第二話 溢れ出る魔力
第二話 溢れ出る魔力
私はアクアマリンさんに指示された通り、城の地下に眠っているはずのアルクス様の元へと急いだ。
「なっ…!」
しかし、時すでに遅し。アルクス様を祀っていた神殿からアルクス様だけがポッカリといなくなってしまった。
神殿前にある魔力の泉もボロボロに壊され、空気中の魔力量も薄くなっていた。
予め、泉を壊し空気中の魔力量を低くし、竜の力を最大限発揮させないための策だろう。
アルクス様の神殿を何度も、そして隅から隅まで調べてもアルクス様の姿は見つけられなかった。
私はこの世の絶望とまではいかないが浮かない顔をしていたらしく、アクアマリンさんに報告に行った際、私の顔を見るなりアクアマリンさんは私の肩にぽんと手を置いた。
「アルクス様も居なかったんだな?」
「…はい。跡形もなく消えておりました…。神殿内部も隈なく探したんですが…。これと言った証拠も無くて…」
「そうですか…。気を落とすのはわかるが、そう顔に出されると民も不安がるだろう。宝石将として堂々としていなさい。」
「!す、すみません…。」
「ま、あの"破壊の竜"との戦いの後だ。君が竜のことを心配に思う気持ちも分かる。一刻も早くこの事態の収束に俺も努めよう。」
「ありがとうございます…!アクアマリンさん!」
私の表情について叱咤激励をしてくれたアクアマリンさんに私の気持ちも少しは上向きになった。
そこで次の指示を仰ごうとアクアマリンさんに声をかけようとしたその時。
ゴゴゴゴ…
ズドォォオオオン!!!
小さな横揺れから始まったかと思えば、とてつもない轟音と共に何かが地下から溢れ出る音がした。
「何事だ!」
「アクアマリン様、大変です!魔力の泉が異常に溢れ出て水柱を上げています!視認出来るだけでも他の都市でも水柱が上がっているそうです!」
「なに!?」
私もその現状を確認しようと、アクアマリンさんと共に城のバルコニーに出た。
すると、先ほど通達に来た衛兵さんが言う通り、城の地下から水柱が上がっていた。それはアルクス様がいるはずであろう、地下の神殿からだったようだ。
離れたところにいる私たちの元まで濃度の極めて濃い魔力量を感じ取った。
「アクアマリンさん…!これでは魔力を欲する魔物たちが央都に攻めてきてしまいます!」
「この魔力の泉の異常なまでの噴出の仕業はあの黒外套のやつで間違いないだろう。恐らく他の都市の水柱も、だ。魔力の泉の魔力を欲して攻めてくる魔物たちの攻撃で更に混乱を招くつもりだろう。」
「それじゃあ、あの黒外套の思うツボですよ!」
「だから、こちらもそれに対抗するべく動くしか他ない。おい、保管庫に眠っている吸収魔道具を水柱のあるところまで持ってくるんだ、今すぐにだ!」
「はっ!」
アクアマリンさんは近くに待機していた衛兵さんにそう指示をすると、"オパールも付いてきてくれるか。"と言って、バルコニーから移動した。
――
私たちが城の外の未だに水柱が上がっているところに着くと、ちょうどよく保管庫から魔道具を持ってきた衛兵さんがやってきた。
「アクアマリン様、お持ちしました。これで間違いないでしょうか。」
「ふむ、間違いない。」
そう言って衛兵さんから魔道具を受け取ったアクアマリンさんは両手で抱えるほどの魔道具を弄り始めた。
「アクアマリンさん、それは…?」
「これは空気中の魔力を吸収する魔道具だ。アイリス様の魔法からヒントを得て吸収した魔力は飴玉になるようになっていて、またその飴玉を舐めると魔力回復にもなるものだ。」
「へぇ…!そんなすごいものが…!」
「まだ試作の段階だが、こういった膨大な魔力に遭遇した際に使うことを想定していたが…。まさかこんなに早く使うことになるとは…。」
そうブツブツ言いながらアクアマリンさんは魔道具をごちゃごちゃと構うと、その魔道具を起動させた。
青白い光が魔道具から上がり、そのまま光は水柱にぶつかるとキィン…という金属音のような音と共に吸収を始めた。
魔道具の下部分がガラスのような透明な入れ物になっており、そこに飴玉が次から次へとコロンコロンと出来上がっていった。
やがて水柱が落ち着き、泉の水量が通常の量になったことを確認するとアクアマリンさんは魔道具に近付いた。
「これでもう大丈夫だろう。他の都市にも確かこの魔道具は配布していたはずだ。稼働は初めてかもしれないが、事態の収束には役に立つ。他の都市の宝石将にも魔道具の使用を知らせろ。」
「はっ!」
アクアマリンさんから魔道具を受け取った衛兵さんは敬礼をするとすぐさま魔道具を持ってその場を後にした。
パッシアさんは火の都市イグニスに向かったと聞くが、どうなっているか心配だった。
「!」
「一足遅かったが…膨大な魔力量に惹かれて来たか…」
アクアマリンさんと共に私が見つめる先には、城門の向こうから魔物がドドド…と押し寄せて来たところだった。
「オパール、戦えるか。」
「はい!もちろんです!」
私は魔法を発動させて氷の鎌を顕現させた。アクアマリンさんの武器は片手剣のようで腰には愛剣の直剣が下がっていた。
「はぁっ!」
「グガァッ!」
次々と襲ってくる魔物を城内に入れないよう、私とアクアマリンさん、そして衛兵さんたちが城門の前で戦闘を繰り広げていた。
「これで最後!」
ザシュッ
「ガァ…ッ!」
私が最後の一体の魔物を鎌で切り伏せるとやっとその場に静寂が訪れた。
「ご苦労だった、オパール。戦闘スキルはガーネット仕込みのようだな。動きに迷いが無い。」
「ありがとうございます。アクアマリンさんも剣の扱いがお上手でしたね。」
「俺は元々騎士育ちだからな、剣の扱いには慣れている。」
「そうだったんですね!他の都市の皆さんは大丈夫でしょうか…」
「魔物を倒している間に各都市から連絡が来てるだろう。戻って確認しよう。」
「はい!」
そう言って私とアクアマリンさんは城内に戻ったのだった。