53.攻略のあと
何も無い部屋。
そこには大きな魔石が鎮座していた。
透明ってことは、何らかの魔法がかかっているのかね?
目を覚ました少女が俺を見る。
「負けちゃったね」
「ああ、君の負けだ。
だから、俺の友達。
それでいいかな?」
「うん、それでいい」
「コアをどうするの?」
少女が不安げに聞く。
「それこそ、どうしたらいい?
それは俺にもわからないんだ」
「私もわからない。
でも、コアを壊したら、私は居なくなる」
少女は目を伏せた。
ふむ……。
「ダンジョンマスター様。
入り口というのは移動が可能ですか?」
俺はあえて仰々しく聞いた。
「できる。
今の場所から移動できる」
パッと顔が明るくなる。
「どこにでも?」
「私が行ったことのある場所ならどこにでも!」
「入口はいくつまで?」
「個数制限はない!」
「ふむ……。
ダンジョンマスターがこの場を離れるのは可能か?」
「できる!」
「俺はダンジョンマスターを倒し、ダンジョンコアまで到達した。
どうやって外に出ればいい?」
「あそこの魔法陣で、行きたい所に行けばいい」
少女は指差した。
「ありがとな」
俺が頬を撫でると少女は目を細めた。
「さて、俺の友達である君の名は?」
少女はしょんぼりすると、
「無い……」
と呟く。
「名前要る?」
「要る!」
少女のテンションが目に見えて上がる。
系統は違うが……。
ハーフドラゴンっぽいから
「ミンクでどうだ?」
「ミンク?」
「ああ、頭に角があるからハーフドラゴンっぽいだろ?
だから、ミンク」
「ミンク……私ミンク。
うん、ミンクでいい」
気に入ったようだね。
昔のネタで喜んでもらえるのならば問題ない。
「でもね、私ハーフドラゴンじゃない。
カイザードラゴン。
何百年も前、私も覚えていないけど、ここの王様に『このダンジョンに居ればいっぱいお友達が来るよ』って言われた。
この格好でこの場所に来たらこの石に『ダンジョンマスターに認定しました』って言われて、ずっとここに居る。
本当の姿を見せるからちょっと来て」
ミンクに従い、元の大広間まで行くと、ミンクは巨大化し六十メートル級のドラゴンに変わる。
俺、カミラ、アーネはその姿をあんぐりとして眺め、俺たちのリアクションに満足したのか、ミンクは人型に戻りにっこりと笑った。
どこにでも行けるというので、魔法陣でとりあえず王都の俺の屋敷に帰る。
ミラグロスは急に庭に現れた俺を見つけると、
「ケイン殿―!」
と言って走ってきた。
抱き付いてくるミラグロスに蹴りを入れるミンク。
ミラグロスは吹き飛び、壁に刺さる。
すぐにカミラとアーネはミラグロスの介抱をしていた。
俺もミラグロスに近づくと、治癒魔法を施する。
脛折れてるし……。
「ダメだろ、あれでも俺の婚約者候補だ」
「ケイン殿『あれでも』と言われるのは辛い」
ミラグロスが半泣きで訴える。
「ケインて誰だ?」
あっ、言ってなかった。
「俺の名がケイン」
「私を倒した者の名がケイン。
友達と婚約者はどう違う?」
すると割り込むように、
「ミンクさん、友達は一緒に居ると嬉しい相手です。
婚約者とは一生その番と添い遂げる約束をした相手です」
カミラが言った。
「だったら、私も婚約者になりたい。
ケインなら、私が暴れても何とかしてくれる」
「その容姿じゃなぁ……。
抱いたりしてたら、良からぬ疑惑が……」
ボソリと言うと、
「年齢を変えればいいのか?
そうだな……」
そう言うと、ミンクが妙齢の美女に変わる。
カミラを上回る乳。
オッパイ星人の手が動きそうなところをカミラに手を抓られた。
はっと我に返る。
「ミンク。
一緒に暮らしていれば、俺から付き合ってくれって言うから。
とりあえず友達じゃダメかね?
