VS――Round 2・前編
長くなりすぎたので前後編に分割しました。
騎士の両脇に挟まるようにしてアバンとアリスが並んで入室してきた。
状況は連行されてきた罪人に近いのに、二人とも顔は喜色満面で歩いてくる。
……まさか、護衛付きの賓客待遇だとでも思っているの????
流石に陛下の前で挨拶無しで話し出して叱責されたのが響いたか、応接セットの傍で騎士が足を止めると二人もそれに倣うように歩みを止めた。
そして王妃様とナイジェル様に向かい頭を下げる。
「王太子殿下に申し上げます!ご命令に従い アバン・ナル・ロッテバルト、並びに アリス、両名を連行しました!」
爵位も閣下も様もつかずに告げられる名。
敬意を表す必要のない人物だと証明されてもアバン達の表情はイキイキと輝いている。
アリスに至ってはカイルとナイジェル様の顔を見比べてはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていて……、ほんと何を考えているのやら。
……知りたくもないけど。
「ご苦労だった。後ろに下がっていろ」
ナイジェル様が騎士の言葉に頷いて、下がるように指示を出した。
もちろんアバン達が暴れたときのためすぐに対応できる距離だけど……。
「全く、王妃様も王太子様もお人が悪い。このような席を用意して戴けること事前に教えてくださればこちらから出向きましたのに」
はっはっは、と空威張りのような笑い声をあげるアバンの言葉の意味が王妃様達は理解が出来ずポカンとしてらっしゃるわ……。
「では、リューベルバルク大公、席を代わってくれるか?ダンスも済んだことだ、いい加減妻を返していただきたい」
え?カイルの代わりにここにアバンが座るつもりなの?じゃあ私アリスとアバンに挟まれるの???それともアリスと私でアバンを挟むの???
どっちも嫌なんですけど??
実際は詰問するために二人を呼んだわけだから、席など用意されるはずもない。
分かっていてももしかしたらと小さな不安が湧いて指先が震えてしまう。隣に座るカイルが此処に居ると伝えるようにそっと私の手の上に大きな手を重ねてくれた。
カイルはアバンの言葉に答えることも動くこともせずに無視している。
当然アバンは苛立ち、先ほどより声を荒げ
「私の妻に懸想していることも知っているのだぞ!!幼馴染だからと妻に執拗に近づき言い寄っていることもな!我が侯爵家を侮辱するのはやめて戴きたい!」
わぁ、自己紹介かしら。
「じゃあなぜ、そんなに大事な妻を放っておいてそこの娘と侯爵夫妻が使う馬車に乗って舞踏会に参列したんだい?それに……其処の娘も君の幼馴染だと聞いていたが、娘は自分のことを「侯爵夫人だ」と王妃殿下に告げたのはどういう事だ?」
「……なっ、それは、その……そ、そうだ、婚姻する前からこの舞踏会に連れていくことを約束していたのです。……妻も先の約束を優先するよう、私のエスコートをアリス・ティード男爵令嬢に快く譲ってくれたのです」
だから、そうだって口に出したら、今考えたいい訳って教えるようなものでしょう……。
あと譲った覚えはありませんけど?
「別に侯爵夫妻の付き添いにその娘を連れてきても問題はないのにか?」
そうなのよね、当主と夫人やご家族の他、見合いや商談などの顔を繋ぐために親しい者を連れて参列することも多々あるのだ。
連れて来た当主がすべての責任を負う事になっているからおいそれとおかしな者も連れては来ないものだしね。
付け焼刃の言い訳が通る方々だと思っているのでしょうか……。
おべんちゃらしか言わない取り巻き達と訳が違うというのに……この人こんなに愚かな人だったかしら。
あまり考えると計り知れない愚か者に殺された輪をかけた愚か者になりそうでそこで思考を止めた。
「問題がない?何言ってんのよ!偽物が堂々とアバン様の隣を歩いて本物の私がその後を歩くなんて道理あるわけないじゃない!」
さらなる言い訳を重ねようと言葉を探して黙り込んだアバンの代わりに今度はアリスが叫ぶ。
「本当は私がアバンの奥様になるはずだったのよ!横から割り込んできたのはそっちの女なの!順番も守れない愚か者はそっちなの!」
「な、何を言い出すんだアリス、こんなところで!」
慌ててアリスの言葉を止めようとするがアリスはそんなことでは止まるわけがない。
「いいのよ、王妃様も王太子様もいるんだからこの場で真実を伝えましょうよ!今日だって言ってたでしょ、私の侯爵夫人になってくれって!」
「ハハハ、お熱い事だ、まったく似合いの二人じゃないか」
二人の会話を聞きながらナイジェル様が手を叩いて大笑いしてらっしゃる。
案外とプライベートは笑い上戸なのかしら、目尻に笑い皺を刻みながら笑い転げるナイジェル様と扇でさっと顔を隠して肩を震わせて笑いをこらえている王妃様を不思議そうに眺めてしまった。
ナイジェル様に似合いの二人と言われたことでアリスは関係を認められたと解釈したか両手を胸の前で組んで感動を大げさなほど露にしているわ…。
「しかし残念だが、君は侯爵夫人にはなることは出来ないね、たとえエリザベス侯爵夫人が嫁いで来なくても不可能だよ」
目尻に溜まる涙を拭いた後、たっぷりお笑いになってすっきりした顔で言葉を告げる。
「な、なぜですの?私はアバン様と愛し合っているのですよ」
「……なるほど、二人を引き裂くわけにはいかないな、じゃあ話は簡単だ。アバン侯爵が爵位を返上して市井に下るといい。君は侯爵夫人にはなれないが、愛する男の妻にはなれる」
視線をアバンに移してナイジェル様が一つの提案を向けた。
……まあ、確かに一つの手ではあるけど。
70PV越えました。
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