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Knock with Nuts

お待たせしました。

お休みしている間に企業様からお話をいただき当作品のコミカライズが決定しました

 ここ数日夜会の準備に奔走し続け気を静める余裕がなかった反動なのか、一時期でも心の奥底を埋め尽くしていた悩みの種から解放され気が緩んでしまったのか、馬車の中で眠り込んでから朝まで一度も目を覚まさずにいるほどたっぷり眠ったはずなのに、なんだか寝足りなさを自覚する。


 遅めの朝食をとった後すぐにナイジェル様がいらっしゃると先触れを受けてから、準備からお出迎え、おもてなしをしている間は気を引き締めていられたが、城へお帰りになるのを見送った後、再び眠気が襲ってきた。


 ……これは無理ね、耐えられそうにないからもう少し寝てきましょう。

 自粛中だから出かける用事もない事だし……。


「マリア、私少しお昼寝してくるわね。……暫くしたら声をかけて」


 傍で控えていたマリアにそう告げる。


「承知いたしました。奥様への確認が必要な事項は私やアンドルの手で済む物であれば私どもが代理を、そうでないものはお目覚めになるまで預かっておきますね」


「……ン、ありがとう。じゃあ部屋に戻っているわ」


 マリアと別れて自室のあるエリアへ向かう、戻る途中まだ若いメイド達が三人、おしゃべりをしながら此方に歩いてくる様子が目に入った。彼女たちも私に気づいて足を止めて頭を下げる。


「楽しそうね。何かあったの?」


 周りに花を咲かせそうな明るい雰囲気の彼女たちを見て思わず声をかけてしまう。


 用事があるわけでなく、ただの世間話のように話を振られた彼女たちも驚き顔だが、すぐに笑顔を取り戻し返事を返す。


「今夜は市中の大きなお祭りがあると聞いて楽しみにしてたんです。マリア様からも外出のお許しを頂いたので、皆と此れから祭りの準備のためのお買い物に出かけるのです」


 海沿いの辺境伯領から王都に来て初めての大きな祭りに心を弾ませながら告げる彼女たちを見れば自分も自然と微笑んでしまう。


 ああ、そういえばアルルベル嬢がそんな話をしていたわ。


 ……確か、あれは。


妖精(ピピン)祭……」


「奥様もご存じなのですね、ご一緒に如何ですか?」


「……貴方なにを突然っ」「市井の祭りに奥様が行くわけ……」


 祭りの名を口に出せば一番年の若そうなメイドが私を祭りへ誘う。それを聞いた年上の二人が慌てて左右から言い出した娘の口を塞ぎながら窘めた。


「誘ってくれて嬉しいわ、でも…気持ちだけ貰っておくわね。疲れが取れなくて少し休みたいのよ」


 私を慕ってくれるメイド達の折角の誘いなので角が立たないように注意しながらお断りを入れる。


「夜のお祭りなのだから気を付けなさい。はしゃぎすぎてピピンの悪戯に巻き込まれませんように」


 そう告げてから行ってらっしゃいと見送れば、楽しみへ向かって雲の上を歩くような朗らかな足取りで廊下を移動する彼女たちを見送った後、私も自室へと入る。


 ほんの少し横になるだけだからと着替えもしないままごろりとベッドの上に体を横たえ瞳を閉じた。



 ◇◇◇



 …………〝 コツン ” 



 明るい午後の日差しの入る部屋の中で微睡に落ちたはずなのに、瞼を薄く開ければ夕焼け色に部屋が彩られていた。



 …………〝 コツン ” 


 …………〝 コツン ” 



