57.襲撃
読んでいただきありがとうございます。
夜も更けて目が覚めると背後から「スースー」と言う寝息。
ラインは寝入っているようだ。
俺は服を着ながら気配感知を使うと、いたるところに四つの気配が固まっている。
見守るように一つの気配がある。
ふむ、四つの塊が一班で、一つのは監視人か……。
これが一つの編成。
あと……屋根裏に一つの気配。
服を着終わると、
「何やってんだ?
アーネ、居るんだろ?」
俺が言うと、スルスルと糸が落ちてきて、ストンとアーネが現れる。
「バレてましたか……」
テヘヘと言う感じのアーネ。
「で、何の用だ?」
「いや、ご主人様の様子を見て来いと姐さんが……。
それにしても私が来るまでに森を越えるとはね。
ダンジョンで知っていましたが、魔物を越えるバケモノですね」
主人に「バケモノ」言うか?
「姐さんは寂しいんでしょう。
ご主人様は愛されていますねぇ」
コノコノと肘打ちを食らう。
もう一度言おう、一応俺ご主人様なんだがなぁ……。
苦笑いをしながら、気配感知でリズの班を探す。
先生の話から考えると、一番近い班がリズのだろうな。
仮眠をとっているのか動いていなかった。
水だけで動いているのなら、疲労困憊ってところだろう。
一つの気配が、リズの班に近づいていく。
ん?
なんだ?
監視する気配と重なると、もつれあい、一つの気配の動きが止まる。
監視人がやられた。
だが、気配が消えていない。
死んではいないようだ。
嫌な予感がした。
今は夜。
「ちょっと急ぐぞ」
アーネを抱き寄せる。
「いや、ご主人様。
そんなご無体な。
でも私はいつでも歓迎です」
そんな風に言う頬を染めて言うアーネ。
「悪い、遊んでいる場合じゃないんだ。
リズがヤバいかもしれない」
「リズ」という言葉を聞くとアーネが真剣な顔に変わる。
カミラに言われているのかもしれない。
俺は影移動を駆使し、一気に加速した。
影移動は影のある場所へ素早くいける移動。
夜は影だらけ、素早く動くのには都合がいい。
その影の中を全速力で走る。
四つの気配に一つの気配が近づくと止まり、四つの気配は前衛二人、中衛一人、後衛一人の形になった。
前二人がヘイネルにローグ、後ろがソルンか。
一つの気配がリズ達を襲うと、リズの班の気配が二つ動かなくなる。
ヤバいヤバいヤバい!
間に合え!
死んでなきゃ生かすから。
最後の一つの気配が、襲い来るもう一つの気配から距離を取ろうとするが、どう見ても追いつかれそうだ。
何とか追いつくか!
見たことのある姿がヨタヨタと黒ずくめの男から距離を取ろうとしていた。
黒ずくめの男は手にナイフ。
そしてそのナイフは血に濡れていた。
黒ずくめの男がリズを背後から襲おうとした瞬間、俺はリズに飛びつくと影の中に引きずり込む。
泥と血に塗れ冷え切った体。
真っ黒な世界に見たことのある白い顔。
「ケイン、皆が……私を守って……」
泣きじゃくるリズ。
「よく頑張ったな。
皆は死んでいない」
その言葉を聞いてほっとしたのか、リズはそのまま気を失った。
「アーネ、リズを見ていてくれ」
俺は影から飛び出す。
黒ずくめの男はリズを捜しキョロキョロしている。
殺ったと思った瞬間に消えたのだ、焦りさえ見えていた。
そして背後から首を絞め、落とした。
アーネとリズを影から出す。
「ご主人様、者によっては自殺のために奥歯に毒を仕込んでいます。
あと、暗器を持っている可能性もありますので、確認をしたほうがいいですね」
いつもと違う真剣な顔のアーネ。
気配感知で奥歯を確認すると、確かに細工されていた。
その奥歯を抜き取る。
そして黒ずくめの男の手足をアーネの糸で縛り、自殺できないように猿轡を噛ませた。
アーネに言われた通り、ボディーチェックをして見ると、隠し武器が山のように出てくる。
「アーネ、助かった」
と俺が言うと、
「いいえ、後から御馳走を頂ければ問題ありません」
と舌なめずりをする。
血が欲しいらしい。
