転生者でゲームって分かれば避けるのは当然です
短い話ですが、よろしくお願いします。
「ブハッフフフッフフフッ」
思わず笑ってしまった。それも高飛車系のやつ。
「お嬢様大丈夫ですか?何かとても、とても怖いのですけども」
「気にしないでルナ。少し落ち着きたいわ、お茶を頂きたいわ」
と顔が青褪めているルナに言う。
「しかしお嬢様、額から血が出ています」
「まぁ、転んだんだから、血も出るわ。気にしないで」
まさかこのタイミングで思い出すなんて。ルナには感謝だわ。
明日は、第一王子レッセン様とのお茶会、いわゆる集団お見合い。
「危なかったわ」
これは悪役令嬢が決まる一幕だ。
ここで王子から誰が指名されようが、第一の悪役令嬢でこのお茶会ど派手な振る舞いをした令嬢が、第二、第三の悪役令嬢になる。
ヒロインを貶めるダサい令嬢なのよね。
みんな修道院送りだし。
「お嬢様、誠に申し訳ございません」
「気にしないでルナ」
「しかし、その傷、明日に治らないかと思います」
「明日は、行かないわ。今からお父様に報告してくるわ」
「えっ」
と真っ青になるルナ。
「ルナが悪いわけじゃない。ドレスを散らかした私が悪いの。たまたまルナが片付けてくれようとしたドレスを踏んで転んだのも私の勝手よ。気にしないで」
と言うと、執事のトーマスを呼ぶ。トーマスは、ギョッとしたが、執務室に通してくれた。
「失礼します。お父様。私、転んで額を怪我してしまって明日のお茶会は、辞退させて頂きたいです」
と笑顔で言うと、お父様もギョッとした顔で、
「カトレア、良いのかい?あんなに楽しみにしていたのに」
「えぇ、レッセン様は、私10才のお茶会でお会いした時に天使のような王子様だと憧れましたが、あれから三年経てば憧れも冷めます」
と昨日までレッセン様レッセン様と言っていた癖に掌返しのように言った。
「後悔しないね」
とお父様は、私に確認を取る。
「はい」
と大きく笑顔で頷く。そして執務室を後にする。
廊下には、お母様がバタバタと近づく。
「何が起きたの?」
「お母様、ドレス散らかして滑って転んでしまい、明日の王宮のお茶会には不参加をお父様に話してきました」
と言うと、よろめきながら侍女に支えられているお母様に
「では、失礼します」
と言って自室に戻った。
そう、私はこの乙女ゲームでは、第三悪役令嬢なのよ。
すぐやられるダサい令嬢なのよ。攻略対象者によって順番は違うが、すぐに修道院送りにされる、カトレア・リストだ。確か教科書やバッグを隠して捨てたり、罵ってる役だったはず。
「悪い事だけど、それだけで修道院送りなんて、攻略対象者怖いわ」
と呟き、机に向かい取りあえず、覚えている事を書き出した。
『ピンクローズは恋華に舞う』
第一王子レッセン様が王道。
男爵令嬢のルシアが普通を攻略対象者に教えてあげながら、自分らしさとは何かを攻略対象者が考え、前に進むべき道を決める。
最後結ばれる攻略対象者とパーティーで中央の広間でクルクル踊る。
まぁ、通勤時間に利用出来る楽なゲームだった。無課金でエンドまで見れるのも良かった。
「このタイミングで気づけてラッキーだったし、私、ヒロインと同級生だから学年ごとに悪役が必要だったのかもしれない」
三年に攻略対象者の、王子護衛騎士、宰相の息子
二年に、第一王子、側近の公爵令息、チャラ系の侯爵令息
一年に、ワンコ系の騎士団団長の息子
そして隠しキャラが、二年にいる侯爵の息子(第一王子の双子の弟)という設定だ。
「特に推しもいないし、普通に当たり障りのないよう過ごすべきか。でもこのタイミングで思い出すってヒロインも転生者か悪役令嬢かまさかの王子ってパターンもあるな。ふふふっ目が離せないな。しかし私ってば勝ったな、ふふふっふふ」
と笑っていると侍女達が、不気味に感じながら、部屋に入り治療する。まぁ、濡れたタオルで冷やして、綺麗な布を貼るだけだが。
