表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/80

どうしてこうなるの?・前編 ※アリス視点

 アバン様は薄汚れた馬車に騎士達と共に乗せられてからずっと私を無視している。


 私が平民ですって?そんなのありえない!だって、誰もあなたは平民になるのですよって教えに来なかったわ。役人が来たりするって聞いたことがあるもの。


 王子様が教えてくれた気がするけど、高貴な方の御冗談だわ。だって王子様は役人じゃないものね!


 私にいじわるをして気を持たせようとされたのね。カイル様をけん制されていたに違いないわ……ああ、夫を持つ身でありながら王宮で最も高貴な血を持つお二人の愛に翻弄される・わ・た・し♡


 本当に神様はなんて罪深い宝物(わたし)をこの世に贈ってしまったのかしら……。


 まあそれはそうと、没落に関してはそこらの貴族より知っていることが多いもの。


 下級貴族の中でも末端になる男爵家に生まれて、上位の連中から下に見られる日々の中楽しみなのは蹴落とされる他者の話。

 特に痛快なのは家が没落して突然平民に堕ちるバカな貴族の話よ。


 侯爵家の名を使えばいくらだって集まってくる下位の貴族娘(とりまき)達とのおしゃべりの話題でもよく出てきたわ、だから詳しいの。


 もしそうであったとしてもお優しい前侯爵様(オジサマ)前夫人(オバサマ)が助けてくれるはずよ。

 私は侯爵家に仕えた忠臣の娘、いつでも頼りなさいと言って下さっていたもの。


 貴族に戻りさえすれば、アバン様との結婚だってもう誰にも邪魔は出来ないはず……ッ!



 ◇◇◇



 つまらない馬車の中だけの生活からやっと解放されて、初めて見る領屋敷の前で案内されるのを待っている。


 途中の村や町に貴族が泊まれるような高級宿が無いからと途中立ち寄ることも出来ずにずっと馬車に揺られていた。


 宿がないのはド田舎だから仕方ないけど、名物の料理やお菓子とかあるかもしれないし、アバン様と見知らぬ街を散策するロマンチックな機会も台無しにされてしまった。


 お付きの騎士は王宮付きの騎士と言うからみんな高位貴族の令息かと思い家名を聞こうとすれば皆揃って平民上がりだというし……がっかりだわ。


 でもきっとこれは王子様が私を他の令息の目にとまらせたくないという可愛らしい嫉妬なのね!フフ、我慢してあげる♡


 考え事をしているうちにアバン様は執事と話が終わったようで部屋に案内してくれるというので一緒についていく。


 屋敷の中に入るとメイドが一人私の前へと近づき


「では、部屋に案内します」


 と、アバン様達が向かう方向とは別の廊下へ向かおうとする。


「ま、待って、アバン様達はあちらに行ったのよ?どうして私だけ」


「どうしてと申されましても……平民の方と高位貴族の方々を同格の客室にお泊めするわけにはまいりませんので、こればかりはどうかご容赦を」


 そう告げてメイドは軽く頭を下げると踵を返してどんどん進んでいってしまう。


 仕方ないのであとを追いかけていく、案内されたのは平民や商人の連れて来た使用人たちが泊まるような客室。

 一応その中でも部屋の中に風呂もある一番良い部屋だそうだけど、王都の侯爵邸で私が使っていた部屋と比べたら犬小屋みたいな狭さね。


「では、何か必要なものがあればそこのメモに書いて扉に挟んでおいてください、気が付いた者が回収しますので。風呂は湯を張ってすぐ入れるようにしてあります。着替えなどは持たずに来られたという事なのでこちらで見繕っておきました。ご自由に使って下さってよいそうです」


 失礼しますと告げると、そのまま部屋から出て行きそうなメイドを慌てて捕まえる。私一人でお風呂も着替えも出来ないのよ!?


「あの、私付きの侍女はどこに居るの?」


「……伺っておりませんのでわかりかねます」


「じゃあ、貴方がなって、私の侍女にしてあげるわ!」


 メイドから侍女になれるっていい事よね?あの子たちも喜んでいたし。

 前の屋敷でも五人の侍女に囲まれて暮らしていたのよ。一人で過ごすことなんて無理、絶対無理なの!


「私にはほかの業務がございますので、そういうお話は奥様に申されたほうがお早いかと」


 メイドは私の手を振り切って部屋から出て行ってしまった。


 仕方がないので自分で湯あみをする。


 もともと一人で脱衣出来るように作られてないドレスは背中のファスナーを下ろすのに苦労して背中の布地ごと裂けてしまったけど、あとで誰かが直してくれるだろうから放っておいた。


 侍女がしてくれたことを思い出しながらやってみたのだけど体を拭く前に髪を絞って水けを取らないといけないことも知らなかった私の湯あみのあとは乾いた床の上にあちこち水たまりを拵えることとなっていた。


 水を吸った重い髪が鬱陶しい。


 もっさりと固まったような髪の毛を漉いてくれる者もいない。

 鏡台に置いてあった櫛で絡まる髪と格闘して、どうにか絡まりはほどいたけど、髪を編むとか纏めるやり方はわからないからそのままにするしかなかった。


 クローゼットの中にあった服は私には似合わない地味なものばかりだったけど、一番ましな感じの服を引き出してそれを着た。


 靴は今まで履いていたものしかないみたい、日中ずっと履き続けてたから形が崩れ、薄汚れているけど裸足で歩くわけにいかないので我慢して履いておく。


 そうして支度を終わらせた私は廊下を飛び出しておじ様とおば様の姿を探すことにしたの。



 ◇◇◇



 おば様は中庭の東屋でお茶を頼んでいらした。


 テーブルの上には王都の高級パティシェの新作のお菓子が盛られたお皿が並んでいる。


 それでも王都より不便な土地で苦労されたのか、以前はふくよかだった身体は些か肉が落ちていたが、すっきりと細くしなやかで、お胸やお尻はボリュームのある豊満さを残したまま、流行のドレスに身を包み、少し白いものがあっても気にならない淡い金の髪とアバン様と同じ薄い青色の瞳は美しく煌めいていて、コケティッシュな魅力をふりまいている。まさに私の理想とする淑女。


 憧れのあの方は、サリーナ・ルルド・ロッテバルト前侯爵夫人。



「お久しぶりですわ、おば様!私、アリスですの、アバン様と一緒にお城にお呼ばれしました」



 あのすっと切れた切れ長の美しい瞳が弧を描き、以前と同様に私の名を呼んで立ち上がり、腕を広げて私の来訪を喜んでくださるおば様の、柔らかで暖かな胸に飛び込むのを待ち構えているのに、おば様は私に視線を向けるどころか声も届いてない様子でお茶を楽しんでらっしゃるわ。


 仕方ない、もう少し近づいてお声を掛けましょう。




「そこまでだ、娘、命が惜しければそれ以上奥様に近づくな」



 背後から、冷たい声が届くと同時に私は硬い地面に飛び込むように倒れていた。


予想より伸びてしまった設定を刈り切れませんでした。もう一話続きます。

***************

もしも『面白かった』や『続きが気になる』などと感じて頂けましたら

広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援してくださると

モチベ上がります、嬉しいです。

更新情報を素早く知りたい方はぜひブックマークもお願いします。

どうぞよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