80.ファルケ王国へ
暇だ……。
砦も準備して、あとはファルケ王国が来るのを待つだけ。
しかし、いつ来るのかもわからず、とにかく暇である。
リズの護衛で馬車に乗りながら考えていた。
「リズ、ファルケ王国に行ってみたいんだが……」
俺が言うと、
「なぜ?」
リズが聞いてくる。
素直に、
「ん、行ったことないから。
今のところ進軍もないようだし、向こうの様子も知りたいし」
と答える俺。
すると、リズが、
「許可が出るかしら?
国交もないのよ」
と難しそうな顔をするが、
「んー、一人で行こうかとは思ってる。
ミンクに乗ってファルケ王国側に出たら、あとは旅人風に向こうの王都でも目指すかな」
国境を越えてしまえば勝ちだと思ってしまう。
「帰りは?」
レオナの問いに、
「帰りはこの指輪でミンクを呼んで帰るさ」
とミンクの指輪を指して答えると、
「確かに、ケインだったら、行軍を確認してから帰って対策できる訳か……」
ラインが頷いていた。
おっと、その通り。
ラインを見てしまう。
すると、
「そうね、帰ったらお父様に聞いてみる。
ただ、ファルケ王国の方に渡ったからって、ファルケ王国の侵攻については忘れないでね。
一応、ファルケ王国の様子を見に行くってことにするんだから……。
まあ、ケインなら殺されたりはしないだろうけど」
リズはヤレヤレとでもいうふうに俺を見て言うのだった。
結局のところ、王城から「ファルケ王国の様子を見て来るように」という手紙が来る。
リズからの情報では、
「あいつなら死なないだろう。
下手すりゃ、ファルケ王国を潰してくるかもな」
と王は言っていたらしい。
「もしかしたら、新しい女を連れてくるかもしれないぞ」
なんてことも言っていということだ。
変なフラグを立てないように。
多分、そんなことはない。
多分……きっとね……。
屋敷の庭でミンクに乗る俺。
「旦那様、お気をつけて」
「ご主人様、あとのことはお任せを」
カミラとミラグロスが見送る。
「じゃあ、ミンク頼むよ」
俺の言葉で、ミンクは空を舞った。
事前にファルケ王国へ行く日時を教えていたので、途中、ルンデルさんの家の上と、ラインバッハ侯爵家の上、王城の上を飛ぶと、小さくリズやライン、レオナが手を振っているのが見えた。
高空から山道沿いに国境の町と言われるラフティーの街を超え、ファルケ王国に入る。
そのまま、ファルケ王国の王都アラネスへ向かう途中の平原で、俺はミンクから降りた。
「ありがとな」
というと、
「呼び出しを待っているぞ」
そう言うと、ミンクは舞い上がる。
点になるミンクを見つめ、街道に出ると、向こうの王都に向かった。
「そういや、一人旅なんてこの世界に来て久しぶりか……。
向こうではバイクに乗り始めた頃に北海道へツーリングに行ったことはあったが……」
空を見て呟く。
俺はというと、腰にはナイフ代わりの父さんに貰ったミスリルの剣を腰に履き、ズボンにシャツ、厚手の服を着た軽装。
あとは簡単な着替えをワンショルダーの袋に入れた程度。
手を突っ込んで、収納魔法を使えば、あまり目立たないだろうというアーネの配慮だった。
確かに、何も無い所から物が出てくるのはおかしいからなぁ……。
収納魔法自体も珍しいし……。
その上からマントをつけた旅人風である。
向こうの王都に入る。
比較的冒険者には甘いようで、ケインの名前のまま普通に中に入ることができた。
まあ、何百人とずらりと並んだ者の中から、あやしい者を探すというのが難しいのかもしれない。
雰囲気は、イタリアとか地中海周辺の国のような感じ。
日差しは強く、ラムル村より少し暖かいような気がする。
そう言えば、街道沿いはあまり大きな木は無かったかな。
言葉は一緒で、問題は感じなかった。
冒険者ギルドに向かう。
そして、依頼を見た。
王都周辺は商人の移動が多いようで、護衛の依頼が多かった。
街道沿いの森に出たという魔物や盗賊の討伐依頼なんかも出ていた。
そして、傭兵の募集。
そんな中アネルマ・メルカドという名があった。
月給が銀貨三十枚らしい。
それが高いのか安いのかはわからないが、他のものに比べれば高い。
俺は依頼票を千切ると、ギルドの受付に渡す。
すると、
「この場所に行って、メルカド伯爵家の試験を受けてください。
試験を受けて、合格すれば、傭兵として雇われます」
と紙を差し出した。
紙には冒険者ギルドから試験場までのルートが書かれている。
それに従って街の中を歩くと、少し広い場所に到着した。
髭もじゃの軍曹と言ってしまいそうなフルプレートの鎧を着た男が立ってる。
軍の中ではそれなりの地位なのかもしれない。
「えーっと、傭兵を募集しているとか?」
俺が言うと、
「おっ、おお、そうかそうか……。
若いのに我がメルカド伯爵家を選ぶとは、なかなか見どころがある」
ご機嫌だな。このオッサン。
「それでは試験をする。
メルカド伯爵家は武を重んじる。
そこに居る手練れ三人と模擬戦をして勝てば合格だ」
すると、ブレストプレートをつけ、槍を持った兵士が前に出てきた。
「えーっと、この三名を?」
と聞くと、
「ああ、この三名だ」
頷くオッサン。
適当な木剣を手にして広場の中央に行く。
三人と正対すると、オッサンの「始め!」の声が響く。
三人が同時に動き、上中下段と槍で突いてきた。
某映画の三銃士?
俺は横に避け、一番上の槍を掴んで下げ、足で踏みつける。
「ムッ……動かん」
「何!」
「こいつ!」
声が響く。
その間に、一番近くの男の首元に剣を置くと、負けが確定し、その男はその場から離れる。
「槍を放せ!」
二人は槍を手放し、俺を前と後ろから挟んだ。
「小僧のくせにやるな」
そう言って俺に飛びついてきた男の手を取ると、そのまま腰に乗せ、一本背負い。
受け身も取れずに、そのまま「グエ」と言って気絶した。
「隙アリ」
の声で最後の男が動く。
声なんて出さなきゃいいのに……。
気配感知を使っていたので出さなくてもバレバレなんだが……。
一気に伏せて後ろからつかみかかろうとした男の腕を躱し、足払いで倒す。
そのまま剣を胸に置いて、模擬戦は終わった。
「やるではないか!
名は何という」
バンバンと俺の背中を叩きながらオッサンが聞いてきた。
苗字を言わなければ問題ないか……。
「ケインと申します」
俺は頭を下げた。
「そうか、ケインか。
しかし、我がメルカド伯爵家ではケインという名は鬼門なのだが……」
「仕方ないですね。
親に貰った名なので……」
「確かに仕方ない」
オッサンは納得すると、
「うん、合格だ!
早速屋敷に向かうぞ!」
と、俺に言い、
「あっ……はい」
の返事で、オッサンは歩き始める。
しかし足を止めると、
「お前たちは、デオルが目を覚ますまでここで待機。
私が戻るまでは、傭兵の試験は待っていろ」
と指示を出すのだった。