71.ハニートラップ
王都の謁見があった夜……。
俺の部屋の扉が開き、眠たそうに目をこする少女が現れる。
「どうしたんだい?」
俺が聞くと、
「迷ったのぉ」
とのこと。
「どうかしましたか?」
カミラが目を覚ます。
「子供が迷い込んできた」
「そうですか……。
仕方ありません、一緒に寝かせて明日にでも城の者に聞きましょう」
「そうだな」
そう……、俺たちは良かれと思ってしたこと……。
次の日の朝、俺たちが少女を連れて朝食に向かうため、リズ達を待っていた。
その時、
「エルザ、ここに居たのか!」
王が一回り小さくなったような男。
そんな男が少女に近寄ると抱き上げた。
誰?
「ケヴィン様、おはようございます」
リズが男に声をかけた。
「エリザベス王女、お久しぶりですな」
と返事を返す男性。
「エリザベス王女、この方は?」
俺が聞くと、
「王弟のケヴィン様です」
リズが紹介してくれた。
「それにしても、その子は?」
今度はリズが俺に聞き、
「私の娘のエルザだ」
とケヴィン様が言った。
「その男は?」
今度はケヴィン様がリズに聞く。
「私の私的な護衛のハイデマン伯爵です」
とリズが言うと、
「ああ、あの……」
ケヴィン様が答えた。
あの?
「にしても、そのハイデマン伯爵がなぜエルザと?」
詰め寄るケヴィン様。
「昨日の夜、私の部屋に入ってきたのです。
夜も更けておりましたので、婚約者のカミラと共に私のベッドで寝てもらいました」
俺がそう言った瞬間、
「何、未婚の娘が男と同衾しただと?」
ケヴィン様が大げさに驚いていた。
「本当なのか、エルザ」
「お父様、このお方と一緒に寝ました。
頭を撫でてくれて、気持良かったです」
「あー、そうなのかぁ!」
大げさに頭を抱えるケヴィン様
芝居がかってるな……。
「これは困ったぁ。
王族の未婚の女が男と同衾した場合、その女を娶るのがこの国のしきたり。
ハイデマン伯爵にエルザを貰ってもらわねばならない!」
チラチラと俺の方を向くケヴィン様。
リズは顔に手を当てていた。
「あー、言っていなかった私も問題があるけど、一応王宮内だから王の血統の者が居ることを考えて欲しかったです。
ハイデマン伯爵が同世代以上の女性を警戒するのを見越して、こんな子で攻めてくるとは思いませんでした……」
ヤレヤレという顔でリズが言う。
教えておいて欲しいし、知らないし、どうもならんだろう。
すると、ケヴィン様は、
「『しきたり』は『しきたり』だからな。
エルザはハイデマン伯爵に貰ってもらう。
年齢的にすぐに結婚は無理だろうから、婚約でいいぞ。
責任取れ!」
語勢を上げて言った。
「完全なハニートラップだよな。
子供を利用しての……」
俺が呟くと、聞こえていたのか、
「何でもいいんだよ。
お前を押さえられるなら。
ただ、お前と結びついておいた方が、この国に利益があると考えた。
婚約者が既に三人居て、婚約待ちの者が嫌がっていないのなら、貰ってもらってもいいだろう」
と、ケヴィン様が言った。
ん?
よく知ってるな。
「身辺調査を?」
「すでに調べは付いている。
エリザベス王女さえも視野に入れていることもな」
「その情報源はお父様ですね!」
リズは少し怒っていた。
その勢いに押され、
「あっ、まあ、そうだな」
ケヴィン様が暴露する。
つまりはリズが正しい。
「私はハイデマン伯爵、優しいからだーい好き。
ちゃんとお勉強して、いいお嫁さんになるね!」
既に納得し、俺の所に来る気満々なエルザ様は、ケヴィン様の腕を振りほどき、俺に飛びついてくるのだった。
それからは、リズ達と模擬戦を見る程度で、特に何も起こらない。
ただ、俺の膝の上にはエルザ様が居た。
収納魔法からクッキーを出すとパクリと食べるエルザ様。
完全に俺が持っている甘味を狙っているのか、エルザ様は俺に付きまとう。
「あいつ、ロリコン?」という噂が広がったが、何事もない日々が続き最終日。
夜、
「アルフを廃嫡したことで、跡取りが居なくなったんじゃないのか?」
とリズに聞いてみた。
「そうですね。
でも、バルト王には王弟も居て、そしてその王弟には息子も居る。
嫡男にこだわる必要が無いだけなのかもしれないわ。
それにあの兄弟は仲もいい。
自身が責任を取るために、王が選んだのでしょう」
とのこと。
この国の事はこの国の事。
あとはこの国へお任せだ。
親善訪問が終わり、俺たちの馬車が走り始める。
「私のおーかーしー!」
と泣きながら叫ぶエルザ様を必死に捕まえるケヴィン様。
エルザ様やはり甘味目当てだったか……。
「四年後にバレンシア王国の学校に留学させるから、後は頼んだぞ!」
というケヴィン様の声が聞こえた。
うー、義理のオヤジさん確定のケヴィン様。
油断していたら決められてしまった。
両国の王の承認もされていた。
ただの出来試合である。
リズのためにした俺の努力って……何?
為政者の方が一枚上手って感じだ。
王たちはそれだけ有象無象を相手にしてきているのだろう。
相手になりません……。
事情を知ったリズもラインもミラグロスも何も言わない。
「仕方ないわねぇ……」というぐらい。
国同士、貴族同士ではよくある話らしい。
こうして、俺の婚約者が一人増え、リズの親善訪問は終わった。




