表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/80

VS――Round 2・後編

「なぜ私が爵位を返上しないとならないのです!ならこの者と離婚してアリスを新しい妻に迎えれば済む話ではないですか!?」


 高位貴族であることに拘るアバンが平民になることを承知するわけもなく、ナイジェル様に食って掛かる。


「……ほお、ロッテバルト家はローズベル家の事業提携と援助がなくても問題がないというわけか?」


「……い、今すぐという話ではありません、いずれは、と言う話ですッ」


 傾き沈みかけた家が元通りになったら離婚するって言ってますよ。本人の目の前で随分な話です事。


「……まあ、だとしても無理だな。だってその()、平民だし」


「「 え? 」」


 アバンとアリス二人の声が奇麗にかぶさった。あらヤダ知らなかったの?


「我が国の貴族法では下級貴族であれば平民との婚姻も認められるが、高位貴族は爵位を持つ家同士の婚姻しか認めてない。だから無理なんだよ」


 理解できたかな?と言葉を重ねて問いかけるナイジェル様。お顔がとても楽しそう……。


「おかしいではありませんか、アリスはティード男爵家の令嬢、れっきとした爵位を持つ家の娘ですよ!」


「あの………それはアバン様がよくご存じなのでは?」


 余りにも不思議だったので思わず言葉を挟んでしまった。


「申し訳ありません、ナイジェル様のお言葉に許しもなく口を挟んでしまって」


 一度言葉を止めてナイジェル様に謝罪をすれば、いいよ続けて、と快く促してくださった。


 ……では。


「私の前にアリスさんを初めてお連れになった際おっしゃっていたではないですか。お亡くなりになった男爵家当主の借金で屋敷を取り上げられ、追い出されてしまうアリスさんがお気の毒だと言ってロッテバルト邸にお連れになった事、お忘れではないですよね?」


「……ああ、その通りだ。箱入りの令嬢を突然市井に放り出すマネは出来ないからな。アリスの身に何かあれば彼女の母であった私の乳母に顔向けできぬ」


「それはどうでもよいのですが、借金はどなたかが肩代わりなされたのですか?税も払えない、屋敷もない、当主も後継者もいない、家の維持が出来ぬと判断されれば男爵家は取り潰しになるのは当然でしょう?アリスさんは後継と指名されていたようでもないですし、今から訴えてみますか?その場合大きなお金が必要になりますけど」


 連れて来たところで問題は解決と勝手に完結してそれ以降、男爵家の問題を無視し続けての処分だから撤回は難しいでしょうけどね……。


「……な!知っていたのならどうして何も手を下さなかった!!」


「私に一切関係がないからに決まっているじゃないですか」


 頭を下げるでもない失礼極まりないだけのただの夫の客人にそこまでしないとならない理由がわからないわ。


「君は私の妻だろう!?」 


 夫として振る舞った事もなければ、義務も責任も負った事も一度もないのに都合のいい時だけ妻として扱わないで欲しい。

 声を荒らげたくなるのを王妃様達の前だからぐっとこらえ、アバンに視線を向けた。


「貴方方の言葉を借りるのであれば婚姻前に起きたことですので、私が動く道理がございませんの。……乳母様の恩、と言うのであればお世話を受けた貴方自身や、前侯爵夫妻のほうが恩に報いる働きをするのが妥当だと思いますわ」


「そして君は平民を連れてきて、放置した上騒ぎを起こした咎で此処に連れてこられたのだよ」 


「……そんな」


 ようやくここに招待されたわけじゃないことを悟ったらしい、アバンの顔色が悪くなる。


 椅子も勧められてないんだから察しなさいよ……。  


「それで今回の件での処分になるが、その娘の王妃殿下に対する多大な不敬は今回は不問にする。……王族への不敬罪は連座制なのでエリザベス嬢まで巻き添えになるのはこの国にとっても手痛い損失だ」 


 平民を連れ歩いて問題起こして、で厳罰を受けると想像していたのか不問にするとの声であからさまにほっとした顔で息を吐く。


 アリスはまだ自分が平民に落ちていた事実を受け止めきれずに呆然としたままだ。


「被害に遭われたご令嬢達の賠償は主催側の私達で行うが、……まずロッテバルト侯爵の宮中での任を解く、退任時に払われる報奨金、他発生する報酬、年金はすべて国庫に没収し、被害者への賠償の一部に当てることとする。


そして当主の座を一時的に剥奪し、当主代理としてロッテバルト侯爵夫人を指名する。今日この時より彼女は侯爵夫人ではなく、ロッテバルト女侯爵と称号を改めたことを報じる、期間は5年。


