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6’.我儘

「やた!

 はじめて一人で城の外に出られた」

 私は、嬉しくてたまらない。


 コレで民たちの生活がわかる。

 民の心がわかる王女になるんだから!



 私は賑わうマーケットをきょろきょろしながら歩いていると大きな衝撃。

「きゃっ」

 前を見ていなかった私は大きな男にぶつかってしまう。

「アイタタタタタ……。

 足が折れた」

 男が足を押さえ、転げまわる。


 えっ、私のせい?

 ぶつかっただけで足を骨折させてしまうものなの?


 何が何だか分からない私に、大男に付き添っていた小男が、

「兄貴、大丈夫ですかい?」

 と言ったあと、

「嬢ちゃん、兄貴の足が折れちまったようだ。

 治療費を払ってもらえないかい?」

 ニヤニヤしながら私に声をかけてきた。


 仕方ない、お金で解決できるなら……。


 私は、

「お金を払えばいいのですか?」

 と言って財布を取り出す。

 すると、私の手元を覗き込むように、

「ああ、小金貨一枚あれば、兄貴の足は治る」

 小男は小金貨を請求してきた。

「それでは小金貨を……」

 私が小金貨をつまみ上げようとした時、

「バカだなあ、そのおっさんの足は折れていないよ」

 男の子が出てくると、大木のような大男の脛を踏み折った。

 バキリと盛大な音がする。


「ギャー!」

 脛の部分が青黒く変色する。

 脂汗を垂らしながら脛の部分に手を添え痛みに耐えようとする大男。

 しかし、そんな事を気にせず。

「君、これが折れた時。

 足がまっすぐじゃないだろ?」

 と男の子は私に説明をした。


 私は実際に折れた足など見たことが無かった。

 こわごわとその部分を見てみると、実際に折れ曲がっている。


「あら、ホント。

 折れると本当に足が曲がるのね」

 私は声を出した。

 すると、男の子は両手に魔力を纏い、大男の脛の骨折を治す。

 そして、

「これが折れていない時」

 と私を見て言った。

 大男はただ唖然として男の子を見ていた。

 言われた通り、

「本当にまっすぐ」

 と私は頷く。

 男の子は私が頷いたのを見て満足すると、

「だから、この大男は足なんか折れていないんだ。

 だから、そんな小金貨を払わなくていい」

 と言った。


 そういう事なんだ。

 なら財布は要らない。


 私も財布を仕舞った。



 男の子の私への講義が終わると、

「小僧、邪魔しやがって!」

 大男が男の子を殴ってきたが、男の子はさっと避け、足をかけて倒す。

 今度はスッと出てきた黒髪の女性が、

「バキン!」

 という音をさせて盛大に踏み折る。


「カミラ?」

「手加減を失敗したのだ……」

 女性がテヘっと舌を出すと、

 男の子は呆れ顔。


 私は、

「あらあら、折角足が戻ったのに残念」

 と笑ってしまった。

 男の子は大男の足を治し、

「とりあえず、ここから離れようか。

 けっこう目立ってるからね」

 と言うと、

「わかりました」

 の私の声と共に男の子に手を引かれ路地裏に行くのだった。



「で、君は何でこんなところに居るの?」

 呆れたような顔で私を見る男の子。


 なんか失礼。

 私、周りの人にこんな顔をされたことが無い。


 そして、

「その格好からして、豪商か貴族、王族ってところだと思うんだけど」

 と当ててくる男の子に私はビックリする。

「隠れてお城から出てきました。

 私は王都が見たかったのです。

 そして本当の民の生活を見てみたかった」


 私、誉められるかな?

 いい王女だって彼に言ってもらえるかな?


 私はドキドキして待っていた。

 でも、期待とは裏腹に「はぁ……」と大きなため息をつくと、

「お城って……まさか王女様?

 こんなところに来てはいけない人じゃないですか」

 と面倒くさそうに言う。


 えっ、誉められないの?


「ええ、でも……」

 私が言おうとするのを遮り、

「まあ、あの大男みたいな人ばかりじゃないけども、危ないですよ?

 本当は護衛を連れて来ないといけません」

 と男の子は言った。


 それでも、

「護衛をつけると民の本当の生活は見えません」

 と男の子に言う。

「そりゃそうでしょうが、そういうものを見るのはあなたの部下です」

 窘められる私。


 負けないから!


「私の目で見たかったのです」

 私は語勢を上げて言った。。

「それは良い心がけだと思います」

 と少し笑って私に言った。


 でしょう?

 私の思ってる事は正しいんだから。


「でも、あなたの命はあなただけの物ではないんですよ?

 あなたが死ねば国の威信にかかわる」


 えっ?


「護衛担当者などは責任を取って自決しなければいけなくなるかもしれない。

 その家族も路頭に迷う」


 えっ、えっ?


「その責任をとる覚悟で、この散歩をなさっているのですか?

 ただの我儘でここに居るのなら、お城にお帰りください」


 私を王女と知って、そこまで言いますか?


「あなたは無礼ですね」


 私が言い返すと、

「無礼で結構です。

 こんなふうに襲ってくる者も居るのです」

 男の子が言った後、私の顔の前に男の子が手を出した。

 手には矢じりが見える。


 えっえっえっ?


