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さあ、舞踏会へ

 今夜は王宮にて国王主催の外賓を招いての公式行事である舞踏会が開催される。


 アリスとアバンの住まうエリアは朝から美容師やらスタイリストやらを呼び寄せて準備に余念がない。


 私は事業の関係で諸外国の来賓とも顔を合わせないとならず、使節団が到着した時期から今日まで視察に会議にと忙しく動き回っていた。


 おかげで昨日の夜は仕事を取り上げられ、代わりにブランデーを垂らした少し甘めミルクのカップを渡されて強制的にベッドに放り込まれたのよね……。


 起きて鏡を見たら睡眠の大切さを流石に実感したわ。

 張り艶の戻った私の顔を鏡越しに見つめながらのマリアのお小言も避けたいわね……。


 私のほうの準備は……と。


 衣装(ドレス)は、ロズウェルの衣装店の王都支店の視察もかねて他の仕事の合間にこまめに顔を出し、デザインの打ち合わせから生地やレース職人の選定、とお互い納得するまで何度もオーナーと顔を合わせて話し合い、仮縫いが始まってからは体に合わせながらじっくりと時間をかけて作ることが出来た。


 丁寧に縫い上げられ仕上げられた寸分の狂いもなく私の体を包む私のために誂えた(オートクチュール)ドレスの着心地はそれはもう素晴らしいものだった。


 靴や扇、装飾品は店のオーナーから連絡を受けた母の手配で用意されたものが一式届けられている


 きっと人目も引くし舞踏会で広告塔の役目も十分に果たせそう。



 昼過ぎから夜会の準備に入るだろうけど、アバン達とは住むエリアが違うし、高額なものがあれこれある状況なので、アリスの侍女達のようにこちらの様子を探ろうとする者の入室も今は止めてある。


 屋敷の管理に動いているメイド達の統制もマリアがきっちりしてくれているので出発するまで邪魔が入ることはないだろう。



 問題は形式上でも夫であるアバンのエスコートを受けずに夜会に参加してどう思われるか。……なのよね。



 誘われたお茶会やサロンに積極的に参加してお会いした令嬢や夫人達ともよい関係を結べたと思うけど、人数的には王都に住む貴族の方のごく一部だし。


 悪意の伝達のほうが好意より遥かに早い、それだけは頭に入れて振る舞わないと。





 そして午前の執務を簡単に済ませ、軽い食事を済ませると侍女たちの手で指の先まで体を磨き上げられ、今までのお茶会より豪華に、華麗に、貴婦人としての装いを作り上げていった。


 編み込みあげた髪、色香を誘う後れ毛の本数にすら気を遣い、令嬢から貴婦人へ踏み出した女性、まだ少しだけ少女の危うさが残る……蕾が花開く、そんな女性がテーマだと髪を結う侍女が力説してくれたけど。


 ………ううん、本人に言うのは反則だわ、恥ずかしい。


 照れくささも相まって思わず頬を染めてしまう、すると……。


「体温を上げないでください!汗をかいてはいけません!お化粧が……!」


 となぜか叱られてしまった………解せないのですけど?



 ◇◇◇


 侯爵家にある馬車の中で一番立派なものを用意させ、身支度を終えたアリスとアバンは王宮に向かうようで、正門から玄関へつながる通路のほうからアリスの高らかな笑い声が聞こえてきた。


 ………おーーっほっほ!って笑い声をあげる人、本当にいるのねえ……。


 変なことに感心していると、アバン達が無事に侯爵邸から王宮へ向かったこと、私の乗る馬車が用意できたことを侍従が報告に来たので私も自室から玄関ホールへと移動する。


 久しぶりの正式な礼服なので何もない床の上を歩くのは一人でも大丈夫だが段差があるところは人の手を借りないと移動できない。そのため前後左右に侍女が寄り添い、階段を下りる手伝いをしてくれた。


