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9.私の粉ものになって

 

 白いご飯にアオノリの佃煮。味噌汁の具。おもちに混ぜ込んだり、お肉に混ぜ込んだり、あえ物にしたり、天ぷら、パスタ、お好み焼きにトッピング。


 アオノリはなんにでもむく万能食材。


 栄養価も高くて誰もが好む食べやすい味。


 …………だけど、単品で主食にはなれない。


“私。私本当は……知ってた! ………アオノリはっ! ……アオノリはしょせん添え物なのよっ!トッピングとしては無敵だけどメインは張れないのおおおおぉ!!”


 何て言う悲劇だろう。


 何て言う残酷さだろう。


 何て言う罪深さなんだろう。


 私は絶望して泣き叫んだ。


 でも! それでも私はアオノリの素晴らしさを普及したかった。養殖業者のおっちゃんの夢と博士の遺志をついで私は異世界でアオノリブームを巻き起こして、あの二人に恩返しがしたい。


 ……あっ! 博士死んでないかもしれないんだっけ。


 そこで私は目が覚めた。


「アオノリちゃん大丈夫か? だいぶうなされてばちゃばちゃしてたけど?」

“うんありがと。なんとかー”


 私は大丈夫じゃないんだけど大丈夫だって嘘をついた。夢見が悪くて気分は最悪。


 頭痛いから今日仕事休んじゃおっかな。


 みっこおじさんはのほほんとお茶を飲んで出窓から往来を眺めている。八つ当たりしたい気分だけどそれは悪いアオノリがすること。優等生で良い子のアオノリの私はしない。


 私とみっこおじさんの出会いからはや3ヶ月。ようやく生活も落ち着いてきた。今、そこまで高くないけど清潔な家族経営の宿屋さんに定宿に決めてる。


 川を遡上して行って街について色々あったんだけどそこら辺はまあ割愛(かつあい)で。


 だって何とかなったんだしそこまで私にとって重要なことでもないし。みっこおじさんの問題だし。


 みっこおじさんは私のことを異世界転生したチートなアオノリってことで思考放棄したらしい。どこかねじが外れたかなにか吹っ切れたみたいで普通に接してる。


 ああそうだよね異世界だもんねあるよねーって感じで。


 だからみっこおじさんは何も問題なし。


 あるのは私の問題。


 今、一番重要でなおかつ大至急是正(ぜせい)が必要なのは私の住環境。


 今、中くらいの水瓶(みずがめ)で仮住まいなの!


 今、めちゃくちゃストレスたまってるのおおおおお!!


 絶対悪夢を見たのはこのせい。間違いない。最低限度の生活が満たされていない。


「アオノリちゃん大丈夫か? 水はねまくってるけど。水足そうか?」


 暴れまわる私にみっこおじさんが飲んでいたお茶のカップを置いた。気づいたら水瓶の水が半分くらいに減ってた。やだあぶない。


“うん、お願いしまあす。あっちょっと塩も入れて”

「了解」

 

 みっこおじさんは水差しにいれてあった水を注いでくれて、ちょっとお高めの岩塩の粒をパラパラと落としてくれた。


“ふあー生き返るー”


 新鮮な水はやっぱり最高。私研究所時代だって水槽暮らしだったけどそれはこんな外が見辛い水瓶じゃなかった。全面ガラス張りで透明度の高い素敵な水槽だった。


 今じゃ素朴な水瓶生活。


 私、(いくさ)に敗れて都から田舎に落ち延びたお姫様みたい。今の凋落(ちょうらく)っぷりに涙が出てくる。


「そろそろ時間だけど行ってきても大丈夫?」

“うん。エルさんもう準備してくれたんだよね?”


 あっエルさんはこの宿屋のおかみさんで若くて美人。みっこおじさんはいっつもでれでれ鼻の下のばしてるけど残念ながら人妻だから。


 みっこおじさんは最近毎日屋台でアオノリのフリットを売ってる。


 フリットって言うのはざっくり言えば揚げパンみたいなやつ。エルさんが生地を作っておいてくれてみっこおじさんが屋台で揚げたてを売るんだ。


 これがなかなか(もう)かっているんだよ! 油で揚げることでふわあああんとアオノリの香ばしい香りが漂ってついついお腹空いて食べたくなるんだよね。色も(さわ)やかで素敵な緑色だし。


 アオノリと粉もの。


 シンプル イズ ザ ベスト!! 王道にして最強! 外れようのない組み合わせだよ! 


 アオノリってアミノ酸豊富だからまぁうまみたっぷりなわけだよ。パンの塩っけとアオノリのコクでもう何個でもぺろりと食べられちゃう。おかげで大盛況。


 みっこおじさんは現金な話、(ふところ)に余裕が出たら落ち着いてきた。


 まあ人間ってそうよね。私は生暖かい目で見守ってあげる。


 最低限の欲求が満たされないと他人に優しくなんてできないのよ。


 今日はちょっとシニカルな気分の私。


 理由は分かってる。


 私には粉ものが居ない。

 

 私が日々我が身を削って増殖して作ったアオノリ(乾燥済み製品)は粉ものと言うベストマッチな相手がいる。


 私には居ない。


 とても単純で誰もが納得できる理由。


 私、最低限の欲求すら満たされていない。


 こんな素朴な水瓶で暮らせるかっての!!


 それに私、この世界でてっぺん獲ろうと決めたの。


 だったらこんなちまちまちまちま港町の一画でアオノリのフリットだけを売っている場合じゃない。

 

 よし! じゃあ宇宙船を作ろう☆

再掲で宣伝です。今回は宿屋のおかみさん役です。eLさんは私のツイッターの固定ツイのイラストを描いてくれた私の尊敬する絵描きさんです。


ツイッターで感想をいただいたeLさん 小説はこちら↓↓

https://mypage.syosetu.com/1823025/

eLさんは絵描きさんでもあります。絵はこちら↓↓

https://www.pixiv.net/users/45324324


ご出演ありがとうございました。

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