広がる世界
日間総合10位、異世界恋愛8位になってました
応援ありがとうございます。
「ようこそ、いらっしゃいませ。エリザベスお姉様」
◇◇◇
アリスの開いたお茶会は突然閉幕し、ホスト役のアリスすら会場から姿を消した。
そのためその場に取り残された令嬢達をサロンへお招きして、楽しい時間を過ごしている時……。
「エリザベス様はあんな素敵なお兄様が居て羨ましいです」
「私も年の近い兄が居ますけど、あの方の足下にすら及びませんもの」
木々の間を吹き抜ける風のごとく颯爽と現れ颯爽と消えた大公閣下はご令嬢達からとても大人気、今もお茶菓子をつまみながらきゃあきゃあと楽しげな声に彼の話題が上り続ける。
これがきっかけで結婚相手が決まったら感謝の印にカイルに何かプレゼント貰えるかしら。
リューベルハルク大公家は王兄殿下が隣国の公爵令嬢と結婚されたとき大公位を賜った。
そして二つの青い血を受け継いだカイルは両国の継承権を持って生まれた、貴重で高貴なお方。
身分の釣り合う令嬢を探すのが大変なのか、婚約者はずっと決まらぬままだった。
ご不幸にあった前大公閣下の跡を継ぎ、リューベルハルク大公となったカイルは大公位継承をきっかけに両国の継承権を放棄して王太子殿下の臣下として剣を捧げた。
……と、父から聞く少し前に私はロッテバルト侯爵家との婚約が結ばれた頃だったかしら。
継承権を放棄したのだし、臣下としてこの国を支える立場となった彼も婚約者に対する制約も減っただろうから綺麗なお嫁さんをすぐに捕まえると思ったのよね。
……そういえば、前の時も……。
カイルは結婚どころか婚約者も作らぬままだった……?
誕生日に贈られるカードだけの交流、社交界に一度も足を踏み入れなかった私がただ知らなかっただけかしら。
ほんの少しだけチクリと胸に痛みが走ったのは、前の生で重ねた辛い経験のせい……?
そんなことを考えながらきゃぴきゃぴとおしゃべりに花を咲かせる令嬢達の可愛らしさにほっこりしながら眺めていると、皆さんからお願いが舞い込んだ。
「どうか、今回の記念にエリザベス様をお姉様と敬愛することを許してくださいませ!」
一人物思いにふけっていて聞いてなかったなんて言えるわけもなく。
話の流れがいつしかお兄様からお姉様になっていたことにも気づかないまま相槌を打っていた私は、その願いを了承する道しかなかった。
◇◇◇
アルルベル嬢の明るい声が呼ぶ私の名のきっかけを思い返しながら、誘われたお茶会へ参加するためラルボ伯爵邸を訪れていた。
形式上は侯爵夫人である私に対して気さく過ぎる令嬢の振る舞いにご両親らしい方々が内心ハラハラされているのがわかるので、私が許可しているのだと知らせるようにアルルベル嬢へ笑み返して両腕を広げた彼女のそばに寄り、お招きありがとうとお礼を言いながらそっとハグを交し合う。
そして親しい様子を見せた私にほっとした様子のご夫妻に改めて招待して頂いたお礼を申し伝えた。
お茶会のホストは伯爵夫人、アルルベル嬢は友人たちのホスト役でサポートされている。
まだ公的な夜会に参加してないので、夫人達の力添えで様々な家の令嬢やご夫人に繋がるきっかけを作らせてもらう。
流行に敏感で社交に明るい若い令嬢達は私の出身地であるロズウェルの話に興味津々だ。
……う~ん、そうよね。此れが普通の反応だわ。
令嬢達の反応を見て、まったく真逆の態度を見せたアリスの取り巻き令嬢たちは流行に取り残されているのではと心配してしまう程度におかしなことだったわ……。
バカンスシーズンに訪れたいと願う声を笑顔で受け答えていった。
シーズンになったら実家に戻って皆様に両親を紹介する場を作らないとね。ローズベル家で夜会を開催しようかしら……。
ラルボ伯爵夫人にお願いして王都の不動産の事業をされている家の方も紹介していただいた。
……と、言うのも先日母に送った手紙の返答は、商会長の手紙とともに早馬で届けられた。
これから先、私の衣装を作るために王都とロズウェルを往復して無駄な時間を重ねるのは双方にとっても損でしかないので、ロズウェルの商会長が王都への支店を出す段取りを私が作るよう頼まれているからだ。
そしてロズウェルの両親から王都での販路拡充を私個人の事業として押し付け……任された。
「まあ、ではロズウェルの品が直接並ぶお店が出来るのですか?」
「なんでも相談くださいませ、当家も助力させて戴きますわ」
それでも、こうして楽しみにして応援してくださる声を聞くと頑張ろうと前に踏み出せる。
まだ事業やビジネスというものは男性が主体であり、女性は内助に徹する風潮は強いが、文化や芸術品、そしてドレスやお芝居などの流行は社交と切って離せない女性の得意分野である。
たいていの男性は家に帰り夫や父親になればご夫人や令嬢達に敵わないという事例もここ数日で何度も見せて戴いたわ。
そんなご婦人達の期待を一身に受けた事業の邪魔など入りようもなく記念すべき一店目となったロズウェルの服飾店の支店がひと月も経たずに開店した。
まだ人手の確保も輸入される高級生地も取り扱える量に限りがあるので紹介制となっているが、いつか原材料を仕入れこの国でその生地を作れるように働きかけてみたい。
王都への販路が広がりを見せれば、王家とローズベル家、隣の領を持つリューベルハルク家が巨額を投じた共同事業が起こり、ロズウェルまでの街道の大規模な整備を始めた。
そして街道の中継点に補給や増えた人口対策を兼ねた宿場町や休憩設備も距離を計算して造っていく。
宿場町や休憩所には街道警備の騎士達を配置したおかげで、盗賊の被害も抑えられ、事故や病気で立ち往生する商人も減ったという。
一つの努力が実を結ぶと二つも三つも新たな目標や夢が生まれること、それを幸せだと思える今がとても愛しかった。
もしも『面白かった』や『続きが気になる』などと感じて頂けましたら
広告下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援してくださると
モチベ上がります、嬉しいです。
更新情報を素早く知りたい方はぜひブックマークもお願いします。
どうぞよろしくお願いします。













