60.王の命令
リズが野営訓練の後、王宮に戻ったという話を聞いた。
ヘイネル、ローグ、ソルンは在学しつつ護衛を解任。
王国はこの三人では相手にならない脅威が居るという事を認めたということになる。
まあ、知ったのはライン経由だがね……。
学校に行ってもまだ生徒は戻っていない。
だからライン、レオナは俺の屋敷に来ていた。
「私の解任は無かったんだけど、どうしてだろう?」
ラインが口を開く。
「仲いいからじゃない?」
「そうですね、確かに」
俺とレオナが普通に答えた。
「でも、このままじゃ護衛不在でしょう?
私一人であの三人が相手にならなかった者を相手にできるとは思っていないんだけど」
「騎士でも付けるんじゃない?
王都騎士団辺りの暇なのが居るでしょ?」
「それも有りか……」
ラインが頷いた。
すると、カミラが部屋に入ってくる。
「旦那様、王宮から使者が……。
すぐに来て欲しいとの事」
「こらまた急だね。
まあ、下っ端としては行くしかないんだけど。
ライン、レオナ、カミラたちと一緒に居てくれるかな?
野暮用らしい」
「「はーい」」
「ケインの所だと、美味しいもの食べられるし」
「そうそう、たまに新作のお菓子とかもあるしね。
カミラさんと女の子の話を楽しんでますね」
二人はカミラと話し始めた。
俺は馬車に乗り王宮へ向かう。
門番にも話が通っているのか、すぐに中に入ることができた。
俺の馬車が着くと、中から騎士が現れ、謁見の間まで先導する。
そして、
「ケイン・ハイデマン伯爵到着です」
という声と共に大きな扉が開いた。
中に入り王の前で片ひざをつく。
「よく来た。
ケイン・ハイデマン伯爵」
「早急に登城せよとの事でしたが?」
俺が聞くと、
「ああ、エリザベスの今後の事だ。
よくぞ、曲者からエリザベスを守ってくれたな。
我々もアルフの動向を探っていたのだが、なかなか手に入らなかった。
一応、監視以外にも護衛は付けていたのだが、離れすぎていてどうにもならなかった。
あのままでは、殺されることはなくとも傷つけられていたのは間違いない」
「アルフとは?」
「マクダル王国のバカ息子でな。
先日、エリザベスとの婚約を打診してきた。
しかし、エリザベス自身が嫌がっていたのと良い噂を聞かないため『今回の件は無かったことに』と断りを入れたのだ。
マクダル王国のバルト王も『こちらからの急な打診、返事をしてくれただけでもありがたい』と了承してくれたのだ。
あのバカ息子は納得しなかったのだろうな、バルト王経由ではなく直接『俺の力を見せてやる』と手紙をよこした。
我々も警戒はしていたものの、結局は野営訓練の事が起こったわけだ。
とは言え、証拠が無い」
「その話を俺にしてどうするのですか?」
王は俺を見ると、
「今後の事も考え、ケイン・ハイデマン伯爵にエリザベス・バレンシアの通学時護衛の任を与える」
とのこと。
今後の事……って何?
襲われる前提?
「私は週に一度魔法師団の教育がありますが……」
「その日は学校の日でなくても良いであろう?
