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エピローグ

 初夜を向かえた寝室には夫婦二人だけ。


 窓からは涼やかな夜風、そして上等のお香から立ち上る薄煙がそれに流れて消えていく。


 開けはなたれた窓からからみえる星を眺めつつ、長いすに夫は足を投げだしていて、その横に新妻がそっと腰掛けた。 


 かぐわしい香の匂いとは違う愛しい香りにほがらかなため息がどちらからともなく出た。


 ふと風が吹くたびに宮城に飾られた鈴の音が唄うように響く。


 そっと妻が耳打ちをする。


「本当によろしかったのですか?」


 見上げた夜空から目を離さずに、


「当然だ…これからは忙しくなるし、妻であるお前にも頼っていくぞ」


「ですが…ご苦労をなさいますよ」


 婚礼の儀での臣下達の内心の反感を思い、夫の肩に身体を預ける。


「からくりの歯車に成り下がることもこの身に生まれた天命というやつだ。そのうえで共に磨り減るのなら便利な駒よりも悪友がいい。外向けにはいるが内向きにもやはりほしかったからな、それが惚れた相手ならこれ以上は望むべくもないだろ?」


 夫の言葉は力強い。 だが言葉の中に込められたその悲愴な覚悟と愛情を妻はよく理解していた。


「そういえば臣下の中では、お前を毒婦と呼んでいるそうだ」


「そうですか、それでは毒らしく私は動いてみせましょうね…ですが、」


 続く言葉を遮り、夫は…


「毒とはいっても使いようによっては薬にもなる。ようは使い方次第であるな」


 真意を当てられたことが嬉しいのか新妻は夫に優しく口付けをする。


「ええ、そうですね、どうかお上手に使ってくださいね」


 言葉は香りに乗り、空に霧散して消えたように思えても二人の間には残り続けていく。


 月は満ち欠け、消えたように見えても決してなくなることは無い。 


 思いもまた同じ。


 これからの激動の中でも、たとえ死ぬことになろうとも…だ。 




 これは後に『鋼』という大国において中興の祖とされた皇帝の妻でありながら、後に様々な陰謀に加担したことで稀代の毒婦と称されて処刑された一人の女の話。


 朝に染み出て夕には消えていく一輪の花の裏に浮く朝露のように誰も知らない、知ることも無くそして歴史書にも記されない。


 そんな女の始まりと秘めた想いをただ月だけが見ていたような話である。


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