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いざ、舞踏会へ※アバン・アリス視点

 さあ今日は王宮での舞踏会だ。


 そして栄えあるロッテバルト侯爵家第13代当主となり、初めての公式行事へ参加するのである。

 新しい侯爵として国王と王妃に臣下として最初の挨拶を述べた後、言葉を賜る栄誉も受ける、大事な、だい~じな、舞踏会なのだ。


 国王から直々に言葉を賜る。


 高位貴族としての栄光を掲げる私の隣に侍るのは、金しか取り柄の無い田舎貴族の娘(エリザベス)では無い。


 幼い頃から俺を支え寄り添ってくれているだけで無く、襲い掛かった辛い運命にもくじけず気高く振る舞う男爵令嬢のアリスだ。


 帰ってきたら舞踏会の様子をエリザベスにたっぷりと聞かせてやろう。


 俺の素晴らしさを思い知り、そばに侍る事すら許されない哀れな身を抱きしめて一人寂しく泣くがいい。

 それをアリスと見物するのだ!きっとその夜はアリスも俺の素晴らしさと男らしさを感じて腕の中で熱く身悶えるに違いないな!




 ……おっと、拙いところに熱が籠りそうだ。深呼吸、深呼吸。




 ……ん?そういえば男爵家はどうなったのだ?まあ、私の大事な者を蔑ろにするわけがない!きっと誰かが上手い事納めてくれているだろう。


 私の隣にいる者が平民な訳ないだろうからな。


 仕度を終えたのでアリスの様子を見にアリスの個室へ向かった。


 今日はアリスのために腕のいい美容師やスタイリストを雇ってやった。美しい装いには技術と金がいるからな、仕方あるまい。


 不遜にも侯爵家家令と名乗るあの若造も文句を言うことなく手配していたしな、漸く仕える者が誰か理解したようだ。


 頭の回転が悪いのは仕方ない、エリザベスと同じ辺境のド田舎出身だからな、大した教育も受けていないのだろう。


 いずれエリザベスの周りにいる侍女たちも俺とアリスのすばらしさに平伏し主を代えたいと願うだろう。

 そしていつか、本来の姿に戻りアリスを妻にするのだ。


 私の妻の座をアリスから奪った女狐め、真実の愛の相手(アリス)を蔑ろにした代償は、お前の家の財産と爵位で償ってもらおうか。


 田舎の地方貴族の爵位などではとても足りぬがな。


 これから起こる輝かしい未来を頭に描きながらアリスの部屋の扉を開ける。

 ドレスを纏う美しい姿はこの輝かしき侯爵家当主の隣にパズルのピースのようにピタリとはまるに違いない。


「どうですか?アバン様」


「ああ、なんて素晴らしいんだアリス。まるで精霊の王女のような可憐な気高さだ。……さあ、俺の隣へおいで」


 薄い桃色の生地に濃い色のリボンと白のレースをふんだんに使ったドレスは私には少々子供っぽさを感じてしまうが、無邪気で可憐なアリスにはとてもよく似合う。


 いつもは下ろしている明るい栗色の髪を高く結いあげ、周りに花と真珠を散らすように飾り付けられていた。


「どうですの?髪を纏めてもらいましたの……少し背伸びをし過ぎてしまったでしょうか」


「そんなことはない、似合っているよ。……今夜は俺の侯爵夫人として隣にいてくれるかい?」


「まあ、よろこんで」


 仕度のできたアリスを連れて馬車を止めてある玄関へと向かう。

 勿論使う馬車は侯爵夫妻が使う一番立派な馬車だ。


 アリスを侯爵夫人として扱う私に機嫌を良くしたのか、玄関を出ると楽しそうに声を立てて笑った。

 もちろん私も声を上げて己を待つ輝かしい未来と栄光を感じながら笑ったさ。




 ◇◇◇



 キラキラ輝く磨かれた立派な馬車に乗り、素敵なドレスを身にまとって王宮へ向かう私を男爵令嬢だと思うものはいないだろう。


 取り澄ましているだけの可愛げのない高慢ちきな女(エリザベス)は自分の部屋に籠っていたわ。ああなんて惨めなのかしら。


 王様も王妃様もいる舞踏会にアバン様と参加すれば皆私が本当の侯爵夫人だと思うに違いないわ。

 いつも一人でいるあの女が偽物になるのよ!


