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父親との再会 ※アバン視点

※きつい表現ではないですが本文の後半に暴力的なシーンがあります

 日が昇ってから早い時間なのでアリスはまだ眠っている。……おかげで静かで快適である。


 旅程も残ること数日、私達を乗せた幌馬車はようやく領内に入った。


 それからは足りない食料品や水を補給するときも馬車を少し離れた場所に止めてから旅の商人の衣装に着替えた騎士が単独で仕入れに行く。


「別に馬車で村に直接訪れればいいのではないか?荷物を運ぶ労力が無駄ではないか」


 そうすれば何も見るものも楽しむものもない寒村でもこの薄暗い馬車の荷台の中を眺めているよりはましに違いないはずだ。


「これも、貴方の安全のためですよ、坊ちゃん」


「安全安全と、お前はそれしか言えぬのか、ならお前たちが私の盾になればよいではないか、王室の精鋭が聞いてあきれるぞ」


 役に立たない奴らだと吐き捨てるように呟く。いつもなら自分の間違いに気づき青い顔で俺に頭を下げてくるはずなのだが……。


「………ぁ?」


 今まで機嫌を伺うような高いトーンで話していた若い騎士の声が一瞬で低くなる。

 小声なのに猛獣ですら裸足で逃げ出したくなるような威圧を放ってくる。


「忘れんな、坊ちゃん。……俺たちは殿下の命を受けて此処に居るんだ。お前を守るためではなく、お前が逃げ出して王都に舞い戻らないよう監視するためにな。当主の任を外された罪人(ボンクラ)だってことすら忘れちまったのか?」


「……あ、ああ、いや勿論だ。んっ……おっほんっ殿下の命は絶対だからな」


 威圧され少しちびりそうになった事を悟られぬように空威張りの笑い声をあげて大仰に頷いて見せる。


 私が普段使う高級馬車と違い、道の起伏による振動が直に伝わる幌馬車の座席なのもこの際都合よく、怖すぎて膝が震えていることもきっとバレてはいないだろう。


 何せ貴族の子弟であれば皆剣を扱えるものだと見做されている中、私は騎士に守られていてこそ高位貴族だと思っているので、剣など子供時代の遊びで使った木剣位しか手にしたことがない。あれはただ家来や敵を私が叩くだけの遊びだったから、こういう場で対応できぬのも仕方がない事だ。


「まあ、危険なのには変わりはないですから、屋敷に着くまではおとなしくして下さいね」


 私が頷けば元の口調に戻して言葉を返してきた。こいつ二重人格か何かじゃないのか?


 その威勢の良さが通じるのも領主屋敷に着くまでの話だ。


 着いたら父上に私がどれだけひどい目に遭い屈辱を受けたのか訴えてやる。この者に恫喝されたこともな!


 私が当主で無くなったとしても、あの女のようなにわか当主に名門中の名門である我が侯爵家の血統を引く家門の者達は従うまい、みな前侯爵である父に傅くだろうからな!




 ◇◇◇




 そうして恐ろしいやり取りのあと、馬車に揺られること三日、漸くロットバルト領屋敷にたどり着いた。


 領屋敷と言うが元は王家の数世代前の王妃のために作られた離宮、先祖が何かの労を褒められ賜ったもので、王都にある王城には敵わぬが天へと伸びる尖塔が美しい石造りの立派な城だ。


 城の背後を彩る森の緑も様になっている。


 しかしこれで苦役にも等しかった幌馬車での軟禁生活が終わりを告げるのだ。


 固いパンとお湯でふやかした干し肉と干しブドウ。旅人や遠征中の軍人が食べるような保存食のみの生活がこれで終わる!


 硬い床の上で筋肉が強張り寝付けずに時間が過ぎることだけを祈った夜も!


