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アリスの敗北

「椅子に座っても居られない下品な子ばかり。……ここはいつからナーサリールームの園庭になったのかしら?」



 アリスの取り巻きという立場を有難がる程度の令嬢達なら頭の程度も同じなのかもしれない。


 アリスがどんな噓を告げたのかはわからないけれど、侯爵家の家名を名乗っている人間に対してとる態度ではないので、こちらも遠慮せずに同等のお馬鹿さんとして扱うことにした。


 私の故郷をあざ笑う下位の令嬢達の暴挙に青ざめていた伯爵家の令嬢達が私の言葉を聞いて顔色を戻し、皆扇を口元に当ててくすくす笑って私の言葉に答えを示す。


 王都から遠いだけで田舎と言っているのかしら……。


 リリエンタール王国唯一の海の玄関口と言われる貿易港を持つ王都に次ぐ第二の都市ロズウェル。


 お父様の長年の努力と働きのおかげでいくつもの国と和平を結び港を繋ぎ様々な貿易が始まった。


 以前は国を囲む険しい山脈を避けて迂回する山賊が潜む危険な陸路から王都へと運ばれた貿易品は、今は常に海軍が目を光らせ安全と安心を掲げた穏やかな航路を渡りロズウェルに運ばれるようになり始めた。


 いまや諸外国がもたらす華やかな文化も流行もロズウェルへ一番に入ってくる。


 流行の中心は王都からロズウェルへ確実に移行しているのだ。



 ローズベル辺境伯家を愚弄したらどうなるか身を以て知ってもらうべきかしら。


 余りのうるささに考えごとに没頭していたからアリスや取り巻きたちの暴言は右から左へとすり抜けていくだけ。



「聞いているの!!この田舎者!」


「おい!田舎貴族が図々しい、立たないか!アリス嬢が話しかけているんだぞ!」


 傷つくわけでも怯えるわけでもない私の様子に苛立ったのかアリスが金切り声を上げると、ポイント稼ぎをするためか傍に居たアバンの友人令息が取り巻き令嬢を押しのけ私の前に立つと私を立ち上がらせようとしたのか腕を掴もうと動いたとき――――。



「侯爵夫人に乱暴を働こうとするとは、貴公はどこの家の者だ?」


「な、何をしやがる!放しやがれ!俺を誰だと思ってるんだ、何が侯爵夫人だ、取り繕ったところで田舎貴族は肥しの匂いがプンプンしてわかるんだよ!」


 私の頭の上で私の腕を掴もうと伸ばされた腕が別の腕に阻まれた。そして頭上から響く声は………イスラ卿じゃない、この声……まさか。




「……カイルッ」



 突然目の前に現れたのは物語から飛び出してきたような貴公子めいた容貌の彼--カイル--だった。


 彼の登場に周りが一気にざわめく。


 カイルの肩越しに見えるイスラ卿は私の視線が合ったことに気づくと手を動かして騎士役はカイルに譲りました、とジェスチャーで告げていた。


 それにしても軽く握っているように見えるのに暴言を吐いた男の顔は苦痛で歪む一方だ……手首から先の色がどんどん青くなっていく。


 相変わらず腕力ゴリラなのね……。貴公子フェイスなのに残念だわ。



「貴方こそどなたですの!勝手に入ってくるなんて此処がどこだかわかってるの?!」



 私へ嫌がらせをするチャンスを邪魔をされたアリスが叫ぶ。


 だから、招待した客の顔くらい把握しておきなさいよ……っていうかカイルにも出していたの?ゴリラだけど筆頭貴族なのよ。


 私も頭の中であんまりな事と言いながらちらりとカイルへ視線を向け咳払いを一つした。


「リューベルハルク大公閣下、そのあたりでお怒りを鎮め遊ばして。ご令嬢方が怯えてしまいますわ」


 彼の家名を告げれば、一瞬で周りが静まり返る。手首を掴まれている令息は可哀そうなくらい顔色が無くなりもはや土気色だ。


「ああ、他家の庭先で騒動を起こすわけにはいかないね、イスラ卿……挨拶もなしで悪いが頼まれてくれるかい?」 


 そう言ってから捕まえていた令息をイスラ卿へと渡し憲兵に引き渡すために移動していく。


「でも閣下が男爵令嬢の招待に応じるなんて……王都では遊び歩いているの?」


「男爵令嬢?……いったい何の事だい、私はロッテバルト侯爵家からの招待状だったから顔を出しただけだよ。婚姻式から2か月過ぎたからそろそろ君の社交界デビューの時期かと思って……でもどうやら私の先走りだったようだ」


