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幼馴染との再会

3話目です。

0時ちょっと過ぎくらいに4話目を投稿します。

 翌日、身支度を済ませると朝食もそこそこに、友人のタウンハウスに招かれたと告げて出かけることにした。

 もちろん約束など取り付けてはいるわけもないが、地方の貴族たちも社交のシーズンで王都に居ることが多いので嘘には聞こえないだろう。


 とりあえず、ローズベル家の人間でいるうちにやっておかないとならないことでの最優先事項は、王立銀行に行き私名義の口座を開設すること。


 ……あとはアバンや義父母になる侯爵夫妻から、勝手に預金を下ろされたりしないように代理人の選定も必要ね。それはお父様に紹介してもらおうかしら。


 侯爵邸のそばに大通りがあるのでそこまで出て馬車を拾い銀行へと向かう、銀行の前で止まった馬車から降りるともう一台別の馬車が近くに止まっていた。


 辻馬車と違う作りも立派な磨かれた車体。馬車の扉に彫られた見覚えのある紋章が目に入る。


「あれは……リューベルハルク家の紋章……? カイルも来ているのかしら」


 カイルは去年前リューベルハルク当主だったお父様が不慮の事故でお亡くなりになり、若くして彼が大公家を継いだ。葬儀の時会った以来彼は新しい大公としての引継ぎに、私は結婚の準備で互いに忙しくて手紙は数回送り合ったけど直接会うことは死ぬまで叶うことはなかった。


 まだほんの一年のことなのに、前の生をあわせると丸4年顔を見てない幼馴染がどこか近くにいる……、それだけで心がときめいてしまう。


 そして、ぼんやりと彼の馬車を眺めていると……。


「一人でぼんやりしていると大変な目に遭うよ? お嬢さん」


「ひゃっ」


 後ろから突然肩をやんわりと掴まれ小さく悲鳴を上げてしまう。


「くくっ……全く悲鳴を上げるくらいなら護衛か侍女くらいつけて歩きなよ、リズ」


 懐かしいやさしい声が耳へ届く、後ろを振り向けば少し癖のある明るい金の髪を揺らしながら澄んだ空色の瞳が私を見つめている。


 たった一年会わなかっただけなのに、カイルの相貌はすっかり大人びていた。


「カイル……いえもうリューベルハルク大公閣下と言うべきかしら?」


 クスリと笑って体ごと振り返る。


「脅かすなんてひどいじゃない、それに婚礼直前の令嬢に向かって愛称で呼ぶのもダメよ」


 いつものように揶揄い口調で言葉を返すとカイルの彫像のように整った顔がくしゃりと笑い皺を刻む。全く変わってない大事な幼馴染の笑みにロッテバルト邸での様々な嫌な出来事の洗礼を受け吹雪いていた心に春の風が舞い込んだ気分になった。


「君にかしこまられると調子が狂うよ、どうぞカイルのままでレディ。でもどうしてこんなところに?」


「銀行に用事があって。貴方も?」


「ああ、新しく始めた事業の関係でね。僕のほうの用事は済んだので帰るところだけど……よかったら付き添おうか。リズも王都の銀行の頭取とも顔合わせをしておいたほうがいい。君の父上とも懇意のはずだ」


 初耳だったけれど、父が懇意にしているのならその人物は信頼できる人なのだろう。あの屋敷を出ればこんな近くにも味方になりうる人がいたのだと知る。ほんの一歩、あの屋敷の外へ踏み出す小さな勇気すらあの時の私にはなかったのだ。


「じゃあ、お願いしても?」


 そう頼めばカイルがスマートに肘を差し出してくれたので、そのエスコートに応えて肘に手をかけると案内するように彼が歩き出せばそれに付き従いながら銀行の中へとはいっていく。


 婚礼前ではあるが、婚約者である私を一人にさせているアバンへ対する不信感をカイルは早々に持ったようだ。とはいえ家同士の契約でもある結婚に無関係のカイルは口を挟むことは出来ない。


