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修道院から悪意を込めて仕返しをしたいと思います

ここは丘の上の修道院


「疲れた」

ベッドに倒れるようにうつ伏せになり、クッションにおでこと鼻を押しつける。

ぎゅーとすれば、痛みなのか別の感情なのか、勝手に涙が目から溢れる。

鈍い頭痛に、嫌なことばかり思い出す。


「リラディア様、起きて下さい。夕食の時間です」

「えっ」

起き上がると真っ暗な部屋になっていた。

「何事?」

と同室のマリッセ様がまじまじと私の顔を見る。

「嫌な事を思い出しただけ」

と言って、簡素なワンピースを叩き、食堂に向かう。

「もしかして、ルシアさんの事思い出したとか」

パッと横を見る、とんでもない悪役顔をした令嬢が笑った。

「そうよ」

「まぁ、うふふ、それは。夕食後お勤めの時間が終わったら話しましょう」

とマリッセ様に言われた。


同室のマリッセ様に

「見てこの手、爪も割れて、あかぎれに血も滲んでるわ。足もよ。痛いし、冷たいしボロボロよ」

と言うと、

「リラディア様、私もですよ。水は冷たいし、掃除って大変ですね」

「本当よ、なんでこんな事になったのって、ここ数日考えない事がないわ。ルシアさんに注意しただけなのに」

と言えば、被せるように、

「私なんて話した事もないんですよ。それなのに、いつも睨みつけるとか悪口を言われているとかで、ここですよ」

とマリッセが興奮気味に言う。

ここは、修道院。

強制施設のような扱いで私達は、朝、鐘が鳴ってお勤めという掃除だの神への祈りを捧げながら、奉仕活動をしている。

私達がこちらに来て三日経った有り様がこれだ。

「リラディア様、何かおかしくありませんか?ルシアさんの話す事ばかり信用され、あの方が怖いわと言えば、王子殿下の一存で修道院送りで奉仕活動させられる。注意をされただけですよね」

「えぇ、ルシアさんが食堂で並ばず、割り込んだので、皆さん並ばれていますよと」

「ですよね、私も見ていましたから。リラディア様もルシアさんに婚約者を取られたとかありますか?」

「いえ、私は、まだ婚約者がいないし、他の御令嬢方のように婚約者と仲良くされて怒ったわけではないわ」

「私達を含めて10人ほど修道院もしくは領地に療養されてます」

とマリッセ様が遠い目をしながら話す。

「そうね。皆さん当たり前のことをおっしゃっているだけなのに、何故王子殿下は、私達の話も聞かず修道院に送るのかしら?変よね。まるで操られているみたい」


二人で何故王子殿下が男爵令嬢のルシアさんの話だけしか聞かないのか、そして何故すぐにいじめられたと言って、修道院に送るのか、婚約者のいる方々ばかりに話しかけにいくのか私達は不思議がっていた。そして同室で同じ状況下の私達は、すっかり仲良くなった。


「ねぇ、リラ、教会の書物室の掃除をしていたら、これ『黒魔法の本』見つけちゃった」

「何、黒魔法なんて怖いわ、マリッセ」

「私に魔力なんてないし、リラはある?」

「ないわよ、魔法や魔力ってかなり昔話でしょう。王族には僅かに魔力ってあると噂で聞いた事はあるけど、それも本当かどうか怪しいわ」

と言えば、マリッセも残念そうに

「パラパラ見たら、この1枚目の魔方陣に魔力を注がないと何も始まらないみたいなの。数枚は読めるけど成り立ちみたいな事が書いてあったわ」

と私に見せた。

魔法陣を見てもわからない。幾何学模様と知らない文字。

「マリッセはこれに何かしたの?」

「発動するかなって手のひらを当ててみたりしたけど、反応なしよ」

「そう…」

私も恐る恐る魔法陣に手のひらを当ててみる。

何も起きない。光らない。

「やはり駄目ね、私も発動しないわ」

と言ってパラパラ捲る。

「…」

明らかに読めるページが増えている。

「ねぇ、マリッセこれって」

と顔を見れば、マリッセは黙って考察していた。私も黙って読んでみる。成り立ちには、魔法とは魔力が必要で血が流れる感覚で魔力を動かす事が書いてある。そして黒魔法は相手の魔法を跳ね返す、まとわりつく事が出来る。そして新たなページで、魔法陣を使って魔力を貯めて発動することができる。