 薄く瞳を開けてまだ意識は微睡の向こうに置いたままボンヤリしていると間隔を空けて窓ガラスに何かが当たる音に気づく。


「……ン、何の音?……」


 小鳥が悪戯をしているのだろうかと、眠たい瞼を擦りながら起き上がり、音のする窓へ向かう。


 青みのあるガラス越しに窓の外を眺めるが、小鳥の姿はない。


 音の正体は何だったのかと首を傾げながら窓を少しだけ開けてそっと外を覗き見ると、外側の桟に小さな椎の実(ナッツ)が数個転がっているのを見つけた。



「…………リーズ、エリザベスッ」


 椎の実に意識が向かうのと同じタイミングで階下から聞こえる私の愛称に視線をもっと下のほう、階下の庭先へ向けるとカイルがそこに居た。


 不思議なことにいつものキチっとした礼服ではなく、市井に住まう人たちが身につけるようなざっくりとした無地のシャツと黒地のスラックスを身に着けている。


 もちろんそれだけでは溢れる王子様オーラは隠せるわけがないけど……。


「どうしてそんな所に居るの?」


「訳は後で、そのまま窓を開けていて」


「後でって……じゃあ玄関にまわっ…………カイ……!!」


 彼のとった行動に驚いて叫びそうになった口元を急いで押さえた。


 カイルは私の部屋の窓に一番近い場所に生えている大きな木の幹へ近づき手をかけるとそのままするすると登りだす。


 もちろん近いと言っても伸びた枝が建物を壊さぬよう手をかけられるような距離には生えていない。


 どうする心算なのか、何をする心算なのか、変に声を上げて彼の集中を切らしてしまえば大変な事になるかもと、声も上げる事など出来る訳がなく、眺める事しかできない。


 ――――……いつの間にゴリラからおサルさんになったの???


 彼の行動に驚きすぎて支離滅裂なことを考えている自覚はあるが止められない。


 ハラハラした気持ちで、枝や幹に器用に手や足をかけて登り続ける彼を見つめ続けていると…………ん?何かを抱えていることに気づいた。


 ―――― 余計に危ないでしょう!!片腕で登ってるの?!


 彼が脇に荷物を抱えていることに気づいた時にはもう目線の高さまで彼は登り終えていて、太めの枝に足を乗せて私のほうへ顔を向けた。


「リズ、凄い顔してる。………ほら、これ受け取って」


 さらっと失礼なことを告げたカイルは手にしていた布袋を袋のまま私へ向かい放り投げる。


 ぽふ、とそれが私の腕の中に納まってから再び彼へ視線を向ければ、中を見て、と言われたので袋を開いて中を覗きこんだ。


「これは………女性物の服?」


 いま私が身に着けているようなものではない、市井に住む町娘が好みそうな衣装。


 身を翻せばふわりと広がるだろう、ギャザーをたっぷり寄せたタータンチェックのスカートは膝を覆うくらいの長さ。襟や袖口に小花の刺しゅうをあしらった真っ白なブラウスとワインレッドのビスチェにフリルの飾られた白いエプロン。


 私がそれらを確認したのを見てから、カイルはそれを着て裏の通用口においでとだけ告げ、登ってきた半ばほどの距離まで降りるとそのまま地面へ飛び下り、待ってるよと言いながら通用口のある方角へ走り出して消えてしまった。


「……もう、……相変わらず自由なんだから」


 小さく息をついて呆れた声で彼の行動の感想を告げつつ、窓を閉めて急いで渡された衣装を身に着けていく。


 自粛を言い渡されているのだから屋敷から出る理由がない、だから着替えても無駄だと思う。


 でもこんな機会でもないとこんな衣装を身にまとう機会はやってこないかもしれない。




 足元まで覆うドレスと違いひざ下が外から見えてしまうのが恥ずかしいけど、動きやすくて着心地がいい。

 素足は流石に恥ずかしすぎて無理だったので厚手のタイツを穿くことで解決することにしたけれど、それでも普段より格段に動きに自由さが増した。


 身軽になると心まで軽くなる気がする。



 着替えを終えて廊下に出て小走りで通用口を目指す。


 不思議なことに通用口まで使用人たちに会うこともなくたどり着き、扉を押し開けた。



 扉の向こうには言葉通りに私を待つカイルの姿。




 そして私の顔を見て開口一番に彼が告げた言葉は……。









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