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67.買い物

 次の日の朝、食事が終わると王宮の外に出た。

 メンバーは俺、リズ、ライン、カミラにミラグロス、アーネ、ミンクにヴォルフである。

 ズボンにシャツ、ジャケット程度の軽い服装。

 一応俺とリズ、ヴォルフの腰には剣を帯びていた。


 このメンバー、下手すりゃ国をも作れるんじゃねえか?


 屋台を見つけたミンクが、スンスンと匂いを嗅いでいた。

「欲しいのか」

「うん」

 指をくわえるミンク。

「そう言えば屋台で買い食いなんて私したことない」

「そうね、私も料理人が調理した者しか食べたことが無いわ。

 あ、屋台の食べ物食べたのって、学校祭で屋台をして以来ね」

 ラインとリズが言った。

「まあ、毒があっても何とかするんで」

 俺は指先に魔力を集めた。


 フラデルというシカの魔物の焼き肉を串に刺した物らしい。

 塩で味をつけているがなかなかおいしかった。

 ミンクが両手に、串を持ちハムハムと食べながら歩く。

「『食べながら歩くなんてはしたない!』ってお母さまに言われそう」

 ラインが食べながら言う。

「その辺は大丈夫だろ?

 婚約者の前でやってるんだから。

 別に俺は気にせんよ」

「いいなあ……。

 いつになるんだろ……」

 リズが言う。

「ここはケイン君に頑張ってもらいましょう。

 トントーンと侯爵になってもらって……」

 ラインが軽く言う。

「はあ、無茶を言う。

 とはいえ、頑張らんといかんのも事実か……」

「お父様には気に入られているみたい。

 私をだしに使う気なのかもしれないけど。

 その時はごめん」

 リズが謝っていた。


 まあ、そこは弱みだから仕方ない。



 貴金属店の前を通る。

 リズとラインの足が止まる。

 指輪があった。

「旦那様。

 指輪は?」

 カミラが言う。

 俺はカミラにしか指輪を渡していなかった。

 つまり、ライン、レオナ、リズ、そしてミラグロスには渡していない。

「じゃあ、台になる指輪を買って魔石でも入れるか?」

 俺が言うと、

「「えっ、いいの?」」

 リズとラインが驚いて俺を見ていた。

「元々ラインに渡さなきゃならなかったし、リズは予約ってことで……。

 ミラグロスは……ついでかな?」

「私はついでなのかぁ……」

 と涙目になるミラグロス。

「冗談だよ」

 そう言いながら、俺たちは店に入る。


 そこには高価そうな指輪がずらり。

 ルンデルさんほどではないが、手揉みの店員が現れた。

「この二人に合う指輪を捜している。

 宝石は魔石を入れるので付いていなくていい」

 俺は言った。

 なにも付いていない指輪が現れる。

 何の貴金属かはわからない。

 ただ輪になったもの。

 幾何学模様で彩っているもの。

 花の装飾をつけているもの。

 色々と専用の台に乗せられていた。


 まあ、リズもラインもミラグロスも王家や貴族のご令嬢。いいものを見たことがあるだろう。

 だから、お任せ。


「私はコレね」

 幾何学模様の指輪を選ぶライン。

「私はコレ」

 リズはスズランのような小さな花の彫り物が付いたものを選んでいた。

「私はこれがいいな」

 ミラグロスは無垢の指輪。

「じゃあ、この二つにこれだな」

 更にレオナ用に無垢な指輪を追加する。

 とりあえずつけてみれば、指の大きさにピッタリ。

 そういう魔法がかかっているのだろう。


 んー王都に戻ってからでもいいかなぁ。

 とりあえず、お土産ということで。


 そんな事を考えながら俺はそれを買った。

「あとで魔石を埋め込むよ。

 何の魔法がいいか考えておいて」

 簡単に言ったつもりだったのだが、

「魔道具の指輪?

 そんな高価なものを……」

 リズが驚いていた。

「自分で作るからね。

 魔石も持っているから、高価じゃない。

 カミラの指輪がそうだ。

 オールアップの魔法が使えるようになっている」

「オールアップなんて……」

 驚くラインを見て、カミラが指輪を触りながらにっこりと笑う。

「まあ、そう言う事なんで、考えといて」

 俺は代金を払いながら言うのだった。


 店を出ると、俺、ラインとリズを中心にして、ヴォルフが前、カミラが後ろ、左右にアーネとミンクが付く。

「狙っていますね」

 カミラが呟いた。

「そうだな……」

 人が居るはずの無い屋根に数個の気配感知の反応がある。

「この辺にいい食堂があるんですが……」

 ヴォルフが舌なめずりした。

「ほう……。

 ヴォルフはこの街に?」

「人化した魔物は基本流れ者です。

 いろいろな街や村に行きましたよ」

 ヴォルフが言うと、

「私もそうですね」

 アーネも続く。

「旦那様。

 それを言うなら私もですね」

 カミラも言った。

「俺はこの街に比較的長く居たからな。

 それなりに知っているわけだ。

 どうせ、あいつらを何とかしないといかんのだろ?」

 ヴォルフの言葉に従い、食堂へ向かった。


 その食堂は場末の食堂という言葉がぴったりに見えた。

 店自体は軽く傾いており、入口の扉は建付けが悪い。

 ヴォルフが扉を開けようとすると、蝶番から外れる。

「誰だい、扉を壊したバカは?」

 中から若い女の大きな声が聞こえた。


 ヴォルフが、

「久しぶりだな、ライラ」

 と言って中に入った。

「あんた……」

 若い女は固まる。

 そして、エプロンを外し奥から赤い髪の褐色の女性が現れ、

「どこに行ってたんだい!