それと、その格好より前の姿の方が可愛いかな」
少し考えると、
「ケインがそういうのなら仕方ない。
友達だからな」
ミンクは渋々頷き元の少女の姿に戻った。
納得してくれたか……。
あまりに形のいい胸を見せられると……手が動きそうになる。
風呂に入ってさっぱりする。
ミラグロスが
「ダンジョンに入って四週間とちょっと、何をしていたのだ?」
と聞いてきた。
「それは、魔物との戦い。
戦いつかれては寝て、起きたらまた戦う。
それをずっと繰り返すの。
どのくらい時間が経ったのかもわからない。
でもいつ終わるかもわからない、無限のような気がした」
「その女は?」
再びミラグロスの質問。
ちょっと機嫌が悪い。
「ミンク。
ダンジョンマスターだ。
カイザードラゴンって知ってるか?」
「物語に出てくるよ。
旧王国を潰した邪悪なドラゴンらしい」
ほう、そんな奴なんだ。
「それだよ」
「?」
「だから邪悪なドラゴン。
王都の深部に居る魔物。
居てもおかしくはないと思うがね」
ミラグロスがミンクを指差す。
俺が頷く。
ミラグロスの額から脂汗が流れた。
「さて、馬車に乗って冒険者ギルドに行こうか。
折角生き残ったんだ。
地獄に放り込まれた代償を貰わないと」
馬車で俺とカミラ、アーネ、ミンクを連れ冒険者ギルドに向かう。
冒険者の格好ではなく、主人、夫人、メイド、ハーフドラゴンの格好。
受付に座ると職員は何も言わずとも奥の部屋へ俺たちを導いた。
椅子に座って待つ俺たち。
「ここは何なのだ?」
ミンクは周りをきょろきょろと見回す。
「そうだな、金と強さを求めていろいろな依頼を受ける場所だな」
「ケインはどちらも持っている。
なぜ、こんな所に?」
「金と強さを得られたのは、ミンクのダンジョンのお陰」
実際、俺の収納の中には唸るほどの金銀財宝、武器が入っていた。
強さもカイザードラゴンであるミンクを相手にできるほど。
しかし、俺が欲しいのは金や強さじゃない。
「人間って面倒でな。
人の価値を言葉で表そうとするんだ。
自分の欲しいものを得るためには、その言葉で呼ばれるまで成り上がらなければならない。
だから、君のダンジョンを攻略した」
「欲しいものがあるのか?」
「ああ、欲しいな」
「だったら私が奪いとってこようか?」
ピンクが背後にオーラを纏う。
「いいや、俺は人間。
人間のルールで成り上るよ。
大分無茶をしているけどね」
「ふむ、友達がそういうのだ。
私もケインを見ていよう」
話が終わったころ、グレッグさんが現れた。
「ケイン、スタンピードは?」
「もうありませんよ。
内部の魔物は討伐しました。
ダンジョンコアの魔力についても大分放出したと思われます。
次、いつスタンピードが起るかは知りませんが、数百年後じゃないですか?」
「カイザードラゴンが居るはずなのだが……それは?」
カミラとアーネがピクリと動く。
「知っていたんですね」
俺はグレッグさんを睨む。
「言ってなかったかな?」
うそぶくグレッグさん。
「ええ、最下層で六十メートル級のドラゴンを倒しましたが、それがカイザードラゴンかどうかまでは知りません」
すると、
「私は負けたが倒されておらんぞ」
と小声でミンクが訴えてきたが、口の前に人差し指を出して静かにさせた。
「ただ、その後ダンジョンコアの部屋までは行きました」
「ダンジョンコアまで行ったのならば、それはカイザードラゴンだったのだろう」
グレッグさんは言う。
「もう一度行って欲しい」
と言われそうだったが、言われなかった。
もし言われたとしても、その辺はミンクの力で何とかなりそうだ。
「ダンジョンマスターを倒したダンジョンはどうなるので?」
俺はグレッグさんに聞いてみた。
「休眠期に入ると聞く。
魔物がある程度満ちるまで、活動をやめるということだ。
入口が消えるとも聞く」
「ちなみに、ダンジョンは商売になるので?」
「それは素材に金が手に入るんだ。
金が回る。
領地にそれができれば、訓練ができて軍も強くなるし、いいとこづくめにはなると言われてる。
だが、治安は悪くなるぞ」
いい所だけではないってことか……。
しかし……。
「さて、それでは生きて帰ってきた報酬を貰いましょうか」
俺はグレッグさんを見て言った。
俺の前に王家の蝋印がされた手紙が投げられる。
その封を開けると、地図が一枚。
ラムル村だけでなくラムル村の周囲にある広大な森林と原野が俺の領地になっていた。
元リンメル公爵領で開発されていない場所全部。
「土地はやった自分で何とかしろ」ってことらしい。
せこいな。
そして、もう一枚仰々しい紙が、
「伯爵に陞爵する」
と一言。
学生で伯爵ですか……。
予定より早すぎるね……。
あー、人居ねえや……。
ルンデル商会に頼まないといけないなぁ。
「確認したか?」
「ええ、報酬はいただきました。
今一番ではありませんが、一番を手に入れるための物も手に入りました。
手に入れるまでの立ち位置まで行くにはもう少し時間はかかりそうですけどね」
数日後、俺が伯爵になったことが公表される。
読んでいただきありがとうございます。