればまた、上半身が地面に押し付けられた。


「平民が許しもなく奥様に言葉を掛けようだなんて命が惜しくないのか?」


「なに、を……言ってるの、おば様と私は……仲良……きゃああっ」


 肩を掴む手に力が入る、それだけで肩が拉げてしまいそうなくらい痛い。


「黙れと言っているんだ」


 低い声が耳に響く。わかった、と知らせるように何度も首を縦に振ってみせた。


「学習能力が低いのは相変わらずのようね、お馬鹿さん。今も相変わらずお勉強が嫌いなの?」


 ……おば様はいったい何を言っているの?

 ……いつもみたいに微笑んで可愛いアリスって呼んで下さらないの?


「もう、いいわ。放してあげてちょうだい。話が進まないし、私今日限りにしたいのよ。話しかけることをこの場だけ許してあげるわ」


 おば様の声に忠実に従う背後の騎士達が私から手を放す。


 痛みは酷いけどどうにか体を起こしておば様の顔を見つめる。


「……貴方、あの子が婚姻した後も懲りずにあの子の傍に張り付いていたのですって?流石の血筋と言うべきかしら」


 おば様が椅子から立ち上がりゆっくりと近づいてくる。


 私を見下ろす薄青の瞳はまるで氷柱の様な鋭さと冷たさを以て私を見下ろしていた。


「……血筋って…何を」


「あら、知らないの?……貴方にも母親のリリンにも……たっぷりと色濃く流れる『泥棒猫』の血のことよ。妻のいる男を横取りしようとする卑しい女の血が凝縮してるじゃない」


「泥棒猫はあの女の方よ!私はアバン様の本当のお嫁さんだもの!!」


「お黙りなさい!」


 初めて聞いた、おば様の叫び声。

 まるで蒼天の中突然落ちた落雷のような鋭い怒号に言葉が詰まる。


「お前の母は……先代の男爵に買われた卑しい流民の娘だったわ。行儀見習いに侯爵家(我が家)に侍女として入り込み(キリウス)だけでなく私から息子を奪い取った。


 子を腹に入れた私と夜を過ごせぬ夫に甘い言葉と体で近づき妊婦ですらないのに乳母(ナニー)の座を掴み取り、生まれたばかりの吾子は一度も私の胸に抱かれることなくあの女に奪われたの」


 そんなの、私は知らない。


 お母様はアバン様のお世話を任された優秀な乳母で、お屋敷の人たちから慕われていた人なのよ。


「そしてそのまま一度も男爵家に宿下がりもしていないのに、お前をお腹の中に収めたのよ。そんなお前があの子と結婚?ふざけないで欲しいわ。……我が家をあの嫁の家どころか、国教会からも見捨てられるように企んでるの?」



 どういう事……?おじ様とお母様は愛人の関係……男爵家……お父様に関わることなくお母様は私を妊娠して……。


 まさか……。



「……私は、アバン様の妹……?」



「もちろん、侯爵家は貴方を認めることはありません。貴方は、平民の家名の無い(アリス)。それだけよ。勿論、息子にこの話をしたら、お前の魂がその肉体から別れることが早くなるだけ……わかったのなら私の前から消えてちょうだい」


「……おば……奥様……」


「心配しなくとも、王家との約束は守ってあげる。5年、おいてあげるから教養を身に付けてどこかの貴族の家にでも侍女として奉公なさい。それがあなたの幸せよ」



 そうして翌日から奥様は私にメイドを一人つけてくれた。


 身の回りの世話をさせるわけではなく、身の回りのことを出来るように教わる教師役として。

 少しずつ自分のことを自分で出来るよう。


 やはりおば様は優しい方のままだった。




 ◇◇◇




 おまけ――― 前侯爵(キリウス)視点




「ねえ貴方、一度王都の屋敷に伺いませんこと?あの子たちは暫くは王都に戻れないでしょう?かと言ってほうって置くわけにも行かないわ」


 身支度を終えてベッドに寝転がるサリーナが王都に一度戻ろうと提案してきた。


「そうだな、馬鹿息子の代わりに頭を下げに行かねばならぬな……しかしバカンスは嫁殿は実家のほうへ戻ると言っていたぞ」


「もちろん、向こう様の許可もいりますから今日明日のお話ではありませんわ。バカンスが終わったころなら私も多少の長旅なら医者も許可してくださるでしょうし」


「何?どこか具合が悪いのか?」


 商人が訪ねてきたら王都の名医を派遣する手続きを取らないとか?


「病気ではありませんけど、あまり時間を空けると身動きが取れなくなってしまいそうで……用事を済ませた後ゆっくり貴方と二人で思い出の場所を見たいのですわ」


「……ま、さ……か」


 思わず声が震えてしまう。馬鹿息子にハッパをかけ危機感を煽らせてやる気を引き出すために告げた言葉が真となったのか。


「本当はもう少し黙っていようと思ったのですけど。……三か月になりましたわ。バカンスを終えた頃が安定期ですの」



 優しく微笑む妻の顔、聖母の如し輝かしさよ。


 神よ、世界の理を見つめる神よ……愚かな罪深きこの男へ与えてくださった恩寵、誠に感謝いたします。

次回はエリザベスの物語に戻ります。ロズウェルの街編スタートです

******************


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