 何も言わずに居なくなって。

 この店にはアンタ以外の用心棒を雇う余裕なんて無いんだからね」

 泣きそうに……でも嬉しそうにライラと言う女性はヴォルフを見ていた。

 歳はミラグロスより少し上ぐらいだろうか。

「すまない。

 騙されて、奴隷商人に捕まっていた。

 それに、そこに居るハイデマン伯爵に雇われてな、用心棒ももうできないんだ」

 女性は俺たちを見回すと、

「まあいいさ、それでこんな場末の食堂に客を連れてきてくれただけで十分。

 ここは食堂だ。何を食べるんだい?」

 ライラは俺たちに言った。

「ここの飯は何でも美味い」

 ヴォルフが言う。

「じゃあ、お任せで」

 俺が言うと、

「任されたよ」

 と言って女性は奥に入り料理を始めた。


「ヴォルフ。

 知り合い?」

 俺が聞くと、

「ああ、しばらく厄介になったことがある。

 この店に嫌がらせをする者が居て、たまたまそいつ等から守ってやった訳だ。

 そのまま用心棒で雇われて、そのまましばらく居付いた。

 出て行けとも言われなかったしな」

「それって、ヴォルフが気に入ってるんじゃないの?

 だから待ってたとか?」

 俺が聞くと、

「無いだろう。

 俺は魔物だぞ?

 そりゃ、人化しているからわからないかもしれないが……」

 ヴォルフは驚いて言う。

「しかしヴォルフに助けられて、気になったとかは無いか?」

 俺が言うと、

「危機を助けた男の人に心が傾くというのはあり得ます」

 リズが頷きながら言った。


 そんなことを話していると、

「はい、バズロフと玉ねぎの炒め物、ブロウハスのスープだね。

 あとはパンだ。

 塩味だけだが美味しいはずだよ。

 ヴォルフが好きだった料理だね」

 てんこ盛りの皿と籠一杯のパン、そして各人へのスープがテーブルの上に置かれる。

「すみません。

 あなたってヴォルフ好きなの?」

 ラインがストレートに聞く。

 小娘に聞かれるとは思っていなかったのか少し驚くと、

「えっ……。

 その男ヴォルフって言うのかい?

 私と居た時は名前も言わなかった」

 とライラさんは答えた。


「えっと、まあ、体も許したし、嫌いって訳じゃないが……」

 女性が言った。

「えっ、すでに手を出しているのか!」

 ヴォルフに聞くと、

「そりゃ、まあ……。

 ライラの方から来たからな。

 別に嫌でもなかったし」

 と返す。


 そんな時、不審者の反応が店に近づいてきた。

 数人の黒ずくめの男が現れ、何かを投げつけると中から液体が飛び出す。

 その液体に火をつける黒ずくめの男たち。

 一気に燃え上がった。

「ヴォルフはライラさんを守れ、カミラ、アーネ、ミンク、あいつらを捕らえろ。

 俺はこの店の消火を行う」

 俺の指示に従い、カミラとアーネ、ミンクは黒ずくめの男たちを襲い、無力化していた。

 俺は、店内を消火する。


 ミンクには、「捕らえろ」って言ったから大丈夫だとは思ってるんだが……。

 殺さなきゃいいんだけど……。

 言わんけど……。


 捕らえられ、アーネに縛られた黒ずくめの男の中には、野営訓練でリズを襲った男もいる。

「アタイの店が……」

 ライラさんの悲しそうな顔。

「ヴォルフ。

 ラムル村でライラさんと暮らしたら?

 ダンジョンの街で食堂をしてもらってもいい。

 ヴォルフが用心棒をすればいい。

 まあ、その前にヴォルフが魔物であることを見せないといけないが」

「魔物?」

 ライラさんヴォルフを見る。

「ああ、そういうこと。

 俺はオオカミの魔物。

 人化できるようになった魔物だ。

 そう言うとヴォルフは大きな狼になった。

「つまりこういう事。

 正直、人を喰ったこともある。

 こんな俺でいいのなら、一緒に来てもらえないか?」

 ヴォルフが言うと、ヴォルフの首に抱き付くライラ。

「アンタがいいと言わなかったとしても、アタイが気に入ってるんだ。

 あんたが付いて来いというなら、アタイはついていく!」

 こうして同行者が増えることになった。



書き貯めていたものを、少々ですが暫く更新します。

読んでいただけると幸いです。

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