「やはり足元が危のうございますね……アンドルかイスラ卿を傍につけるようにしたほうが良いのでは」


「アバン達と騒動になるのも面倒だから一人で大丈夫よ。それにダンスホールの階段を使われるの王族の方だけだもの」


 私以外の女性も皆似たような格好なのだから足元の危うい女性が移動して危ないような箇所はそう幾つもないでしょうと結論付けた。


 馬車の道中と会場までの道のりはマリアに付き添ってもらい、舞踏会の間はマリアには入口そばに作られた使用人たちの休憩ブースで待っていてもらう。


 王宮へ近づくと馬車が次第に混み合っていく。侯爵家の家紋がついている馬車は優先的に先導してもらったおかげで思ったよりも時間がかからず会場へ着いた。


 会場からほど近い馬車止めに滑り込むように馬車が止まる。


 初めての公式な舞踏会がまさか一人での参戦になるなんて思わなかったけれど、もうここまで来たら腹を括るしかない。

 大きく深呼吸をして心を落ち着かせてから、マリアが開けて先に馬車から降りたのでそれに続いて馬車から降りるために扉をくぐると……。


「お手をどうぞ、レディ」


「……カ………リューベルハルク大公閣下…?」


 馬車の扉をくぐり、足置きへつま先を伸ばしたところでかけられた声に動きが止まる。


 動きを止めた私の手を勝手に掬い取って馬車から降りる手伝いをしてくれたのはマリアではなくカイルだった。


 公式の場なので彼の名を呼び捨てにしそうになるのをぐっとこらえ、彼の家名を呼ぶ。


 癖のある金髪は後ろへ丁寧に撫でつけられ、白を基調に濃いブルーをバランス良く配置し、金糸の刺しゅうで縁どられた見事な礼服に紋章の入った紺色のマント。いつも以上に視界に悪いキラキラしすぎる彼がそこに立っていた。


 彼を見つめながら驚き顔でどうして?と首を傾げると、私の疑問を察したように口を開いて答えを告げてくれた。


「ロットバルト侯爵が先に会場に入っていたのだけど隣に居るのが君じゃないと王太子殿下の侍従から教えられてね。……君は今やこの国になくてはならぬ要人だ、その上初めての夜会だろう?恥をかかせるわけにはいかないから幼馴染がエスコートして来いと殿下から命じられた」


 エスコートは基本的には婚約者、ないし身内の男性。父親や男兄弟が一般的だが親戚や家族的な付き合いのある身近な友人もエスコートの相手としておかしくはないけれど。


 …………まあ、私は既婚女性だし、幼馴染のエスコートという体裁なら、カイルの婚約者探しの時の醜聞にはならないわよね?王室のお墨付きみたいだし。


「初めてのパーティへ臨む淑女のエスコートをする名誉を私に与えてくださいますか?」


 ほんといつの間にこんな気障なセリフを言うようになったのかしら。

 それが無駄に似合いすぎるだけ困るのよ……。


 幼馴染の私をからかっているだけだと分かっているのに頬が赤くなるのを感じてしまう。


 ……きっと耳先まで赤くなってるはず。


 照れすぎて言葉が出てこないので差し出してくれた腕に指をかける。


 一歩一歩踏み出していけば次第に心は落ち着いてくる。


 隣に居るのは唯一無二の大切な友人。


 ―――― こんな心強い味方が傍に居るのだから何も怖くない。


 会場入り口の大きな扉の前でカイルと共に招待状を王室付きの侍従へ手渡す。



「カイル・ディ・リューベルハルク大公閣下、ご入場です!」


「エリザベス・ティア・ロッテバルト侯爵夫人、ご入場です!」



 招待状を確認した侍従が高らかに名を呼び、到着と入室を知らせる。


 扉がゆっくり開くと豪奢なシャンデリアが幾重にも煌めき光が溢れ出す眩しい空間が目の前に広がった。


 そして光の下に集う色とりどりに煌めく紳士淑女。


 呼ばれた名に興味を持つように向けられる沢山の視線に足が竦んでしまったけど……。


「…………行こうか、リズ?」


 カイルがそっと両親が呼ぶ私の愛称を囁く声が耳へ届き、飲み込まれそうになっていた意識を戻して小さく頷く。


 彼のエスコートを受けてゆっくりと歩き出した先に待っていたのはこの国の頂点にいる方々。


 カイルは其処へ私を運んで行った。




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