63.メンバー
学校へ向かう馬車の中、
「通知の手紙は行った?」
リズが俺に聞いてきた。
「ああ、あれだろ?
マクダル王国への親善訪問。
一応選ばれたんだな」
俺が聞くと、リズが頷く。
「私がお父様に言ったの。
『二人が居たら気晴らしにもなるからお願い』って」
王からの手紙には「ハイデマン伯爵に、今回の親善訪問の護衛として参加するように」との指示が書かれていた。
リズのお願いで通るのも問題があるような気もする。
まあ、王も娘のオヤジってことかね?
「二週間後だったっけ?
いいなぁ、私も行きたいなぁ」
レオナが俺達三人が羨ましいようでぶーたれていた。
本当に行きたいようだ。
「ずっと馬車で移動して、道中でも宿でも襲われるかもしれなくて、何も楽しくなさそうなんだが?
道すがらの景色ぐらいしか見るモノは無いぞ?」
俺が言うと、
「『知らないところに』って言うだけでも、面白い気がするのよ!
それに、ケインと一緒なら何か楽しそうだし」
とレオナが返してきた。
「そう言ってもらえると嬉しいかな。
でも、レオナは別の時に」
「じゃあ、別の時に二人で旅行?」
リズとラインがチラチラと俺を見る。
「二人だけって訳じゃなさそうだが、旅行に行くのもいいかもな。
来年は卒業だしね」
「やた、卒業旅行。
言質とったからね。
約束だよ」
軽く言ったつもりの言葉が約束まで格上げされてしまった。
卒業という節目。
そういうのも有りか。
「でもな、待っていてくれる人が居るのは嬉しいもんなんだ。
帰ったら好きな人が居るっていうのは安心できる。
だから、レオナには王都で待っていてもらいたいな」
俺が言うと、
「うー、それはそれで嬉しいんだけど、待ってる方も結構辛いんだよ?
戦争行った時も、ダンジョン攻略した時も……」
レオナに合わせウンウンと頷くリズとライン。
「エリザベス女王とラインは野営訓練に行っていたけど、私はそうじゃなかったから、三人分心配したんだからね」
プンと怒るレオナ。
「それに、高確率でミンクちゃんみたいな可愛い女の子連れて帰ってきたりしたらって思ったら、余計に気になるし。
アーネさんも増えたでしょ?」
と、レオナが余計な言葉を付け加える。
「レオナ、それ言っちゃいけない。
本当に連れて帰ることになると困るから……」
急いでラインが止めるが、俺は既に盛大なフラグが立ったような気がした。
二週間の間で、俺一人だけの同行を我が家の魔物軍団(ミラグロスを含む)を同行させる許可を得た。
王がリズに弱いのに付け込み、リズに頼み込んだのだ。
そして出発の日。
俺とミラグロス、カミラは馬。
俺はバルトロメの愛馬だったライアンに乗る。
アーネとミンクは馬車。
イヌ、サル、キジのイヌであるヴォルフには御者になってもらった。
「できる」といっていたから問題ないだろう。
ただし、馬たちが怯えているのが目に見える。
ヴォルフは馬を恐怖で従わせているらしい。
そういえば馬車に鞭を入れることは無かったような気がする。
「行くぞ」「右」「左」「もう少し早く」と声をかけると馬はその言葉の通りに動いていた。
ヴォルフがラムル村から抜ける訳だが、ラムル村の戦力も増強されているので、サル、キジ、ディアナと父さんの騎士団、母さんの魔法師団、村に居る魔物たちでどうにでもなると思う。
しかし俺の周りって魔物比率高いなぁ……。
リズの馬車の周りには王都騎士団が十名。
魔法騎士団団長クリフォード以下十名だったのだが、カミラとアーネを見た瞬間、女性の副団長にまかせ、クリフォードは体調がすぐれないということで現場を去っていた。
副団長が団長に繰り上がったようだ。
その団長も俺が母さんの息子だということを知っているせいで、びくびくしているし、その辺に居た魔法師団の団員が引っ張られて定員になるし、それって大丈夫なのかね?
まあ、魔法師団には指導にも行っているので知らない訳ではないからいいか……。
あっちなみに、ラインはリズの馬車に同乗である。
リズは俺の家の馬車に乗りたがったが、そうはいかなかったようだ。
リズは残念そうな顔をしていた。
さて、親善訪問に出発である。
読んでいただきありがとうございます。