 私とアバン様の仲を引き裂こうとした女だもの、簡単に許してなんてあげない。

 あれだけアバン様との仲を見せつけているのにいつまでも侯爵夫人の座にしがみ付いてて見苦しいのよ!


 カイル様もきっとあの女に騙されているのだわ。真実を暴いてお慰めしてあげよう。


 もしかして……どなたにも求婚せずにいるのは運命の相手を待っているのかも……きっと私のことね!!あの出会いは運命だったのね!

 ああ、カイル様!アバン様との愛も選べない私を許してくださいましね……ッ!


 侯爵夫人となり、大公閣下との秘密の恋に溺れる未来を夢想しているうちに馬車は王宮へ着いたわ。


 アバン様にエスコートされて大広間へと案内される。


「アバン・ナル・ロッテバルト侯爵様!並びにアリス嬢!ご入室です!」


 アバン様と並んで名を呼ばれホールの中へ足を踏み入れる。


 私のドレスは王妃様と………同等……、どう……。


 何故なの、私のドレスと似たような形のドレスを纏う令嬢がちらほらといる。

 様子を窺えば皆伯爵や子爵家の令嬢だわ、なぜ私のドレスと被っているの……ッ!?マネされたのかしら、失礼な家ね!


 顔を覚えておいてあとでアバン様に厳しく罰してもらおうっと!

 いい気分が台無しじゃない!


 まだ開始時間まで時間があるので私はアバン様を連れてご馳走の並ぶテーブルへ向かう。


 最近、侯爵家のご飯あまり美味しくないし量もいまいちなの。

 王宮の料理は素晴らしいと聞いていたから楽しみだったのだ。


「まあーッ、これ美味しいですわよ、アバン様も」


「そうだな!これもなかなか、私の舌に合うとは流石王宮の専属シェフだ!この酒もいいぞ」


 食べ始めたら止まらない。誰も手を付けようとしないから遠慮なく料理に手を伸ばす。


 もう、指に油がついてしまったわ、ナプキンを探すのも面倒だから……この子のドレスで拭いちゃえばいいわね。


 傍に居た令嬢のドレスの端を素知らぬ振りで摘まみ、指の汚れを落としながら食事を楽しんでいると、ここで聞くはずの無いあの女の名が、よりによってカイル様の名と共に耳に届いたのだ。


「何……?名はともかく、同じ家名の女がこの国にいたのか……?誰だあれは」


 アバン様が呆然とした声で呟いた。

 私は声も出せないまま、入り口からまっすぐ中央へと歩いていく二人を眺めている。


 少しだけ緊張しながら笑みを浮かべ頬を染める初心な表情は全ての人を魅了して視線を奪う。


 完璧なバランスの体を纏うドレスは見たこともない艶を放ち、溢れる光を取り込み光を織り上げたような煌めく繊細な生地と刺繍。


 あれと並んだら私のドレスなんて木綿の普段着に見えてしまいそう……。


 腰を締め上げるコルセットを必要としない見たこともないドレス。


 コルセットに頼らずとも頼りないほど細い腰の滑らかなライン。

 それを見事に彩る初めて見る人魚のようなシルエットの裾の長いドレス。


 会場の空気が変わるのを私でも感じるほど……でもあの女は誰なの、どうしてカイル様と……


「エリザベス様、素敵だわ……」


 どこかの令嬢のため息交じりのつぶやきが聞こえた。



 誰ですって????あの女が……エリザベスなの……!????



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