 ヘナヘナと崩れる私。

 女性は何も言わずに屋根の上に飛び上がり、男を連れてくる。


 これが私を狙った者?


 男の子は、

「王城の前までは連れて行きます。

 ちゃんとご両親や護衛の者たちに謝れば許してくれるでしょう」

 と帰ることを進言する。

「あなたたちは?」

 と聞いてみると、

「私は王城が見える所でお別れです」

 と言う。

「名前を教えてくれませんか」

 と私が言うと男の子は首を振り、

「嫌です。

 目立ちたくありませんから。

 まあ、あなたを助けに入った時点で目立ってはいるのですがね」

 頭を掻きながら言った。


 男の子は王城の正門が見える所で止まると、

「どうぞ行ってください。

 門番に話しかけるのを見たら私は去ります」

 と、私に話しかける。

 私は頷くと、

「わかりました」

 と言って王城の門に向かって歩いた。



 私を見つけたのだろう。

 門番の騎士が私に近寄ると、

「エリザベス王女様。

 今にも捜索隊が出る所だったのですよ!

『エリザベス王女に何かあったら』どうなっていた事か……」


 あの男の子が言っていたことが実際に起っている。

 だから、私が一番にしなければいけないこと。


「私の護衛騎士は?」

 と聞くと門番は、

「騎士の待機所かと。

 王女から目を離してしまったということで、王の裁可を待っておられます」

 と言っていた。

「連れて行ってもらえるかしら?」

「はい」

 と答えたあと、

「悪い、王女を連れて行く。

 ここは頼む」

 と、門番の騎士が言うと、

「ああ」

 と同僚は頷いていた。


「えっ、ここで待っていたはずなのに、既に裁可が?」

 門番の騎士が言った。

「えっ?」


 私の我儘のために人が死ぬかもしれない!


 私は謁見の間に走った。


 裁可を申し渡すなら、あの場所のはず!


 謁見の間の前に立つ騎士が驚くが、私は大きな扉を開けた。

「おお、リズ。

 帰ったのか。

 無事でよかった」

 私を見つけたお父様が、穏やかな声で言った。

「王女様!

 ご無事で!」

 護衛騎士も私を見てホッとしていた。



「お父様。

 この者にはおとがめなしでお願いします!」

 私が言うと、

「何故だ、お前から目を離し、お前を城の外に出してしまった者だぞ。

 私の任に添えなかった。

 帰ってきたからいいが、死に値する失敗だ!」

 厳しい目をして大きな声で言う。

 護衛騎士はそれを静かに聞いていた。

「それは、私が我儘だから。

 私の我儘で人が死ぬと思っていなかったから……」

 私は護衛騎士の前に行くと、

「だから『ごめんなさい』。

 私の我儘のせいで、辛い思いをさせて」

 謝った。

「ふむ、エリザベスが悪いというのだな」

 お父様はいつもの穏やかな目に戻り私を見た。

「はい、私のせいです。

 私の我儘です。

 だから、護衛騎士の所為ではありません」

「どうしたのだ?

 何があった?

 我儘リズが変わったな」

 お父様はクスリと笑う。

「私はある者に『私の我儘で人が死ぬ』と窘められました。

 そして、その者が言っていた通りのことがこの王城で起っていた。

 変われたのは、その者のお陰です」

「そうか、護衛騎士がお前から目を離したことでいい事もあったのだな」

「はい」

 私が頷くと、

「この者の罪は不問とする」

 とお父様は言い、護衛騎士は私の護衛を続けることになった。



 騎士団長が、

「ありがとうございました。

 お陰で有能な騎士を失わずに済みました」

 と私に頭を下げてきた。

「いいえ、私は我儘をしただけ……お礼は私を叱った男の子に言ってください」

「男の子?」

「ええ、黒髪で茶色の目をした男の子。

 メイドなのか護衛なのか濡れたような髪をした美しい女性を連れていました。

 年齢は私と同じぐらいだったかな」

「会いたいですか?」

「そうですね、また会ってみたいですね」



 お風呂から出て、お母さまに髪を梳いてもらっていると、

 思わず「フフフ」と男の子を思い出して笑ってしまう。

「外は楽しかったかな?」

「外は楽しいけど、ちゃんとしないと怖いです。

 もう少し帰るのが遅ければ、あの護衛騎士が処分されていた……」

 私は恐怖から目を伏せた。

「それがわかっただけで、良いのではないかのう。

 教えてくれた男の子に感謝せぬとな」

「はい」

「で、いい男だったかな?」

 不意打ちの言葉。

 お母様がニヤリとする。

「そっそれは……」

 でも、私はコクリと頷いた。

「また、会うてみたいか?」

「はい」

「探そうか?」

「いいえ、多分どこかで会える気がします。

 それまで楽しみにしておきます」



 しかし、騎士団長の前で、ボソリと呟いた私の我儘が騎士団に通り『黒髪で茶色の目をした男の子と黒髪の美しい女性の二人組を捜せ』という指示になっていたのを知るのは少し先のことになる。

 当然「目立ちたくない」というあの男の子の言葉に従い、指示は取り消した。


 王女って難しい……。


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