82.結局やることは変わらない
夜が明ける前、指定の時間に外に出る。
正規兵はほぼそろっているが、傭兵組はほとんど居ない。
傭兵って本当に数合わせのようだ。
あー、まともに起きているのが正規兵だけで、相手になる奴が居ない。
仕方ない、ひとりで型でもやるか……。
軽く体をほぐしたあと、昔からやっている型を始める。
いつか、父さんから習ったものだ。
ヒュンヒュンと音をさせながら、暫くやっていると熱くなってきた。
仕方ないので、上半身裸になる。
俺の筋肉を見ろ! って気はないが、EMSに鍛えられた筋肉が現れ湯気をあげる。
調子に乗って続けて型を続けていると、視線を感じた。
見ているのは……おっと、美人さん。
これがアネルマ様かね?
金髪をなびかせ、ブレストプレートにマントを着た姿。
これなら、正規兵たちが気合を入れるのもわかる。
朝も早くから、兵の前で視察中って感じらしい。
だから、兵は気合が入っている。
新人である俺も気になるのか?
すると、アネルマ様が俺に近づいてきた。
「お前、ケインというらしいな」
既にお知りのようです。
「はい、何の因果か、ケインという名です」
俺が言うと、
「私はアネルマだ。
私はケインという男が嫌いだ」
ストレートな答え。
「お父上を討った男の名だとか」
「そうだ! だから、まずはお前を倒したい」
「私が倒されればいいので?」
「違う! サンチョが『お前は強い』と言っていた。
ケイン・ハイデマンを倒すには今より強くならなければならない。
だから、剣を教えろ!
まずはお前に剣を教わり、お前を倒す」
「剣であれば、兵士たちにも上手い者が居ると思うのですが?」
「いいや、サンチョは、この兵士の中で一番お前が強いと言っていた。
兵士三人を相手に瞬殺だったというではないか。
サンチョでさえかなわないだろうと言う」
「まあ、試験ではそうでしたね」
「だから、お前に教わる」
結構強引。
我儘娘?
「サンチョって?」
俺が聞くと、
「あれだ!」
指をさした先には小太りのオッサンが居た。
そして、俺を見てニッと笑う。
やられた……。
変な情報提供はやめてもらいたい。
まあ、傭兵としてこの館に入ってる時点で、名前以外の情報なんて共有されているんだろうけど。
「別にいいですけど、私にはなかなか勝てませんよ?」
俺が言うと、
「絶対に勝つ!」
力こぶを作るアネルマ様だった。
まあ、暫く相手をしていると、簡単にバテた。
鉄壁のバルトロメほどではない。
調子に乗って適当にあしらっていたら、涙目になるアネルマ様。
えーっと、俺どうしたらいいんだろう。
まあ、暫くは程々で相手しておくか……。




