少しの油断にゲーム関係者を捩じ込むのは強制力ですか?
そのまま、時は経って学園入学まで一か月を切った。
制服も流石乙女ゲームと納得の可愛さに、私は、可愛いって感じ合わないかぁと残念ながら、あまり似合ってない。
一生懸命、ルナが
「大変似合ってます」
と言ってはくれるもの背も高くなり体術のおかげか手足の長い令嬢になった。ふわりとしたものは似合っていないがフォーマルドレスは、似合っていると自負している。
「まぁ、いいわ。私に合わせてデザインされた訳ではないのだから、こんなもんね」
突然扉がノックされた。執事のトーマスだ。
「トーマス、やっと私と組み手してくれますか?」
「いえ、お嬢様、旦那様がお呼びです」
扉を開けると乙女ゲームの攻略対象者がいたなんて事があるんだなと怖いよりも嬉しさ、ワクワク感が出てしまった。
父が立ち上がり、
「こちらレイリー・セルゲイ侯爵令息だ。一度会って話をしたいとのことだ。カトレア、まぁせっかくだからお茶でもしてきなさい。来月から学園に入るのだし、聞きたいこともあるだろう。彼は、生徒会に入っているから色々細かな点も知っているだろう」
と仕方なしとの言い方で私を追い払う。
「まさか国王様まで使ってくるとはね。セルゲイ侯爵なのか息子の方か、何故目を付けられたのか?」
と誰もいない執務室で呟くリスト侯爵。
庭の見えるサロンにお茶やお菓子の用意がされていた。準備は万全だった。
トーマスが椅子を引いてくれ、私達は、対面に座り顔を合わせる。
流石攻略対象者である。瞳の色を除き第一王子によく似ている。
「初めまして。カトレア・リストと申します」
「初めまして?乗馬はカウント無しですか?レイリー・セルゲイです」
「フードを被っていた方が、貴方様だったのですね」
とワザと驚いたふりをした。
何故私に目をつけたかを暴きたかった。
これがゲームの強制力なのかも知りたい。
鋭い目つきになり、私を真っ直ぐに見る。そして
「異世界転生」
とぼそっと言った。私はその台詞で慌てしまい、立ち上がろうとした際に、手がカップに当たり、お茶が溢れてしまった。
レイリー様は、フッと笑い、
「カトレア嬢、庭の花が咲き始めてますね。案内していただいても構わないですか?」
と話題を振ってきた。
「気がつきませんで失礼しました。是非案内させてください」
と言い、ルナに
「お茶溢してしまったの。テーブルクロスの替えをお願いね」
と言ってから、外に出る。
庭に出て、レイリー様は、すぐに
「やはり君も転生者か。俺の中に違う記憶が浮かび上がったのは、学園入学後の休み前のサマーパーティーで一人の女の子が覗き見していたのを見たんだ。不審に思って近づこうとしたら、頭の中で警報のようにドンとした音と痛みが来て…。自分の生い立ち考えてたら、ゲームやラノベぽくないかって」
「何故私が、転生者だと?」
「乗馬であった時、顔を見ただろう?なのに第一王子のことを聞かないし、お互い頑張りましょうと言った。あの時髪型も服装まで第一王子そっくりにされて、影武者みたいで、ムカついて飛び出した」
「あの時やはり、何も言わずに別れるべきだったんですね」
と笑ってしまう。すると、レイリー様は、私の手を取り、
「嫌なことなんて、みんなあると気づかせてくれた。あれから俺は、あの人達に合わせる事はしないし、自分の考えで動いているよ。感謝しているよカトレア嬢」
と握られた手は、熱い。
「とんでもない感謝なんて」
と手を離そうとしても逃がしてはくれないようだ。
「で、これはゲームかな。随分顔面偏差値高いからな、どうだろうカトレア嬢?」
と顔面偏差値の高い顔で私を見るのは、やめてもらいたい。
「そこら辺は、わからなかったのですか?これは乙女ゲーム『ピンクローズは恋華に舞う』です。
第一王子レッセン様が王道。
男爵令嬢のルシアが普通を攻略対象者に教えてあげながら、自分らしさとは何かを攻略対象者が考え、前に進むべき道を決める。
最後結ばれる攻略対象者とパーティーで中央の広間でクルクル踊る、というエンディング。
三年に攻略対象者の、王子護衛騎士、宰相の息子
二年に、第一王子、側近の公爵令息、チャラ系の侯爵令息
一年に、ワンコ系の騎士団団長の息子
そして隠しキャラが、二年にいる侯爵の息子(第一王子の双子の弟)という設定でした」
私の言葉を理解しようとはしているが中々飲み込めない顔をしているレイリー様を可愛いと思った。
「何?隠しキャラを笑ってるの?」
「まさか、レイリー様が出るパターンとしては、第一王子の婚約破棄後、婚約を申しこまれながらも引き伸ばし、その様子に興味を持つレイリー様が出現って感じです」
「何だよ、それ。別れさせておいて相手を袖にするって感じ悪くないか。よくレッセン王子が許すな。関わりたくないタイプだなぁ。そう言えばカトレア嬢は、誰かの婚約者の役だからゲームから避けているのか?」
「いえ、違います。私の役割だったのは、レッセン王子に憧れるヒロインと同級生の第三悪役令嬢です。ヒロインの机から荷物を隠したり、悪口を言ったりして、修道院送りになるはずです。所謂最初の仕掛け人かしら」
「何暢気に言っているの?最初の仕掛け人なんて嫌じゃないの?」
「嫌ですよ、だから婚約者を決めるお茶会も行きませんでしたし、学園では目立たずにいようと決めています」
とさも当然のように言う。この二年、勉強、体術、ダンス、刺繍、暇だったし楽しかったのでどれもこなす自信がある。
「そんなの甘いよ、同級生だから無理矢理に悪役令嬢させられるかもしれないな。学年変えた方がいいよ。明日、編入試験がある。今から学園に掛けあってあげるよ」
「えっ」
と言っている間に、レイリー様は、バッと振り返って
「たぶん、ヒロインも転生者だろう。サマーパーティーで覗き見していたのは、品定めの印象がある。ゲームを知っている可能性が高いよ」
と、最悪な言葉を残して帰って行った。
翌日、考えもまとまらない内にレイリーの言われたままに編入試験を受けることになった。
驚いたのは、隣の国の王子と王女と共に試験を受けた事だ。
こんな濃いキャラクターをゲームは無視出来ないだろうに、何故なんだろう。
ゲーム自体変わっている?