「ねぇリラ、私達魔力は微力ながら持っていると思うべきじゃない?」

「確かに、じゃないとページが増えた理由がわからないわ。明日も検証すべきね、マリッセ」

と言って今日は休むことにした。


朝起きて二人して魔法陣に手のひらを当てたが、ページも増えない。

「どういう事かしら?」

「血を流す感覚で魔力を流す」

とマリッセが言って二人で試行錯誤してみたが、全く結果は出ない。

私は、何気なくマリッセに言う。

「最初にページが増えたのって今まで身体に貯めてた魔力だったりして、それ全部吐き出したとか」

と言えば、マリッセは顔を上げ、

「一理あるわ、やってみましょう」

と言った。

えっ、この案が採用なの、と驚いていると

「リラ私薬学研究所で仕事をしたいの。早く学園に戻って優秀な成績を取らないと選出されないわ」

「マリッセ」

そう、私達は、まだまだ勉強したい。私が婚約話を断っているのも同じ理由だし、マリッセと気があったのもそこだ。マリッセは薬関係、私は、寒さに強い作物を育てる事。

「確かにまだ勉強が必要よね、辺境の地で育った私は、あんな立派な図書館を知らなかったもの。早く戻って本が読みたいわ」

「その通りよ、リラ。この修道院には、後7人の令嬢が学園から送られているわ。彼女達にも協力を頼みましょう。もしかして魔力持ちもいるかもしれないし」

と、早速、ルシアさんに関わって学園から修道院にきた令嬢に声をかけた。


「黒魔法怖いですわ」

「仕返しなら是非協力します」

「魔力なんてないわ」

と7人ともそんな事を言っていたが、朝食後の食堂に集まり黒魔法の本を中心に囲んだ。

その様子を見て思わず笑ってしまった。

「どうしたのリラディア様?」

と聞かれて、

「なんか童話に出てくる魔女みたいじゃない?毒リンゴを作る鍋をみんなで囲んでいるみたいだなぁって」

と言えば、マリッセが呆れて

「私達みんなルシアさんに修道院送りにされたようなものだし、毒リンゴじゃなくて黒魔法を発動させようとしている点は一緒だけど面白いかしら?」

「ごめんなさい、ちょっとね光景がね」

と言うと、私を置いてみんな始めようとしていた。


令嬢の一人ずつ魔法陣に手のひらを当てていく。

本は光らない。

最後の一人が手のひらを当てた。

しかし変化はない。

「失敗ですの?」

と令嬢の一人が言う。マリッセが本をパラパラ捲る。

私達二人で見ていたページより数ページ増えていた。

そして呪文のようなものが浮かび上がっている。

「これは魔法?」


『心を見せる』

一日中、対象者の心が声になる


これしかない。

「これは、ルシアさんを暴くには良い魔法なのではないかしら?」

とマリッセが言うと、

「そうね、あの方、私の婚約者の前では可愛く甘えていたけど、実際は私達を落としめた性根の悪い方だと思うわ」

「これで少しでも王子殿下が気づいてくれれば、変わるかもしれないわ」

「そうね」

とみんなで頷く。ずっと魔法がかかった状態は可哀想だけど、一日と限定されるなら、という思いもあった


「さあ、せっかくだしみんなで呪文を唱えましょう」

とマリッセが言い、私達は、お互い手を繋ぎ、


「「「ルシアの心よ、その真実を曝け出せ」」」


と声を揃えて言う。

すると黒魔法の本が浮いた。

何かを込めて空気を飛ばしたかのように、呆気なく本は、机に落ちた。

みんな手を離し、しばらく呆然としたが、シスターが来てお勤めをしなさいと叱られた。

夕食時、いつもは無言で一人ずつ食べていたが、今日は、まるで昔からの友達みたいに和気藹々で食べた。なんかみんなすっきりとした顔をして、嫌な気持ちが晴れたようだ。

もちろん私もだけど。

「マリッセ、黒魔法発動してどうなったかしら?届いたかしら?

「わからないわ、リラ。でもすっきりしたわね。仕返ししたからかしら。特に変わってなくても、黒魔法をかけたって事が仕返しよ」

「確かにボロボロになった爪や手ぐらいの仕返しとしてすっきりしたわ」

と自分の手を見ながら言った。掃除が大変って事もわかったし我が家の侍女や使用人に感謝の気持ちが芽生えた。

結果なんてどうでもいい、今はちょっとすっきりした気持ちのまま眠れる。

「おやすみなさい、マリッセ」


そして一方、学園では、大事になっていた。

いつも可愛いルシアが、

「またこいつ寄ってきて、最近面倒なんです

よね」

と騎士団長の令息に言えば、周りからざわめきが聞こえる。慌てルシアが一人の令嬢を指す。

「あの子に言えって命令をされて、誰でもいいわよ、適当に誰かが言ったことにすればどうにでもなるし」

と言って慌て口を手で押さえる。

「なんでありのままが言葉で出てくるの!嫌」

と首を振りながら言っていると、

第一王子が近寄ってきた。

「レッセン様、おかしいんです。思ってもない事が、思った事をペラペラ全部話しちゃうの。最悪。誰かが何かしたのよ。早くみんな修道院送りにしなさいよね、適当に理由をつけて始末してよ」

ザワザワと周りが騒がしくなった。

「レッセン王子様、違うんです。見るな、あっち行ってよ。あーもうなんなの」

と口を押さえて、ドタバタしている。その様子にレッセン王子も騎士団長の令息もチャラ男侯爵令息も驚いて、目を見開き口も何を言うでもなくパクパクさせている。

「何よ、その顔は、たかが乙女ゲームのキャラクターなのくせに驚いていないで何とかしなさいよ」

と言えば、三人とも自分のことを言われたと顔を真っ赤にして

「いい加減にしろ。我儘が過ぎるぞ」

「何様のつもりだ。不敬だぞ」

「調子に乗りすぎだろう」

と捨て台詞を残して去っていく。

「なんで、みんなの悩み解決してストーリー進めたらハーレムルートで選び放題でハッピーエンドって言ったじゃない」

とルシアはその場で座り込み泣き出していた。


この騒ぎがあまりにも大きくなって教師達がルシアを別室に連れて行き、事情を聞く事になった。


そして次の日からルシアは学校を休み始めた。

その二日後には、修道院送りのご令嬢が皆、学園に登校してきた。


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