 心配そうに見つめる彼の脳裏には、まだ世間を知らない頼りなく無垢なあの時の私を思い浮かべているはず。だから……私は出来るだけ明るく振舞った。


 味方がいないなら作ればいい。傍に居ないなら自分から近づけばいい。


 何も知らぬ愚かな娘だと夫と義父母に言いくるめられ、バカにされ罵られ、自分は何ひとつまともにできない無能だと思い込まされていた。


 自分が悪いのだから助けを求めることも考えつかず一人で生きていた前の生のようにはならない。


 そうして頭取と顔を合わせてから口座を開設し持参金と私個人の資産を入金する。


 リューベルハルク大公の次に財産を持つローズベル家の長女の持参金はその額も破格の物で、高位貴族数年分の予算を賄えるほどの額だったので頭取もとてもいい顔をしている。


 そして私の代理人としてカイルを指名した。


 これで私にだまって口座の金を動かそうとしても私本人以外はカイルの承認が必要となる。実際代理人の話は私のほうから持ち掛けるでもなくカイルのほうから言いだしてくれたので凄く助かった。


 全て無事に終えたので頭取と別れ出口までカイルと歩きながら、来週式を挙げることをカイルにだけ伝えておく。


「招待はしてくれないの?」


「神官と私と婚約者だけで行う簡易的なものだからきっと誰も招待してないはずよ」


「侯爵家と辺境伯家の結婚なのにか? まるで平民の式じゃないか」


「婚約者は対外的にはこう説明するはずよ。私の家の両親が多忙で王都へ来られないため籍だけ入れ、両親を王都に呼んだとき盛大に式を挙げる予定だ、とね。……まあ、挙げることはきっとないわ」


「そんな……リズはそれでいいのか?」


 私のために怒ってくれるカイルに笑みを向けながら頷く。


「いいの、政略結婚なんてそんなものだし……出来るだけ早めに自立するつもりだから、仲を取り持とうとかしないでね?」


「何か考えがあるんだな? わかった……でも困ったときは遠慮せずに言えよ。これでも国一番の筆頭貴族だ。どんな方面でも僕の名前は役に立つ」


 女性が自立したいと願うのは離婚を願っていることだと、カイルにはすぐ伝わったよう。

 変わらないカイルの優しさに感謝しながら銀行の前で別れ、拾った馬車に乗り込むと侯爵邸に戻っていった。


 日が暮れる前に戻ったけど相変わらずアバンはお出かけ中だそうで。


 式を挙げた後で「君は侯爵家の一員になったのだから~」とか何とか言って私の持参金と個人資産を取り上げるつもりだろうから、手持ちの金を惜しみなくアリスに貢いでいるのでしょうね。


 それとも頭の程度が似ていた友人たちと独身最後の記念だとか言ってご乱行でもしているかしら……。


 アリスという溺愛に近い愛人がいるにもかかわらずアバンは性質の悪い悪友たちと娼婦を買ったり、年の若いメイドを慰み者にして遊んでいたという。


 今思えば白い結婚で本当にありがたかった。病気移されそうだもの、気持ち悪いわ。


 うんざりしながら戻った部屋の中は一応丁寧に片づけられてはいたけど荷物を移動させた跡があった。持参金の小切手でも探していたのかしら。


 それと同時に持ってきたアクセサリーがいくつか無くなっている……。まったく使用人の躾も出来ていないのね、この家は。


 そうして王都に来てからアバンと顔を合わせたのは式の前日になってのことだった。


 式は予定通り、前回の時と何も変わることなく行われ、私は以前のエリザベスの顔でアバンの隣に立った。


 クズな男の本当の姿も知らぬまま、信頼しきった愚かな娘の振りはなかなかきつかったけれど、目を瞑っている間に式はさっさと終わってくれたから助かったわ。


 夜、湯あみを終えて夫婦の寝室に入ればアバンの姿はどこにも見当たらなかった。前の時と変わらない展開、ここまで繰り返されたらもうやり直しの人生を生きていると信じるしかなかった。


 前はベッドサイドへ腰掛けたまま朝までアバンを待ち続け、心細さと屈辱に眠れぬまま過ごし朝を迎えた初夜も、来ないことがわかりきっているのだからと待つこともせず扉に鍵をしっかりとかけてベッドに入りぐっすりと眠った。


 夢なんかじゃないってはっきりした今、明日はやることでいっぱいなのだから。


 寝不足の頭じゃ戦えないもの。



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