数日、気分もすぐれずグダグダと過ごしていると、トーマスとルナが来て、
「編入試験合格ですよ、お嬢様。レイリー様と同じ学年ですね。ご立派です」
と訳も分からず受けた試験、合格と聞くと嬉しくなるのは前世の記憶かしら。
そして夕飯は豪華だった。お父様、お母様、ルシフェル兄様、何故かレイリー様。
「何故?」
「酷いな。婚約者に向かって」
「本当に?」
と驚いてしまった。よくよく聞くとお互い知らないし、知っていこうみたいな話らしいが、これはほぼ決まりだろう。お父様は、私と目を合わせない。
「権力に屈したのですね、お父様」
と聞くと、ガタッと椅子が揺れた。
「何を言っているカトレアは。編入試験合格祝いだ。豪華だろう。学園と橋渡しになってくれたレイリー君も一緒に食べるのは当然だろう」
と言いながら、私を見ない。
「お父様が覚悟が出来ているなら私は、受け入れますよ。家の為に」
と私と父の攻防にお母様と兄様は、何事?と言う顔で見ている。
一人笑っているレイリー様。
「面白いですね。リスト侯爵が戸惑っているところが見れるなんて驚きです。リスト夫人、ルシフェル兄上って呼ばせてもらいたいな。私は、第一王子の双子の弟なんですよ。それで、カトレア嬢も言葉を濁していたんですよ」
と笑って言う。お母様もお兄様も目を大きく開け、驚いている。そしてお父様を見ている。
「ハァー、なんで自ら言うんですか?困った人だ」
と恨めしそうにレイリーを見る父に、笑った。
「カトレアはいつ気づいた?最初から断っていただろう」
「以前乗馬で一度お会いしまして、その時、目が合いました。第一王子に瞳の色以外似ていたので、何かあるなと、面倒なのは嫌じゃないですか」
と言えば、お母様とお兄様は、ヒッと薄い声が出て、レイリー様は、一人笑っている。
「確かにね、はっきり言えば、第一王子がもし死んだら、呼び戻されるからね。スペアってそんな感じだよ。それにこの事を知っている者は多い。私もたまに命を狙われているよ、誰かはわからないけど」
「ヒィ」
とお母様はひきつってしまった。それよりも
「昨日の編入試験に隣国の王子と王女が受けてましたが不思議です」
ゲームでは出て来ない事を仄めかした。するとレイリー様は、
「また一人いるかもね」
と言った。なんだって、と思いながらも確かにそうかもしれない、イレギュラーは、転生者を疑うべきだろう。
「何がだ?」
「いえ、お父様、騒ぎになる学園生活になりそうですわよって事です。例えばの話、王女が第一王子レッセン様に恋慕を抱いたら、婚約者のイライザ様は面白くないでしょうし、その他の令嬢が出て来ても揉めますわ」
「まさかそんな事ある訳ない…とは言えないな。あちらの国だって学園はある。何故、ここに来たのかはあるな」
と真剣な顔つきで話す。お兄様まで
「最後の一年が揉め事なんて嫌だなぁ、イライザ嬢は、クラスメートだし」
イライザ様はレッセン王子より一歳上の公爵令嬢。これはゲーム通りの設定だ。
夕食後、馬車が来るまでお茶を飲む。
「だいぶ変わりそうですね」
と言えば、レイリー様は笑った。
「ヒロインがすでに準備中らしいからね。巻きこまれたくないだろう。はい、カトレアの分の眼鏡。入学式もダサめで来て欲しい。多分その方が身を守ると思う。誰がどう動くかを見てからにした方がいい。第三悪役令嬢をだいぶ変えただろう」
「そうですね、誰が第三悪役令嬢をやるのかも知りたいし、ゲームの流れも見極めたいですね。レイリー様は、レッセン王子様を助けてあげますの?」
「一年かけて色々話した成果があれば、男爵令嬢に落ちないと思うが、どうだろうね」
とニヤニヤ笑っている。
「何故笑っているんですか?」
「ちょっと面白くないか?」
「確かに」
と言って二人で笑った。
ルナから
「とても仲が良い婚約者同士でとても良かったです」
と言われた。
「やめてよ、ルナ。婚約者じゃないし」
そして一ヵ月が過ぎ、学園入学の日、受付を済ませて、レイリー様に呼ばれる。木の影に隠れる。
密着にドキドキする。
「おい、来たぞ。あのキョロキョロしている奴がサマーパーティー覗き見していた」
とレイリー様は、言った。私は、一目でヒロインだとわかった。特徴的なピンクのふんわりロングヘアーにサイドを捻じり薔薇の留め具。
「間違いありません」
と言うと、違う方向から、
「あの子がルシアで間違いありません」
と聞こえた。目が合えば、隣国の王女だった。