70.王の呼び出し
次の日、王に呼び出された。
その横には腕を骨折したように包帯を巻いたアルフ。
はて?
あんなに派手にやったかな?
我々は十人程度に膨れ上がった黒ずくめの男たちの集団を連れて入る。
すでに「オッパイ星人」のキーワードで何でも話す様に仕込んである。
「お呼び出しにより、参上しました」
リズと共に俺たちは王の前に傅いた。
「昨日は派手にやり合ったようだな。
アルフをコテンパンにしたとか?」
「アルフ王子の申し出でしたので、学校でのパートナーであるハイデマン伯爵と対戦させていただきました。
ポトヴィッド将軍が出てきましたから、こちらも必死になります。
必死になったお陰で何とか勝ちを拾うことができました」
リズがさも苦戦したように言う。
「ふむ……。
アルフ、お前、腕を折ったと言っていたな。
低い声で聞く王。
「はっ、はい……」
アルフ王子が言う。
「その腕を見せてもらえるか?
当然その包帯を外せば、肌は紫色に変色し、腫れあがっているはず。
骨折とはそういう物だ」
「そっそれは」
言葉が淀むと、
「騎士たちよ、押さえつけてでもいい、包帯を外せ!」
王が声をあげた。
王は気付いていたらしい……。
既に示し合わせていたのか、騎士たちはアルフ王子に群がると、包帯を外した。
その下には傷一つ無い綺麗な腕。
「やはりな……。
アルフよ、嫉妬は国を亡ぼすぞ」
キッとリズを睨むアルフ。
「さて、エリザベスよ。
済まなかったな。
もう少し早く儂が気づいておれば、お前を危険な目に合わすことは無かった。
しかし、お前の父も『放っておけ』というのでな、調査に専念をして、お前に護衛を回すことをしなかった」
リズは何かがわかったように、
「我が父が言ったのであれば仕方ありませんね。
それで、全てをご存じで?」
とバルト王に尋ねた。
「お前の野営訓練の時に、そこに居る者の一人を使って襲撃をかけた件。
そして、街に出た時の襲撃の件。
すべて把握しておる。
そして模擬戦の件も……」
アルフを見ながらバルト王が言う。
「木剣に対して真剣を使うとは……情けない。
全て儂がアルフに甘かったせいだ。
卑怯者が育ってしまった。
この通り」
バルト王はリズに頭を下げた。
「王が私などに頭を下げるのは良くありません。
およしになってください」
リズが言うと、
「いいや、王でも失敗すれば謝らねばならん。
国を代表する者に対しては特にな」
「もうお顔をお上げになってください。
十分に謝意は伝わりました」
バルト王は頭を上げると、
「本当にすまなかった」
と再び言うのだった。
そして、
「アルフは廃嫡とする。
寺院に幽閉せよ!」
アルフへの断罪の言葉が響いた。
肩を落としたアルフが謁見の間から去る。
俺のやった事って、無駄だったのかね……。
まあ、王のほうが一枚も二枚も上手ってところなのだろう。
しかし、護衛に失敗したらどうするつもりだったのやら……。
俺が責任取らされるんだろうなぁ……。
あー早く帰りてぇ。
そんな事を俺は考えていると、
「ハイデマン伯爵」
とバルト王から声がかかった。
不意打ちに、
「あっ、はい、何でしょうか?」
と返してしまう。
「お主、どの程度強いのだ?」
「耳にしたことがあるのであれば、我が父、剣鬼ベルトよりは強いですね。
あと、鉄壁のバルトロメを討ち取りました。
その程度です」
俺が言うと、
「我が国はバレンシア王国に手を出さぬ方がいいようだ。
若い世代にそのような強い者が居る国は強いからな」
と、真剣な目で俺を見ていた。
雰囲気が変わり、
「その我が手の者たちはこちらで引き取らせてもらうがよろしいかな?」
と、にこやかな顔でバルト王がリズに話す。
「はい、あとのことはお任せします」
リズの言葉の後、黒ずくめの男たちも引き取られていった。
「さて、儂の話は終わりだ。
もうしばらくの親善の間、この国を楽しんでくれ。
下がってよいぞ?」
バルト王が言うと、俺たちは部屋に帰るのだった。