 そして何よりも、舞踏会の衣装のまま馬車に放り込まれ、着替えもなければ風呂のある宿屋にも立ち寄れず、食事の時に沸かしたお湯で布を湿らせ体を拭う程度のことしか出来なかった故、落としきれない垢が肌を覆い汗を吸った衣服が異臭を放つ。さっさと衣装を脱いで風呂に飛び込みたいのだ!


 さあ、使用人どもよ、貴様らの主人の帰還だ、出迎えよ!!!


 ようやく元の自分に戻れる、誇らしい気持ちに溢れながらさっそうと馬車を降りると……―――。




 門の前で立って待っていたのは領屋敷の執事ただ一人だった。




 領屋敷の屋敷と正門側に広がる美しい庭、この規模なら内、外の美観を整えるだけで王都の侯爵邸と同じような人数が必要なはずだ。


 それなのに執事が一人だけだと?ありえないだろう??


「おかえりなさいませ、アバン様。お久しゅうございます。領屋敷筆頭執事のヴィンでございます、覚えていらっしゃいますか?」


 学園に入る前までは両親の避暑に付き合い訪れたここで世話をしてくれた男だと分かっているので、その言葉に頷いて見せる。


 そうすると記憶にある姿より髪にも口髭にも白いものが目立つ濃い茶色の髪を後ろに撫でつけた男が深々と頭を下げた。


 そして頭を上げれば私とアリスにじろじろと不躾な視線を送ってから、数回納得したように頷いていく。


「おい、それよりこの出迎えはなんだ、仮にも現当主である私が参ったのだぞ!それに父上や母上は……!」


 使用人たちの管理も出来ないのかと執事に詰め寄り詰問しようとすれば、


「それよりもまずはお部屋に案内いたしましょう。風呂の用意をしてありますので長旅の疲れをお流しください。その姿では旦那様や奥方様が驚かれてしまいます」


 と、被せ気味に言葉を返した。


 なるほど、私の威厳を損なわぬようにとの配慮という事か!ならば納得だ!


「お嬢様も王宮からいらした騎士の方々もどうぞ、湯の用意と食事の支度を整えてございますのでごゆるりとお寛ぎください」


 私の背後に居るアリスや騎士達にも声をかけると執事のヴァンは私達を屋敷の中へと案内するために歩き出した。


 そうしてたっぷりの湯に浸かり体の汚れと疲れを洗い流し、私に相応しい一流の衣装を身に纏う。

 鏡の前に立ついつもの私を暫くほれぼれと覗き込む。


「……ふむ、幾多の苦労を乗り越え男っぷりも上がっている。さあ、父上にお会いしてあの女の陰謀を伝えなければ」


 執事を呼び父上の元へ案内をさせる。


 今父上は趣味で屋敷の裏手の日当たりの良い場所を使い菜園の世話をしているとのことだ。


 王都に居るときは酒とギャンブル、女と享楽にしか興味を持たなかった御仁も変わったものだと思いながら、案内された裏庭へと足を踏み入れた。



「旦那様、ご子息様をお連れいたしました」


「父上、お会いしたかったです!!聞いてください、我が家に入り込んだあの女は……とんでもない悪じ………ぐえっ」


 言葉を終える前に頬にとんでもない衝撃を覚えた。

 私の口から洩れたとは思えない醜い潰れた声が漏れる。



「こっっっんの……大馬鹿者がぁあぁああああああ!!!!!!」




 領地へ引きこもってから今日まで、思っていた以上に困窮していた領地で食うに困って始めた菜園。


 何度も息子に手紙で支援を求めたが無しの礫、可愛がっていた息子の手ひどい裏切りに血涙を流していた日々。


 恨みつらみをバネに硬い地面を掘り返し続け、イチから畑を作るために日々鍬を振るったことで鍛えあげられたアバンの父親の腕から放たれた、渾身の一撃がアバンの頬を捕らえたのだった。




次回でアバンプチざまぁ3部作最終回です(話もざまぁもまだ続きます)


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