73’ダンジョン探索
えーっと、フィリベルトです。
出番が少ないですが、ベルト様の従者をやっています。
ある日、
「ミンクちゃんが、この村の近くにダンジョンの入口を作ったって言うんだ。
元々王都の地下にあったっていう、最近ではケインたちしか入ったことが無いというダンジョン。
行きたくはないか? 行きたいだろう? 行きたいに違いない」
ベルト様が言いました。
ミンクちゃんって誰?
ダンジョンの入口って簡単に作れるの?
そんでもって、この雰囲気だと「行きたくない」とは言えないような……。
俺、従者だから、主人の言うこと聞かなきゃいかんし
「あっ……ええ、行かせていただきます」
俺は忖度して頷いた。
「私も行くわよ!」
腰に手を当て、やる気満々だ。
ミランダ様もローブに杖を持っている。
「私は付き添い」
少女が言った。
えっ……、奥様も?
ダンジョンに入りたい?
ディアナさまは?
あっ……すんなりラクザルに渡して……。
えっ……、ラクザルってオムツ替えるんですね。
ディアナさまも喜んでるし……。
遊んでいたのは知っていたのですが、身の回りの世話までしていたとは……。
で、この少女は誰?
ミンク様?
えー、ちょっと待って、待って、待って。
確か、ケイン様が倒したダンジョンマスター?
何で少女なの?
ダンジョンマスターって、もっとこう、ドーンとドラゴンとか邪神とか……。
あっ……ケイン様の趣味。
えっ……ああ……あの編成なら納得か……。
心の中で「リア充爆発しろ」と言っておこう。
俺なんて……。
涙が出てきた。
まあ、そう言う訳で、急遽、ベルト様、ミランダ様、俺……付き添いのミンク様でのパーティーが編成され、新しくできたというダンジョンへと向かうことになった。
「ロウオウに二人乗りなんていつぶりかしら」
「お前を連れて帰ったときぐらいか……。
それからは、ミランダは家にいたからな」
「あなたが『家を守れ』って言ったからでしょ?
本当は私も戦場に出たかったんだから……」
楽し気な夫婦の会話を聞きながら。俺は二人の後についていく。
俺だって、彼女は欲しい……。
キャッキャウフフしたい!
男臭い騎士団なんて……。
まあ、ミラグロス様みたいな人も居るけど……。
今はミンク様を乗せている。
あからさまに漏れ出す雰囲気は、触るな危険って感じ。
えーっと、緊張で俺の毛が立っています。
馬も緊張してます。
建設中の街に入ると、ルンデル商会の支店に馬を預け、俺たちはダンジョンの中に入った。
「こんな俺でも、ダンジョンは初めてなんだ。
楽しみだな」
「私も」
ベルト様とミランダ様が言う。
緊張ではなく楽しみという感じ。
「私は手を出さないからな」
ミンク様が言った。
階層を下げるごとに敵が強くなると言っていたが、その通りだった。
最初は、ゴブリンやコボルド、ウルフ系の魔物。
そんな魔物はベルト様が一刀両断。
途中からはオークやホブゴブリン。
リザードマンなんかが出て来るようになる。
ゴーストやレイスなんかも居たけども、ミランダ様の魔法一撃で倒していた。
俺も、ベルト様の横で戦い続けた。
体は大きくならないのに、中身が濃くなる感じがする。
「うむ……、今日はここまでだな」
知らない間に結構な時間が経っていたようだ。
ベルト様が言うと、
「それでは、地上に戻るぞ?
屋敷で良いか?」
ミンク様が言った。
「ああ、馬を回収しなきゃいけないな。
直接屋敷から行けるのであれば、次からはそうしてもらおうか」
「私も言ってなかったからな。
次からはそうしよう」
そう言うと、ミンク様が輝き、一瞬にして地上に戻るのだった。
何日かに一回、ダンジョンに潜る俺たち。
ベルト様も、ミランダ様も、これ以上強くなってどうするのだろう。
えっ? ケイン様にばかりいい所を見せたくないって?
親の威厳って奴ですか。
はあ……。
まあ、俺も強くなりたいですから、付き合いますけど……。
ケイン様に言うなって?
ハイハイ、驚かせたいんですね。
そんな感じで、ダンジョン攻略を続けた。
えーっと、ベルト様の剣が変わっているのはなぜ?
ミランダ様も装備が豪華になっているし……。
えっ? いいものを見つけたら替えるは当たり前?
あっ……また捨てた。
こっちの方がいいって?
ケイン様と一緒じゃないんだから、持って帰るのは無理って言っても。
お前はこれ! って渡された槍。
おっ……手に馴染む。
すまん、俺のハルバード。
今までありがとう。
涙を呑んで捨てたハルバードを見て。
「思い入れより命だろ?」
ベルト様がさらりと言った。
休みの日はダンジョンの日。
それが長い間続いたと思う。
えーっと、一人でドラゴンを狩れるようになりました。
「ベルト様。
この部屋が私の部屋なのだが、一応やるか?」
ミンク様が意味不明な事を言いました。
「ケインが死にかけたという強さを知りたいな」
ベルト様も言いました。
ギギギギギ……。
大きな扉が開くと。
今まで見たことが無い大きな部屋になる。
「ベルト、頑張って!」
ミランダ様がワクワク顔で、応援している。
俺もベルト様を見ていた。
しかし、ドンと言う音がするとベルト様が壁に張り付いていた。
しかも結構なダメージ。
俺は駆け寄るとポーションで治療をする。
「これは無理だ。
あいつ、よく勝ったな」
そう言うと、血まみれで体を起こすベルト様。
「私も負けるとは思っていなかったんだか、簡単に負かされた。
ベルト様は人にしては頑丈だな。
でも私も一応手を抜いている」
「それはわかったよ。
手を抜いてこれか……。
そうだな。ケインが学校を卒業して、ラムル村に来たら、朝練をしてくれないか?
騎士たちも気合が入るだろう」
えーっと、騎士たち死にますから……。
「それがケインの役に立つならやるぞ」
「そうね、ケインの軍が強くなるという事は、ケインの役に立つわね」
ミランダ様も言う。
だから、死人が出るかと……。
「お前も頑丈そうだ。
今度、相手してやるからな」
笑うミンク様。
えーっと死刑宣告?。
「お手柔らかに」
俺はそう言うしかなかった。
ちなみに、小遣い稼ぎでダンジョンに入っているのは内緒である。