「ああ、屋敷に帰ったらな。
ついでにこの男を屋敷の牢屋に入れておいてもらえると助かる。
カミラに催眠をかけてもらっておいてくれ。
あとで尋問をする」
「わっかりましたー」
軽い返事と共にアーネは黒ずくめの男を軽々と抱え、去っていくのだった。
リズは寝ていた。
それこそ疲労困憊なのだろう。
俺はリズをデマゴライの皮の上に置いた。
その上から毛布を掛ける。
周囲には魔物が居ないから、しばらく待っていてもらおうか。
お付き達の下へ向かう。
ヘイネルは太ももに大きな傷。
カミラと同じ感じだろうか……。
「何で来た?」
とヘイネルが聞いてきた。
「一応助けにね」
俺は言うと、ヘイネルの傷を治した。
「お前、治療魔法を?」
「ああ、使える」
何か思い出したのか、
「エリザベス王女は?」
と聞いてきた。
「エリザベス王女は無事だ」
と言うとヘイネルはホッとする。
「悪い、黒ずくめの男には逃げられた」
嘘を言う俺。
「クソ、怪我さえなければ追うものを……」
悔し気なヘイネル。
「生きていただけで運が良かったと思ってもらいたいものだな。
このまま放置されていればお前は死んでいた」
そう言うと、俺から目を逸らすのだった。
残りの二人を探し出し、治療する。
「お前ら、エリザベス王女の護衛を頼む」
そう言ってエリザベス王女の護衛をしてもらい、俺は監視役を捜しに行った。
監視役は見つかったが、腕に大きな傷。
半分ぐらい切れていた。
出血が多いのか血色が悪い。
意識はすでにない。
ギリギリだったようだ。
治療と造血を行う。
すると、監視役が目を覚ました。
「生きています。
とりあえず皆の元へ」
俺は四人のところに監視人を連れて行った。
全員が揃うと俺は火を起こす。
リズの傍に焚き火を作った。
「まあ、みんな温まれ。
体が冷え切っているじゃないか!」
よろよろと集まる四人。
「凄いなお前は……。
それにしても、なぜ襲われているのがわかった?」
監視役が俺に聞いてきた。
「私は気配感知と言う魔法を教わっています。
ゴール到着後、気配感知を使っていると、先ず監視人であるあなたが襲われているのがわかりました。
そして、お付きの三人。
最後にエリザベス王女様」
「そんな魔法が……。
それに、既にゴールまでしているとは……。
食料もなく、魔法さえ使えず、体力の無い魔法使いを連れて、よくもまあ……」
俺が凄いような言い方をする。
しかし、気温が低い場所では体温の維持は重要だと思う。
「そうですか?
これだけ寒いなら、火が起こせないと下がった体温が戻りません。
人は体温が下がると、動きが悪くなる。
食べ物を食べないと体温上げる力も無くなります。
そこで、火を確保し、獲物を得て、暖かい所で眠っただけ」
俺は言った。
「魔法が使えないんだぞ!
どうやって火を起こす!」
ヘイネルがあり得ないというふうに俺に突っかかってきた。
「まあ、今回は火の魔法でたき火を作ったけども……、魔法無しでたき火を作ればいいわけですね」
そう言うと、俺は火打石と火口を使って見事に着火。
もう一つたき火を作った。
「何故そんなことができる?」
ローグが聞いてくる。
「俺は十歳の時に父さんに冒険者にされて野営は手慣れているからね」
実際は薪の風呂を沸かした時の経験が役立ったわけだ。
「まあ、それでも魔法無しで火を起こすのはあまりしないけど……。
俺も一応魔法使いだからね」
そう言って人差し指の先に火を灯した。
「さて、俺は戻ります。
黒ずくめの男は逃げました。
もう襲ってくることは無いと思います」
俺が言うと、
「わかった」
と監視人は言った。
その後は、リズの班が決める事。
結局、「私は最後まで歩きます」と言うリズの言葉で最後まで歩いたそうな
そして到着後は「順位は無効」だとリズは言ったらしい。
監視人が、リズ達が襲われたことを証言し、順位は有効になった。
俺も事情を聞かれたが、監視人に言ったことを繰り返しただけだった。