5.父帰る
ファルケ王国との戦争が終わったと連絡があった。
バレンシア王国の勝利と言うことだ。
その流れからして、ベルト父さんがすぐに帰ってくるはずだった。
しかし、戦傷で帰りが遅くなるという連絡はあったが、それでも戦争が終わってから帰ってくるまでが遅かった。
「大丈夫かしらあの人……」
だから、母さんも心配していたのだ。
そんな心配をしていると、パカパカと蹄の音をさせながら父さんはロウオウに乗って帰ってきた。
家に帰ってきた父さんは愛馬であるロウオウから降りるが足が踏ん張れず、崩れ落ちる。
母さんがすぐに近寄って肩を貸した。
父さんは、大きな傷を負ったようで、馬を降りると杖をつき右足を引きずる。
そして、母さんが手伝って装備を外すと居間の椅子に座るのだった。
「旦那様。
初めまして、カミラと申します」
カミラは父さんの前に行き挨拶をする。
「ああ、ミランダから話は聞いている。
愚息を頼む」
意外とすんなりと父さんはカミラを受け入れた。
事前に母さんからの手回しがあったようだ。
ケガをした状況を話し始める父さん。
「失敗したよ。
馬上で戦っている時に、槍で突かれたんだ。
腱が切れたようでな、治療師にはこれ以上は良くならんと言われた」
とのこと。
「父さん、その足は大丈夫なの?」
俺が聞くと、
「大丈夫かと言われるとあまり大丈夫とは言えないな。
馬には乗れるが降りたら杖が無ければ歩きもできん。
このままだと今後戦いがあると困る」
確かに右足に太ももから膝にかけての一本の傷があった。
腱かぁ……繋げばなんとかなるのかね。
そう思った俺は、
「父さん診せてもらっても?」
と聞いた。
「治療できるのか?
治療師も無理だと言っていたが……」
父さんが俺を見る。
「わからないけどやってみないと、それで治れば儲けものでしょ?」
「わかった」
父さんは頷いた。
俺は、父さんの足を見てみた。
足にカミラに教わった気配感知を行う。
足だけを中心に、魔力を込めて。
太腿周辺がフレームで浮かび上がる。
凄いな、父さんの筋繊維。
えーっと、右と左を比較して、同じじゃないところを探すか……。
間違い探しだなこりゃ……
おっこれか……この筋が切れて筋肉が縮まっている。
手術をしないなら、これを何とか引っ張って繋ぐ必要があるのか……。
念動ってあんまり使ったことないんだけどなぁ。
見つけた筋を膝の元の位置に戻す。
そして、魔力を流し繋いだ。
傷の上をなぞり、筋繊維を繋ぐと同時に筋肉に出来た傷を消す。
父さんはそれを見て驚いていた。
「父さん、どう、足の具合は」
父さんは立ち上がると、ドンドンと右足を踏み込む。
ミシッと言って一枚の床板が割れ、足が埋まる。
父さん、やり過ぎ……
「おお、全然痛くないぞ。どうしたのだコレは?」
驚いて俺を見る父さんに、
「カミラに教わった気配感知を魔力で増幅して切れた腱を捜したんだ。
その腱を左足の状態を参考に繋いだ。
ついでに筋肉も傷も治しておいたよ」
と教えた。
「そうなのか、カミラさんのお陰かありがとう」
カミラに向かって頭を下げる父さん。
「旦那様、気になさらず。ケインが凄いからできたのです」
と言っていた。
これで、ベルト父さんも大丈夫だ。
そして父さんが帰ってきてからは、三人での朝練になる。
俺とカミラは父さんに戦いを教わった。
カミラの戦い方は自己流だったらしく、父さんに修正されメキメキと強くなる。
そんなカミラに触発され、俺も負けないように努力した。
戦争途中のために二人で練習する事もあったが、三人での練習はずっと続く。
お陰で俺もカミラも父さんに負けないぐらいの実力をつけることになるのだった。
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