73.事後報告
窓から差し込む光で目を覚ます俺。
横にはレオナが眠っていた。
起きるとキスマークが点々と……。
俺は寝間着を羽織ると、体に付いたキスマークを治療魔法で消した。
屋根裏で気配がする。
夜の間には居なかったから、声をかけるタイミングを計っているのかもしれない。
「アーネ、居るんだろ?
風呂と食事の準備をしておいてくれ」
「畏まりました」
声が天井から聞こえる。
疲れきって寝ているレオナの顔を見ていると、
「うっ、うーん」
レオナは薄目を開けて様子を見る。
そして目が合うと、
「恥ずかしい!」
毛布に顔をうずめた。
「可愛かったよ」
わざと言うと、
「うー、言うなぁ!」
レオナが顔を毛布に埋めたまま手をバタバタと振り俺を叩く。
「だってそうなんだから仕方ない」
俺が言うと、更にバタバタと叩かれる。
ひとしきり俺を叩いて落ち着いたのか、レオナは俺を見ると、
「気持ちよかった」
とボソリと呟いた。
「そりゃ良かったな」
俺は笑う。
「だって、経験した子から聞いていたのと全然違うんだもん。
『ただパッとやって痛いの我慢して終わりだ』って言ってたのに……。
ただ痛いだけって聞いていたのに……。
我慢してたら、どんどん良くなって……」
途中で恥ずかしくなったのか、枕に顔をうずめた。
ふむ、その辺の知識は前世からだからなぁ……。
こっちの同年代よりは豊富な知識を持っているのは仕方ない。
「まあ、相性がいいってことでいいんじゃないか?」
俺が笑って誤魔化すと、
「まあ、そうなんだけど……」
レオナは静かになった。
「とりあえず風呂入って飯食うぞ。
その後、親善訪問の報告で、俺は王宮に行かなきゃならない。
その前にルンデル商会に寄って、レオナを帰すついでに、ルンデルさんへの報告だな」
早速、俺とレオナは部屋を出た。
俺とレオナが風呂から出て食堂に着くと、カミラがレオナに声をかける。
「私が言った通りだったでしょ?
旦那様に任せればいいのです」
「ええ、カミラの言う通りでした」
お互いに見合うと二人は笑っていた。
朝食を食べると、俺とレオナは馬車でルンデル商会に向かう。
そういや、こういう報告ってしたことがない……。
「娘さんを頂きました」とは言えないし……
逆に変に意識したらおかしいし。
えーっと、サラッと? サラッとだよね?
サラッと流さないと……。
今更ながら初体験。
妙に緊張してしまう。
ルンデル商会に到着すると、ラウンさん先頭で客間へ通された。
「いらっしゃいませ、ケイン様」
ルンデルさんからの挨拶。
「おはようございます。
朝早くから申し訳ありません」
俺は頭を下げた。
「いえいえ、ヴォルフ様から話は聞いております。
おや、レオナの左手に指輪があります。
ついにレオナと一緒になったのですね」
喜ぶルンデルさん。
結局ルンデルさんの方からサラッと話が出てきて、俺はその流れに乗っかった。
「ええ、その報告です。
そして、『レオナを幸せにします』と約束をしにきました」
すると、
「私は商売ばかりでレオナにあまり何もできなかった」
後悔があるのかルンデルさんが呟く。
早くにレオナが母親を亡くしているという事は聞いていた。
「ルンデルさんが頑張っているのは商売が好きなだけじゃなく、レオナのためだってことは、レオナ自身も知っていますよ。
な、レオナ」
俺の問いにレオナがコクリと頷くと、
「レオナ……」
ルンデルさんが涙を浮かべた。
「私にはラウンも居たし。ケインだって遊びに来ていた。
だから、寂しくなかったよ」
レオナの言葉にルンデルさんは泣きながら大きく頷いていた。
涙をぬぐうと、商人の顔になるルンデルさん。
「さて、私からの報告があります。
新規開拓地への入植についてはほぼすべての土地が埋まりました。
あとは、住む者がそこに移住してくるだけです。
もうしばらくすれば、耕作が始まるでしょう」
俺は頷いた。
「ダンジョンの街については、入口ができたおかげで、続々と冒険者が集まっています。
冒険者ギルドに依頼をして、支店の方も出来上がっています」
「素材の方は?」
「ダンジョンの素材をわたくし共で一手に扱っておりますから、利益の分配と税金で、結構な額を納められるかと……。
ただ、治安が悪くなっています。
今後何か、手を考えなければいけませんね」
「騎士の屯所のようなものを作る必要があるかも」
俺とルンデルさんは事務的な話をした。
おっと、そう言えば……。
「ああ、ルンデルさん。
宿屋兼食堂のような店がどこか空いていたら、ラムル村に移設したい」
「それはどうして?」
「ヴォルフが連れてきた女性は元料理人だ。
そして、ラムル村には宿が無い。
ちょうどいいから、宿屋兼食堂を作ろうかと思ったんだ」
「かしこまりました。
いいものを探しておきます」
ルンデルさんが頷いた。
「あと、俺が卒業したら、ラムル村の屋敷に俺は移動する予定。
王都の屋敷は、必要な時に使うだけになるかと……。
そこで、ラムル村へレオナを連れて行っても良いかな?」
ルンデルさんに聞くと、
「ええ、あの村には支店があります。
どうせ手持ち無沙汰で暇でしょうから、そこで働かせてください。
居ないよりはマシでしょう」
との事。
「お父様、その言い方はないでしょ?」
レオナの頬が膨らむ。
「でも確かに、お父様の言う通り。
魔法も剣もできない私が出来るのは、後方を支えることぐらいしか無いわね。
ラムル村の支店で働いて事務系の手伝いをしようかしら」
腕を組みルンデルさんの言葉を真剣に考えるレオナが居た。