「ルナは?」
「荷物をまとめています」
「なんで?」
「お嬢様の楽しみにしていたお茶会を駄目にしてしまった責任を取ると言って」
「やめてよ。私が転んだだけよ。それなら私が侯爵令嬢辞めなきゃいけないわ」
と言うと侍女達は、みんな目を丸くした。
翌朝
「お嬢様、ありがとうございます」
「ルナ、こちらこそ感謝しているのよ。王子様の婚約者を決めるお茶会なんて、私じゃ恥をかくだけ、本当に良かったわ」
そう、カトレアは今まで美容には関心があったが勉強は一生懸命ではなかった。なので礼儀や会話などとても浅い。
「これから、これから。せっかくこの世界にいるんだから色々見てみよう。ルナ、ポニーテールでお願い」
と言うとルナが首を捻って
「ポニーテール?」
と聞く。
「髪の毛全体を高い位置に結ってくれる?」
「畏まりました」
「乗馬服ってある?」
と聞くと
「存じ上げません」
「ルシフェル兄様からズボンとシャツを借りましょう」
「駄目です、お嬢様、御令嬢が男装なんて」
「乗馬をするだけよ」
と言って無理矢理、私は男装のつもりはないが、ルナから見ればこれは男装らしい。
「不便ね。もっと自由でいたいわ」
馬舎に行き、ここに鞍があって良かったと本当に思う。お尻の皮が剥けちゃうわ。
御者に驚かれたが、令嬢乗りではなく跨がる姿にルナも慌てたが関係なく
「行ってきます」
と言って走らせる。やっぱり気持ちが良い。リスト領は、麦畑に牧草も多く酪農も盛んだ。鉱山や海もなく果樹園もあまりない。酪農のおかげで私みたいな令嬢でも馬の乗り方は、教えられる。そして私は前世で乗馬障害物競争を高校大学とやっていた為、かなり乗馬は得意だ。
「本当に気持ちいいわ、風になるわ」
目の前にレインコートみたいなものを着ている青年がいて、
「よし、抜かそう」
と勢いをつけた。抜くと抜き返され、少しムキになる。
「なによ」
と小高い丘まで競争する。
「ブハッハハハ」
思わず笑ってしまった。全く知らない人にムキになって競争しているのだから。
隣を見ると、笑っていた。レインコートの帽子を深く被っていた。顔を見られたくないのだろう。
だから木を指す、
「私は、ここの景色を見に来ただけ、ムキになってごめんなさい。楽しかったわ、ありがとう」
と言って木を目指し、枝に縄をかける。
この景色は、攻略対象者がヒロインに悩みを打ち明ける場所。やはり自分の目で見ておきたかった。
なんて考えてたら、近くにレインコートの青年がいた。
「嫌な事があって、逃げて乗馬してたら、気分が少し晴れた、こっちこそありがとう」
と言われた顔を見るわけにもいかないから、真正面の景色を見て
「そう、良かったわ」
と答えた。
そこからは自己紹介するでもなく黙っていた。
余計なものはいらない。
話すこともなかったし、景色と風を感じるだけで充分だった。
突然、強い風が吹いて隣の青年のフードと前髪が風になびいた。
攻略対象者じゃないかなぁとは、思ったけど隠しキャラを最初に引き当てたか。
一瞬目が合う。
一応、この方の悩みは知っている。第一王子ルートを上手く王子の好感度をMAXにしながらも、婚約破棄させて自分は婚約者にならないと言う、考えさせてを長引く言い訳に使うパターンで、第一王子の双子の弟ルートが出てくる。
第一王子に好意を持たれているのに躱す令嬢に興味があると言って登場だ。
何故彼が第二王子じゃなくて、外に出された理由は、争いの種になりうる双子で王族の色を持ってなかっただけ。瞳の色素か。今見た彼の瞳は、薄いグレーだった。王族は、青の瞳。こんな事だけで子供を外に出すなんて、信じられない。
言葉はかけない、この話を聞かされて怒る役目は、ヒロインの台詞。
私には関係ない。
「じゃ、帰るわ。風にあたりたかっただけだから」
またねは、言わない。
「あぁ」
