81.傭兵
街中を歩くオッサン。
「ケインと言えば、ケイン・ハイデマンという男が、我がバルトロメ・メルカド伯爵を討ち取った。
名が一緒とはな……。
それにしても、冒険者から傭兵になろうとは珍しいな。
我々も、手勢を増やしたいがために冒険者ギルドに依頼票を出した。
お前のような強い者なら、冒険者としても大成しそうなものだが」
「鉄壁のバルトロメが討ち取られたというのは聞きました。
そんな人が居なくなった伯爵家ならば、こんな俺でも目立てるかと……。
あと、正直、依頼者の名が女性名だったから興味を持っただけです」
「ああ、現当主のアネルマ様か……。
この俺が言うのも何だが……可愛いぞ」
デヘヘと笑うオッサン。
「じゃあ、あなたはその可愛い当主のために頑張っているって訳ですね」
「そう、そんな感じだな。
もうしばらくしたら、弔い合戦が始まる。
そのための兵集め。強い者が来るのは助かる」
すると、
「ここが我が伯爵家だ。
えーっと、あっ、居た居た」
オッサンはレグルという男に声をかけた。
「何っすか?」
「レグル。
当たりだ。
あの三人を瞬殺だ。
ちゃんともてなすように」
「えっ、あいつらを?
凄いじゃないッスか」
あの三人結構強かったらしい。
「じゃあ、任せたぞ。
俺は試験場に行ってくる」
オッサンが去った。
「名前は?」
レグルが聞いてきた。
「ケインです」
「お前、ケイン・ハイデマンと同じ名前かよ!
アネルマ様には言うなよ」
苦笑いをするレグル。
「はい」
「お前いくつ?」
「十五です」
「俺より四つも若い。
イケメン、ムキムキ、剣が使えるなんて最強だろ?
明るい未来が待ってるはずなのに……。
わざわざこんな伯爵家に仕えなくても」
「何でです?」
「まあ、俺たちは元々使えている者だし、バルトロメ様に恩もある。
だから、アネルマ様が仇討ちをするというのに付き合うのは文句はない。
でも、向こうのケイン・ハイデマンって奴が強いのなんの。
ガキのくせして、簡単にバルトロメ様を討ち取った。
まあ、話に聞くと、バレンシア王国で有名な鬼神と魔女の息子だから、そのくらい強いのかもしれないがね」
「しかし、傭兵を雇う必要があるほど兵が少ないのに、なぜ仇討ちを?」
「『仇討ちをしてケイン・ハイデマンを討たなければ、メルカド伯爵家に先の敗戦の責任を取ってもらう』と言った者が居る。
ファルケ王国のカミロ・グリエゴ公爵だ」
「責任とは?」
「バレンシア王国に勝てなかった責任を取って、カミロ・グリエゴ公爵の次男をアネルマ様の夫として、メルカド伯爵家に入れるという話。
マリーダ様を後添いにするそうだ。
どっちも美人だしな。
実質、乗っ取り。
だから、俺たちは既に、玉砕覚悟なんだ。
何としてでも、ケイン・ハイデマンを討ち取るつもり。
そんな伯爵家に本気で傭兵としてくる者は居ない。
やる気がある者は居ないんだ」
そう言うと、やる気がなさそうな男たちを指差した。
「俺が、やる気があるとは限りませんよ?
女性の主人っていいなぁ……って思っただけですし」
「それなら大丈夫。
俺が言うのも何だが、美人だ」
「期待しておきます」
「おう、期待しておけ!
ただ、バルトロメ様の娘だ。
強いぞ」
レグルが言った。
小汚い個室に通される。
「ここがお前の部屋だ。
日の出起床で、朝の訓練。
模擬戦だな。
その後、朝食。
食堂で取る。
それ以降は夕方まで自由にしていい。
剣の練習をしようが外出しようが自由だ。
ただし、外に出る時には、俺に一声かけてくれ。
夕方は食堂で食事。
あとは適当に寝る。
酒は自分で買ってきて飲むのはいい。
ただし、ほどほどに。
暴れるようなことが無いように。
そんなもんかな」
レグルが説明をする。
「それだけ?
軍隊だから、もっと厳しいのかと……」
「そういうのはお前だけだぞ?
傭兵なんて数合わせだ。
負け戦なら、傭兵なんて逃げることも前提」
「はあ……」
気の無い返事をする俺。
「まあ、お前にやる気があることがわかってよかった。
頑張れば、正規兵……。
いや、それじゃ逃げ辛くなるな。
まあ、期待してるぞ」
そう言うとレグルが部屋を出て行く。
「はあ……。
やりづらいなぁ……」
俺は呟くのだった。
俺は念じる。
ミンクを介した定時連絡。
「ミンク、帝都に入ったよ」
と連絡をする。
「無事か?」
「ああ、無事だ」
「どこに居るのだ?」
「メルカド伯爵家に傭兵として雇われた。
その辺をカミラに言っておいてもらえるか?」
「畏まったのだ。
まあ、ケインなら大丈夫だと思うが、気をつけてな」
「おう、畏まった」
こうして念話をやめ、部屋を出るのだった。