それに、エリザベスは『お前の護衛なら学校に行ってもいい』と言っておった。
あんなことがあったあとだ、外が怖いのであろう。
そして、それを助け、そう言わしめた責任も取ってもらわんとな。
で、受けてもらえるかな?」
王がニヤリと笑った。
「謹んでお受けします」
としか言いようがない。
ただ、
「護衛の任は私だけでしょうか?」
と聞くと、
「ライン・ラインバッハは継続して護衛を続ける。
他に要望があれば聞くが?」
ふと考える。
「そうですね、レオナ・ルンデルを途中で拾って行っても良いでしょうか?」
「そう言えば、エリザベスの友達と聞いていた。
よく儂との会話に出てくるな。
確かに友達と一緒に居ることは心を癒すかもしれんな」
頷く王。
「あとは、たまの寄り道ですね。
ラインバッハ侯爵家や私どもの伯爵家、ルンデル商会で遊ぶ」
「まあ、その辺はエリザベスと話を詰めてくれ。
ただし、エリザベスに何かあった時の責任は全てケイン・ハイデマン伯爵にとってもらうぞ」
と苦笑いしながら言った。
威圧感スッゲー。
「畏まりました」
俺は頷く。
「明日の朝より、馬車にて王宮に出勤してくること。
そこからこちらの馬車に乗り替え、学校へ行ってもらう」
こうして、俺はリズの護衛になるのだった。
屋敷に帰ると、玄関に迎えに来たカミラが、
「何の話だったのですか?」
心配げに聞いてきた。
「ああ、リズの護衛の話」
「護衛?」
「皆は?」
俺が聞くと、
「リビングで寛いでいます。
バームクーヘンを食べておいでです」
「それじゃ、リビングに行こうか」
俺はカミラを連れ、リビングに向かった。
「おっ、ミンクも居る」
ソファーにはライン、レオナ、ミラグロスにミンク。
アーネは配膳らしい。
「居てはいかんかの?」
ミンクの機嫌が少し悪くなった。
「いいや」
「それにしても、ここにおる者は、友達かの?」
俺に聞くミンク。
「いいや、婚約者も居る。
カミラとラインは婚約者だ」
「えっ」
という顔をするレオナ。
「レオナは近日中にルンデルさんに申し込みに行くから」
するとレオナのホッとする顔と、「私は?」というミラグロスの顔があった。
あっ、忘れてた……。
「で、このミンクちゃんって誰?」
ラインがミンクの頭を撫でながら聞いてきた。
「俺の友達。
ヤバい魔物。
俺殺されそうになったから。
俺は知らないんだが、この辺の物語で悪役として出てきたりするカイザードラゴン?」
俺の言葉にラインの手が止まる。
冷汗がたらり。
「ケインの婚約者なら、私の友達でもある。
下手に攻撃などせんぞ?」
ミンクが顏を上げるとニッと笑った。
「私は蹴られたがな」
ミラグロスがすかさず突っ込むと、
「仕方ないであろう?
ミラグロスがケインの婚約者候補だとは知らなんだからのう」
と拗ねたようにミンクは言っていた。
でも、確認せずに攻撃するのはやめようね。
「そう言えば王宮でなんて?」
レオナが聞いてきた。
「ああ、リズの通学の護衛になった。
ラインと共にな」
「えっ?」
ラインが驚く。
「明日から、よろしくな。
アーネ、朝は早めに王宮に行く必要がある。
伝えておいてくれ」
俺が言うと、
「畏まりました」
と頭を下げた。
「レオナの所も迎えに行く。
それまでに準備しておいて欲しい。
俺たちと一緒に登校だ」
「えっ、ほんと?
私たち、一緒に学校へ?」
「ああ、王にも許可を貰ってある。
ラインの所や俺んち、ルンデル商会への寄り道も認めてもらっている。
何かあったら俺の責任だがね」
そんなことは関係なく、
「やた」
レオナは飛び跳ねて喜んだ。
「うー、楽しそうだのう」
機嫌が悪いミンク。
「仕方ない。
勉強だからな。
ミンクも勉強してみるか?」
俺が聞くと、
「してみたいが……」
見あげて俺を見るミンク。
「じゃあ、カミラとアーネの下でメイド修行だな」
「カミラとアーネと一緒に?」
「ああ、ミンクがどんな人の前に出ても恥ずかしくない礼儀を身に着けてくれれば、いろいろなところに連れていける。
旅することも可能だ。
どう思う?」
「ケインと旅……。
うむ楽しそうだ。
カミラ、アーネ。
私にメイドという仕事と礼儀を教えてくれんか?」
ペコリとミンクは頭を下げる。
「はい、わかりました。
ただし、嫌になっても苦しくなっても諦めないこと。
ミンク様が努力をして成果をあげれば、旦那様は見てくれます。
優しくしてくれます。
だから頑張りましょう」
アーネが言った。
「わかった」
ミンクは大きく頷くと、俺を見上げて嬉しそうにしていた。
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