 君がホストならこんな馬鹿気たお茶会になるわけがないと楽し気に告げてアリスを煽ってくれる。


 カイルが侯爵家の印璽入りの招待状を持っているのならあとで見せてもらうことにしよう。

 アバンが書いたものでなくアリスの名でそれが作られていたら爵位の詐称となる重罪の証拠になるし……。


 そんなやり取りを見ていたアルルベル嬢がどんなご関係ですの?とワクワク顔で問いかけてきた。


「リューベルハルク大公領は私の実家の領地と隣同士なのです、それに前大公夫妻と私の両親も学友同士でとても仲良しでずっと家族ぐるみの付き合いをしていますの」


「まあ、ではお二人とも幼馴染の関係なのですね」


「ああ、家族みたいなものだよ。生まれたときから傍に居たから」


 明るい空色の瞳を細め笑みを見せながら気さくに返事を返すカイルの姿にきゃあっと令嬢達から歓声があがる。

 こんなお兄様なら私も欲しいですわ、と羨ましいとはしゃぐ令嬢たちの姿についほっこりしてしまう。


 カイルに完全に背を向けられたまま無視をされているアリスが令嬢たちの輪に無理やり入り込んでカイルの目の前に立ちはだかる。


「カイル様!私のお茶会に来て下さって嬉しいですわ。さあ!こんなつまらない方々とお話しされてないで私どものテーブルへ来てくださいまし、自慢のお茶を振る舞いますわ。

 皆さん王都の流行にとても詳しくてこれからの社交シーズン、役立つお話が聞けると思いますの」



「……それは私も流行を知らぬ田舎貴族だと憐れんでの発言か?」 



 名前を呼ぶ許しも得てないのにファーストネームを気安く呼んだアリスへ不快感をぶつける。


 アルルベル嬢達の反応を見ると、アリスは他の令息に対しても不躾な振る舞いをしているようね……。



「そ、そんなつもりは……」


「ロズウェルを肥し臭い田舎だというのならロズウェルより牧場や畑の多い私の家は秘境じみた場所になるだろう。田舎臭さをうつしてしまっては申し訳ないのでそちらのテーブルへの招待は謹んで辞退させてもらう。

 もちろん他の催しに関してもだ、当家への招待状は出さなくて結構だと君たちのご両親に伝えておいてくれ」


 それは大公家の夜会の招待もしないし、仕事上の集まりであっても彼らの家の参加を拒否することを指している。


 状況の悪さに気づいた取り巻きたちは少しずつアリスから距離を空けるために立ち上がり、用事を思い出したとアリスに告げては散り散りに逃げ帰っていった。


 まるで蜘蛛の子を散らすように取り巻きたちが逃げ去り、アリスがぽつんと立っている。


 あら、これだと私のターンをやったら取り潰される家が続出しそうね……、私のほうが先だったのに、残念。


「ひっ酷いですわぁああ!私のお茶会を潰してしまうなんて!いくら私がアバン様の関心を得ている邪魔ものだからと苛めるのですね!もう…侯爵夫人でも許されない蛮行です!!アバン様に叱ってもらいますから、覚悟なさい!!カイル様もその女に騙されないで!私、わかってますから!!お救いしてさしあげますわ!」


 また許可を取らずにカイルの名を叫び、そのあと聞こえた言葉の意味の分からなさにカイルが見たこともない渋い顔を浮かべているものだから、そっちに気を取られているうちにアリスは中庭から逃げ去っていた。


 その後、カイルは別の集まりに行かないとならないと言って侯爵邸から立ち去り、残った令嬢達は口直しもかねて私の使っているサロンへお招きした。


 そして改めてお茶とお菓子を振る舞い、時間を忘れて楽しいおしゃべりに花を咲かせたのだった。

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