15.大爆発は浪漫
室内っていうのは天井があるから室内。つまり天井がなければ室内じゃない。っていうことは、天井を吹き飛ばせばいい。大爆発だよ。やったね! これでラストの条件クリア! 簡単じゃん!
私は超時空回路でリモートコントロールして宇宙戦艦マグナスタティウムを起動させる。原子力と魔法の力を融合させることでクリーンかつ永続的に使用可能な動力機関を開発した。
羽座博士! 私やったよ! 羽座博士のSF好きのおかげで私どこに何を目指してるのか常に迷子になってる!
私の意識をマグちゃんにつないでるから、突然動き出した宇宙戦艦にビビりまくって右往左往する技術者とか工員の姿が見える。大丈夫。大事な人材には傷つけないから。私は慎重に主砲スペースソルプーサの角度を上げていく。天井を吹き飛ばすため、最適な角度を計算する。
あっ忘れちゃいけないのはこれでもかっていう無駄な爆発。え? そんなとこに爆弾仕掛ける意味ある?っていう場所でも何個も爆発させてお城とか木端微塵にするのがお約束。あとから何億ドルかけたセットを一瞬で破壊みたいなあおりに使えるし。だけど可愛いメイドさんとか民間人とか犠牲者を出しては本末転倒。訴訟問題に即発展しちゃうから赤外線センサーと行動予測を元に綿密なシミュレーションをする。
愉快な仲間たちの陽動、爆発音がどんどんお城へ近づいてくるにつれて、微かに地面が揺れだす。
「アオノリちゃんこれやばいよな? どうしたらいいんだ?」
みっこおじさんがうるさいけど無視。
「アオノリちゃん私が守りますからね!」
ぎゅっと私の水槽を抱えるヨル将軍は無視するのはかわいそう。だけど水槽の液晶ディスプレイでいつもみたいに筆談する余裕はないからみっこおじさんに伝言を頼んだ。今私のCPU最大限に稼働中だし。動作遅くなると困るし。
“みっこおじさん、今援軍来るってヨル将軍に伝えて”
「まじで?! 援軍とかかっこいいのいつのまにかよ?!」
……みっこおじさんのん気すぎるよ。一気に安心したみたいで暴れるのをやめてくつろぎだしたけどなんて幸せな人なんだと私はある意味感心した。ヨル将軍はみっこおじさんの言葉で仲間が来るっていうのはわかったみたい。でも怪訝そうな顔で私を見つめてきた。うんそうだよ、それが正しい反応だと思う。でも詳しくはこのピンチを切り抜けてから。
そうこうしてるうちに演算完了。
“主砲スペースソルプーサ発射!”
私は今や宇宙戦艦マグナスタティウムの艦長。アイドルのよくやる一日艦長じゃない。
「うぇえ?! いきなり何してくれちゃってるの?!」
私、かっこつけてちょっと低めの声で厳かに宣言したんだけどみっこおじさんの間抜けな悲鳴にかぶせてこられちゃった。
‟ダメだよみっこおじさん! NGシーンになっちゃうじゃん! 今クライマックスなんだよ?! ここは一発オーケーじゃないと予算もうないんだからね?! お城を作り直す時間的余裕もないんだかね?!”
「え? え? ごめんね?」
すっかり最新気鋭の若手監督兼宇宙戦艦の歴戦の覇者(予定)である艦長の私はみっこおじさんにぷりぷり八つ当たりした。せっかくの私の考え抜かれたシーンがカットなんて困るし。みっこおじさんは図太いけど基本的に善人のSFオタクだから、よくわからないまま素直に謝ってきた。私は寛大な気持ちでみっこおじさんを許してあげることにした。
「アオノリちゃん、大丈夫…っえ?!」
ヨル将軍が不安そうに聞いてきたけど、最後まで言葉にならなかった。
じゅ。
小さなマッチの火が消えるような音がして天井と上方の壁がきれいに消失した。青空が見えて室内が一気に明るく感じる。誰もがぽかんと空を見上げた。主砲スペースソルプーサの高エネルギーレイザー砲が高火力過ぎて破壊音も何もないまますべてを消し去ってしまった。
うん。大失敗。控えめに言って大失敗。大爆発の爆発音がなかった。泣きたい。さっきからここは一発オッケーしなきゃいけない撮り直しの出来ないシーンだったのに。
“う、うわ~ん! せっかくのシーンなのに爆発音が全く出せなかったよう!!”
あまりの悲しさに私は我を忘れてぽろぽろと泣き出しちゃった。相変わらずみっこおじさんも私もヨル将軍も網に捕らえられたままだし、天井は消えて空が見えるし、どうしていいかわからない宮廷魔術師団も衛兵も騎士団も王様も来賓もすべて無視して私の涙は止まらない。
「アオノリちゃんどうしましたか? 誰から泣かされたんですか?」
「おい、アオノリちゃん急に泣くなよ?! 援軍来てるんだろ?」
私のことを純粋に心配してくれるヨル将軍も私よりも援軍、自分の助かることしか考えていないみっこおじさんにも返事をすることができない。
女の子の涙は理不尽。特に可愛ければ可愛いほど、泣いた子が絶対正義に変わっちゃう。泣く子には勝てないって言うでしょ? それが皮肉な現実。だから天才美少女アオノリの私が泣き出せばみんなおろおろ。
だって涙が水槽からあっという間にあふれだしたし。
「アオノリちゃん?! ちょっとこれやば……がぐぼうあっ?!」
あまりの悲しさに涙は止まらない。あふれてあふれてあふれて洪水になった。あっという間に祝賀会の会場すべてが私の涙であふれて私を中心に鳴門の渦潮なんて目じゃない勢いであふれ出してぐるぐる洗濯機みたいに回って水圧で各出入口を破ってどこまでも流れていく。涙で洪水を起こすなんて私ちょっとロマンチックだなぁと思いながら。
「アオノリちゃん、何がそんなに悲しいですの?!」
ひとしきり泣いたら私の水槽に必死でしがみつくヨル将軍の声が私の耳にも届いた。さっきからさんざん声かけててくれたみたいで声がかすれてる。みっこおじさんはほかのその他大勢と一緒にぐるぐる阿鼻叫喚をあげながら安全基準無視の私の涙のプールに翻弄されてる。気づいたら私たちを拘束してた網がなくなってる。宮廷魔術師団の人達も波のプールに夢中だしね。そっかこういう手もあったんだ。私はちょっと気分が回復してきた。
‟あのね、爆発音がしなかったの”
水槽のディスプレイに表示させてヨル将軍に見せる。ヨル将軍はさっぱり理解できないって顔をしたけど、私の声を聞きつけたみっこおじさんは違った。だてに付き合いが長いわけじゃないんだね。ちょっと見直した。
「何したいのかさっぱりわからないが後付けできないのか?!」
“あっ! そっかー!”
私が何したいかさっぱりわからないくせに私の悩みを的確に解消してくれたみっこおじさんに私の気分は通常まで回復どころか、一気に突き抜けた。そうだよ。映画だって音声後付けしたり、CG使いまくりじゃん?!
イエーイ! ご都合主義万歳☆
今回は完結済みの自作の宣伝です。
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