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8.本日も爆走中


 そもそも何でそんな天才化学者がアオノリの養殖なんかに乗り出したのか?


 誰もが疑問に思うよね?


 実は一般大衆が理解できない天才だからって言う理由だけじゃない。ある研究論文がもとで羽座博士は学会を追放されそうになっていた。


 パラレルワールド理論。


 理論上無限に存在する異世界へと原始ブラックホールを媒介にワームホールを通り抜けることで多重並行世界の行き来を可能にするというまるでSF小説みたいな話。


 先進的過ぎて誰も理解できず、更に長年共同研究をしていた唯一の理解者である教授が失踪した(いわ)く付きの研究だから、私、正直その研究のせいで羽座博士はテロ組織に狙われてたんじゃないかな? って思ってる。


 その一時的な避難場所代わりにアオノリ養殖。


 あとあとそれから羽座博士がめちゃくちゃSF大好きで一時期終末世界(ディストピア)系のSF小説にドハマりしてたからかな? って思ってる。


 むしろきっとこっちが本命。


 黄昏(たそがれ)の世界を生き抜くことが出来る最強の生物を作り出したくなっちゃったんじゃないかな? 


 そしてそれが私。でないと私の存在そのものが否定されちゃうし。


 あの日、記憶が定かでないけど、研究は佳境(かきょう)を迎えて最終実験中だった。


 爆発による火災の混乱中に羽座博士は私を命懸けで逃がしてくれたのかな?


 だから私、転生じゃなくて転移なのかな? 


 だから私、普通に能力が使えるのかな?


 羽座博士の優しさに胸がじいんと熱くなって私は涙がこぼれそう。


 羽座博士、私のこと守ってくれてありがとう。

 

 マッドサイエンティストだなんて思っててごめんね。


 私のことあちこちいじくりまわす変態だって思っててごめんね。


 てっきり死んじゃったと思ってて都合の悪いこと全部博士のせいにして自由満喫しててごめんね。


 私が生きてるってことは博士だって生きてるかもしれない。


 もし博士が生きてるなら。


 もしかしたらいつか会えるかもしれない。


 ……え。やっば! あまりハメ外しすぎてて怒られないようにしなきゃ。


 私は心に誓った。


「おい! アオノリちゃん! やっぱこれは夢なんだよな? 夢だよな? そうだよな。良かった。アオノリがしゃべるわけないもんな……」


 私が長いこと喋らないからみっこおじさんがどんより落ち込み始めた。


“あ、みっこおじさんごめんねー! ちょっと考えこんじゃったの!”

「ひいぃぃぃいやっぱり夢じゃない……」 


 私が明るくみっこおじさんに謝ったのに、みっこおじさんは落ち込んだ。


 何それ失礼!


「俺、どうなっちゃうだろう。こんなところで遭難してわけわかんないし。いい加減腹減ったし」


 みっこおじさんこの状況でお腹が空くってわりと図太いタイプだなって思ったけど賢明な私はそんなことは言わない。


 でもそっか。みっこおじさん人間だもんね。


 アオノリじゃない。


 つまり、食べ物とか寝るところとか生活するところが必要。


 え。何それ不便!


 水の中だけで生きられて自給自足が可能な私は究極なエコ生物じゃない? 


 ふふふ。さすが終末世界を生き抜ける超生命体の天才美少女アオノリだわ。


 思いがけない気づきと人間の面倒くささに私は思考放棄してみっこおじさんのためを街に連れて行くことにした。


 いいよもう。


 だって最低限の衣食住だけじゃなくておしゃれして友達と遊ぶ場所とかおしゃれで夢かわな小物とか買いまくって散在する場所とかおしゃれな写真撮ったりしてツイッターとかインスタにあげたい場所とか色々人間って必要でしょ?


 それにそもそも普及のためには人間の多いところへ行かないといけないでしょ?


 さらにさらに羽座博士だってアオノリの普及って大義名分があればきっと文句言わないでしょ?


 前に暇に任せて住環境調査とか水質調査した時に上流に人間が住んでいる痕跡を発見したんだよね。それに地球上には存在しない生態系とか遺伝子形態も色々発見したからここは地球じゃないって判断したわけ。


 でも私はあんまり街の方へ行くのは好きじゃないんだけど。水汚いし。


 でもみっこおじさんのために一肌脱ぐしかない!


 アオノリの普及っていう崇高なる啓蒙活動のため。


 私どんな苦難の道だって乗り越えてみせる!


“じゃあさくっと街に行こっか!”

「は?! え? どうやって?」


 いまいち察しが悪いみっこおじさん。無理もないよね。


 知的なアオノリに会うのは多分初めてだしさ。何事も初めてってあるもんね。


 だから私は鷹揚(おうよう)な気持ちで接してあげることにした。


“こうやって”


 私はしゅるしゅると増殖してみっこおじさんに巻き付く。そして水に引きずり込む。


「うげぇ?! 俺食われる?! 食われちゃうの?!」


 訳が分からず暴れるみっこおじさんに私は巻き方を強める。ぐぇっとみっこおじさんは(うめ)いて静かになった。良かった良かった。


 失礼しちゃうよね。私アオノリだし人食べないし。


 さてさてお客様が静かにシートベルトを着けて着席しました。


“世界を股にかけるアオノリロケット!! いっきまーす!!”


 私はアオノリ史上最高速度で街を目指して川を遡上(そじょう)することにした。 

 

 

恒例の宣伝です。

今回のネタ元。マッドサイエンティストの羽座博士が出てくる(笑)羽座日出樹さんの小説

「パラレルワールドでは君と」はこちらです↓↓

https://kakuyomu.jp/works/1177354054954419582

はざさんの小説はとても面白いのでぜひ読んでみてください。

小説の一覧はこちら↓↓

https://kakuyomu.jp/users/hazahideki

https://novelup.plus/user/491461239/profile


みっこおじさん(miccoさん)がツイッターの雑談で私が無茶ぶりした短編を一晩でサクッと仕上げてくれました。大人のせつない童話です。これも宣伝しときます。

小説はこちらです↓↓

https://ncode.syosetu.com/n6460gq/

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