第三話 竜の代替わり
第三話 竜の代替わり
魔力の泉の暴走があってから、私とアクアマリンさんはアイリス様と共に各都市に向かった宝石将から現場報告を受けていた。
「他の都市でもやはり、魔物が襲って来ましたか…」
『はい。魔物は私たちやその都市にいた魔道士たちで撃退しましたし、アクアマリンの言っていた魔道具の活用で魔力の泉の暴走も収束出来ました。もうしばらく滞在して様子を見ます。』
「分かりました。ご苦労様でした。くれぐれも無理はしないで。」
『はっ!』
アイリス様が労いの言葉を掛けると、水晶の先のマティさんが胸元に拳を当てて敬礼をした。
マティさんの前にはイグニスに向かったパッシアさんとも、水晶を使って連絡を取った。
各都市でも魔力の泉の暴走を魔道具を使って魔力を吸収して飴玉にして、事態の収束がついた。
が、やはりどこの都市でも膨大な魔力に魔物たちが一斉に都市に向かって総攻撃して来たこともあったとか。
アクアマリンさんの読み通り、となった。
「今回の魔力の泉の暴走の原因は突き止めましたか?」
「はい。今回の事件の主犯は先日の黒外套の仕業かと。魔力の泉を一度壊すことで泉の暴走を図ったと思われます。」
「そうですか…。竜の所在は?」
「それはただいま鋭意捜索中ですが…。ああいったように竜の力を圧縮していると竜でさえも魔力感知が効かなくて、捜索は難航しています。」
「あの魔法…、圧縮の魔法を使うなど聞いたことがありません。恐らくアーテル様の元で魔結晶を受け取り、自分自身で魔法の使い方を決めたのでしょう。過去に魔導士としてアーテル様の元に訪れた者のリストアップをお願いします。」
「はっ、分かりました。」
アイリス様とアクアマリンさんのやり取りを聞きながら、私はどうしてあの黒外套が今回のようなことをしでかしたのか、それが理解できなかった。
竜の力を封印して各都市を魔物に襲わせるなど、今の平和な世の中ではありえなかった。本当にこの世界の崩壊を望んでいるのかと、疑問に思った。
「竜の封印を解く方法ですが…、少し心当たりがあります。」
「アイリス様、心当たりとは?」
私がアイリス様の問いかけると、彼女は薄く笑みを浮かべた。
「竜の"代替わり"です。」
「"代替わり"…?」
その場にいた誰もが聞いたことがない言葉に首を傾げていると、アイリス様はそっと自分の持っているキャンディポッドのロッドから飴玉を取り出した。
「皆さんにお見せしましょう。この世界の成り立ちと竜の存在について…。さぁ、この飴を皆さん舐めてください。」
その場にいた皆にアイリス様は飴を配ると、そっとロッドで床をつついた。
すると、ぶわっと床から宇宙のような空間が広がった。
――
この世界を創り出したのは、三原色の女神と言われています。
三原色の女神とは、火と愛情の女神の赤、風と癒しの女神の緑、水と知性の女神の青…。
その三原色の女神によってこの世界は色と魔法に溢れたものになりました。
そして、女神たちはこの世界を統治する七匹の竜を創造しました。
それが今回の事件に巻き込まれた七匹の守護竜です。
過去にも竜の力を欲したものが竜を封印し、その力を我が物にしようと企んだことがあります。
先代の女王はその時、竜の力を紐解く存在として、七人の竜巫女を用意したといいます。
竜巫女の先導で竜の力をわざと幼体化させ、その封印の力をなかったものにしたといいます。
それが竜の"代替わり"と呼ばれるものです。
――
アイリス様の声が遠くなると、飴玉の魔法の効力が消え、視界はクリアになり、今までいた城の女王の間に戻った。
アイリス様は目を閉じたまま、今回の昔話を振り返った。
「今回も昔と同じく竜の代替わりを行い、竜の力の弱体化を狙います。肝心なのは相手が竜の代替わりを知っているかどうかです。私たちには時間がありません。竜巫女を探す時間、そして相手と対峙する時間です。一刻も早く竜巫女を探し出して、竜の代替わりを実行しなければなりません。」
「その竜巫女っていうのはどういう人がなれるんですか?」
「竜巫女は竜に深く関わりがあり、尚且つ”竜巫女の器”と呼ばれるものがある、と言われています。」
「"竜巫女の器"?」
「はい。竜巫女になれる人物の心には竜巫女の器と呼ばれる精神的魔道具があるとされているのです。それを見つけられるのは、竜の試練巡りをしたものだけ、と…。」
アイリス様がそこまで言うと、その場にいた誰もが私に視線を送った。
「へっ…?わ、私が見つけ出すってことですか?」
「イヴ、申し訳ないのですが、この役目、引き受けてくれますか?」
「は、はい!私が責任を持って竜巫女を探し出して見せます!」
「オパール、一人で七人すべての竜巫女を探し出すのは大変だろう、もう一人旅の同行者を付けることができるが、誰を指名する?」
アクアマリンさんがそういって私に申し訳なさそうな視線を送りながら、提案をしてくれた。
「そうですね…。見知った人がいいですから…。あの、パッシアさん…いえ、ガーネットさんを指名することはできますか?」
「ガーネット?あいつは今イグニスにいるが…。」
「イグニスまでは私一人で行きますから、大丈夫です。一緒に竜の試練巡りをしたので気心が知れていますし…。あ、宝石将をこれ以上他のことに駆り出すのはよくないですかね…。」
私は宝石将というパッシアさんの立ち位置を思い出して、訂正をしようかと思ったが、それをアクアマリンさんが手で遮った。
「いや、大丈夫だ。イグニスには別の宝石将を送る。オパールはガーネットと共に竜巫女を探し出してきてほしい。」
「そうですか…、よかった。それじゃあ、直ぐにでも出立します。」
「イヴ。」
私が女王の間から早速旅支度をしに…とその場を離れようとした時、アイリス様が声を掛けてきてくれた。
「??」
「イヴ。あなたの力を再び借りることになってしまってごめんなさい。ですが、これはこの国の危機です。どうか、力を貸してください。」
「はい!任せてください!」
私はアイリス様に声を掛けられて頭の上にはてなマークを浮かばせながら、振り返るとアイリス様が申し訳なさそうに眉を下げながら、そういってくれた。私はその言葉に力強く返事をして、女王の間を後にした。