その間アバン・ナル・ロッテバルトはアリスと領地屋敷にて謹慎を命ずる。こちらから教師を派遣してやるからせいぜい5年間常識と領地経営のイロハを教わるがいい」


 それで使い物にならないならその時はこれだと、ギロチンにかける、という意味になる手刀を首に落とす仕草で伝えた。


 そして逃亡せぬようアバンとアリスは屋敷へ戻ることもなく、そのまま王宮から長距離用の馬車に放り込まれ、数名の騎士と共にロッテバルト領の領屋敷へ送られていった。


 主な商業地や耕作地は借金の返済に切り売っていたので領屋敷の周りは整備されていない深い森、急流の流れる谷と崖、そしてやせた土地に畑を持つ小さな農村が多少点在するだけ。


 生活用品を売る雑貨屋程度しか店もない。


 領地屋敷に定期的に王都の商人が出向いて食糧や衣料品などを売りに行くが……、侯爵家の没落の責を取り、息子に代を譲り領地で隠居されてるはずの前夫妻からの遠慮のない要請が日々届くが、戻ってくるとか言いだされると面倒なので多少の不便はあるがこちらの生活とほぼ変わらない暮らしは出来るよう手配はしている。


 でも、王都の豊かさを生まれた時から享受し、欲望にまみれた怠惰な生活に慣れ切った二人にはつらいだろうなあ……多少でもいいからまともになるのかしら……。


 取り潰しは免れたのだけど、まさか仮とはいえ自分が当主になるとは夢にも思わなくて、私に助けを求めるアバンの声も右から左に抜けてしまい、私の対応が冷静過ぎると、何かを勘違いなされたナイジェル様の笑いがまた止まらなくなり、サロンの中に明るい笑い声が響きわたった。


◇◇◇



「……あの、賠償を王家の方にだけ押し付けるわけには参りませんわ。私のほうも関わらせて下さいまし」


 やろうと思えば屋敷の中で軟禁することも、アリスのドレスの手配を止めることも必要な手はいくつかあったのだもの。


 陛下達のいらっしゃる場所で可笑しなことはしないだろうと甘く見ていた私にも落ち度はある。


 だからこの責任を押し付けることなんて到底できないと、王妃様とナイジェル様に何度も頭を下げ、賠償に関する費用の半分の負担と各家個別に謝罪に上がらせてもらうお許しをもらった。


「貴方が悪いという人はいないと思うけど、気が済まないというのであれば気の済むようになさい。何か問題が起きたら一人で抱え込まずに私達に必ず相談することだけは約束してね?」


 王妃様の言葉にゆっくり頷く。


「大丈夫、私も付き添います。私がエスコートしたレディだか……」


「まあ、どの程度の被害かまだ全貌が見えてないから、一応責任を感じてという形で謹慎の体を取るが、君もあの二人の相手で疲れているだろうから暫くはゆっくり休みなさい。纏まった頃使いを出そう」


 まだ舞踏会の設定を引きずっているカイルの声に私が反応を見せる前に被せてきたナイジェル様の声に頷き答えた。


「わかりました、許しを頂けるまで自室で身を慎みながら連絡をお待ちします」


 そうして慌ただしい時間が過ぎ、王妃様達は陛下と合流するためホールへと戻り、私はカイルに付き添われて侯爵邸へと戻ることになった。


 馬車の中で私とマリアの対面に座ったカイルが騒動の概要と私が当主代理として当分の間侯爵家を背負うことになったことマリアに伝える。


「エリザベスお嬢様……ッ!」


 辺境伯の屋敷に居た頃の呼び方で私を呼び、叱るときくらいしか表情を崩さないマリアがわんわんと泣き出して私を胸に抱いてくれた。


 マリアの胸から聞こえるやさしい心臓の音に酷く安心してしまうのは幼い頃、泣くとこうしてマリアが抱きしめてくれたことを思い出すから……?


 朝からずっと緊張していた心の糸がふわりと緩み、マリアに抱きしめられながら子供のように眠りについた。


 目が覚めた時はもうすっかり夜も明けて窓から光が差し込み、自室のベッドに寝かされていることに気づいたのだけど……ここまで誰が連れて来たの??


 マリアではないし、侍女達か、アンドル………まさかカイルじゃないわよね……。恥ずかしすぎて絶対聞けない…………ッ!!!


 そうしてベッドの中でカイルにされたダンスホールとサロンでのあれこれを思い出して侍女が来るまでの間一人ベッドの上でじたばたしていたのを起こしに来たマリアに目撃され、朝一番に「はしたない!!」とお小言をもらったのだった。





もしも『面白かった』や『続きが気になる』などと感じて頂けましたら

広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援してくださると

モチベ上がります、嬉しいです。

更新情報を素早く知りたい方はぜひブックマークもお願いします。

どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