と彼は私をじっと見ていたが気づかないふりをした。でも後引く別れになりそうで、嫌だった。関係ないのだけど、なんとなく振り返って
「お互い頑張りましょう」
と自己満足の言葉をかけてしまった。前世で社会人として生きていた記憶があるから、同情したのか上から目線だったかもしれない。
帰り道は、反省しながら進んだが、関わるつもりはないので忘れることにした。
やはり私なんて王子に相手にされるわけもなく、あっさり婚約者は、決まる。そしてそれはゲーム通りの公爵令嬢だった。お茶会で第二、第三の悪役令嬢が決まったのかも、学園に入学してからのお楽しみになった。
そして私は、ゲームの強制力があった場合を考え、勉強に打ち込む事にした。
この二年、攻略対象者は、遠巻きに見た程度で交流も会話も認識さえされてないと思う。
そしてとにかくこの世界に娯楽がない。
本が真面目なものが多く、かなり知識量も増え、刺繍も随分慣れたものになった。
不思議だけど、社会人を経験したからなのか、学ぶことが大切だし楽しいと思える感覚は、昔の私では考えられない。
「お嬢様、消えたと思うといつも裏庭で体術の稽古ばかりして、そろそろ奥様に叱られますよ」
「何か用事があったかしら、ルナ?」
お父様にお願いして体術を習える事になり、ストレス発散にこれはいい。前世の子供の頃に空手を習った事があったが、全く違う体術が楽しくて仕方ない。
本当は、悪役令嬢をさせられた時の逃げる手助けになればと思っただけだが、令嬢を辞めても生きていけるぐらいにはなったと思う。
「カトレア様、旦那様がお呼びです」
「あら、トーマス。わかったわ、着替えたら行きます。それから是非、今度体術の組み手をお願いしたいわ」
「畏まりました。お嬢様」
トーマスはかなりの体術の達人の気がする。
「お父様、お呼びでしょうか?」
と執務室前で声をかけ、中に入った。
「もうすぐ、学園入学だ。カトレアに縁談が来ている」
おっ、それはちょっと嬉しいかも。そういった話がなかった私は、お茶会で残念な立ち位置にいたからだ。この世界は、婚約者がいてあたり前。婚約者がいながら憧れの人を作るのもあたり前。
令嬢世界の話題の多くは、そんな恋バナを中心に派生している。
「誰ですか?」
と少しのワクワクとドキドキが入り混じりながら、冷静に聞いた。お父様は、渋顔をしながら、
「レイリー・セルゲイ侯爵令息だ」
と聞かされて、すぐに
「お断りは可能ですか?」
と聞いた。お父様は、深い溜息を吐きながら肩肘を机につき頬を乗せながら、
「会ったことがある訳でもあるまい。釣書も見ずに何故断ろうとする?」
余計な事は言いたくない。しかし、私の中で万が一の可能性がある気はしていた。乗馬で会ったあの日。
物語って沿って走らせるものよね。
「私みたいなお転婆に侯爵家は無理です」
「家格は同じだが。セルゲイ家の何か知っているのか?」
「まさか、何故私が」
と言うと目を離さない父が怖かった。そして大きな溜息を吐いた。
「随分、勉強に体術に頑張っているようだな。二年前とは大違いだ。体術の指導をしていたカルロ子爵は、セルゲイ侯爵の部下だ。きっとそこからカトレアを推挙されたのだろう。セルゲイ侯爵は国軍の隊長、かなりの武人だからな。辺境伯という争いのある要の地、きっとそういう事だろう」
心の中でめちゃくちゃ迷惑なんだけど、と発していたが、その様子をお父様に見られていると思うと、気が抜けない。
「せっかくの申し込みだぞ」
とお父様が言う。それってもう私に縁談が来ないって言っているみたいに聞こえる。
「お父様、それって酷い言い方だと思いますけど」
「そうか、初申し込みだから浮かれたかな?」
とぼけているなお父様め。複雑な感情はあるがゲームの事を知っている身としたら、関わりたくない。ましてや本来なら第二王子の方だ。普通に考えても面倒くさいなと、
「このお話は無いと言うことでお願いします」
と再度断った。




