52.ダンジョン攻略
ダンジョンの入口に近づくまでに多くの魔物。
ゴブリンにフォレストウルフ、コボルドで入口までが埋まっている。
餌になるものが来たと喜び俺たちを攻撃してきた。
「これは手間ですね」
「弱いんだけど、数が多すぎます」
カミラとアーネが呟いた。
まだ入り口に入っていないんだがな……。
「はいはい。
みんな集まれ」
すると、二人が俺の傍に来た。
「広範囲殲滅魔法って奴だ」
「ボウン」
そう言うと、地面から爆風が吹き上げ、魔物たちが高く舞い上がる。
そして、そこから自由落下で落ちてきた。
「まあ、効率も悪いし、威力も低いからあまり使いたくないんだけどね」
「なぜ今使ったのです?」
カミラが聞く。
「ん、ゴブリンぐらいなら倒せるからかな?
それにしても、ダンジョンの魔物は死ぬと消えるのか」
残っているのは金が入った袋と、装備、そして素材。
牙とか爪とか……。
「ダンジョンの魔物は倒されると魔力に戻ります。
ただ、拡散されてダンジョンコアには戻らないということです」
「死体を盾に……とかは難しそうだね」
カミラと話をしていると、
「ご主人様は強かったんだ……」
アーネが俺を見ていた。
「ええ、私など比較にならないくらいね。
さて、入口です。
このままゴブリンだけならいいんですが……」
俺はギイと扉を開けるのだった。
薄暗い中に、開けると魔物の頭頭頭。
まあ、こうなるよな。
固まった場所に圧縮したファイアーボールを打ち込む。
死ななかった魔物をカミラとアーネが殲滅していった。
まだ一階なんだがな。
気配感知である程度の階層と魔物の情報がわかるとはいえ、全滅させるのは疲れる。
だが、ここから魔物を出すわけにはいかない。
何階層あるのかも知らないのに……か。
影に隠れて俺たちは休憩をする。
俺は甘い物。
カミラとアーネは俺の血を。
「多いですね」
カミラが言う。
「そうだな。
でもその依頼を受けたんだ。
最後まで完遂しないと」
「なぜ、こんな無理を?」
アーネが聞いてきた。
「好きな女性を手に入れたいから……だね」
俺は言った。
「意外とご主人様は頑張り屋なんですね」
「そうか?
欲しいもののために頑張るのは普通だと思うが?」
「はい、私も欲しいもののために頑張ります」
さて、アーネは何が欲しいのやら。
「じゃあ、いくか」
俺たちは再び戦い始めた。
時計の無い空間。
どのくらい戦ったのかもわからない。
トイレさえ風呂さえない。
一応魔法で体は洗うが、さっぱりしない。
トイレの後も魔法で処理。
女性陣は大変だ。
疲れたら食事をして寝て、再び戦う。
終われば、金や素材、宝箱を仕舞った。
それをずっと繰り返す。
そんな中、アーネは着々と強くなり、俺とカミラもそれを上回るように強くなっていった。
「何日経ったのかね?」
ダンジョン産のホルスから出た肉を焼きながら、俺は誰ともなくつぶやいた。
「わかりませんね。
先が見通せないのがこんなにつらいとは……」
カミラが言った。
「どこが最後なのかもわからないのに、新しい階層に行けば奥が見えないほどの魔物。
この階なんてドラゴンだらけだったじゃないですか!
このダンジョンどうなってるんですか!」
アーネは既に泣き言に近い。
「まあ、野良でドラゴンが出てくるんだ。
そろそろ先が見えてきてるんじゃないかな?
考えてもみろアーネ。
お陰で、アーネも強くなっている。
ドラゴンなんて相手にならなかっただろ?」
「そうですけど」
「何にしろ、ここを何とかしないと上には戻れない。
体力、魔力共にあるんだ。
後は頑張るしかないね」
かくいう俺も、大分参ってきていたが……。
装備は変わっていた。
俺の右手にはミスリルのロングソードだが、左手には、なぜかMP-42……に見える物。
誰が作った魔道具かは知らないが、まさに機関銃。
炎の魔法を凄い勢いで連射できる。
魔力の収束を考えて撃つと、魔物たちが爆ぜた。
カミラの左手にはオリハルコンと思われる盾と、赤いガントレット。
カミラの特性に合っているのか、そのガントレットの拳の部分から一メートル弱の魔力の刃が飛び出す。
アーネの短剣は黒と白の一対の物に変わっていた。
俺はカッコいいから使っているのだが、
カミラとアーネは使い勝手がいいらしい。
戦って食って眠るルーチンを数えきれないほど続けた後、通路が開け、高さ十メートルは有ろうかという大きな扉が現れた。
「最後だといいんだが……」
最後の休憩を終えると、扉に手を触れる。
ギィーーーーという大きな音と共に扉が開くとそこには大きな空間。
そして、ポツンと何かが泣いていた。
何かに近づくと、
「寂しいの。
ダンジョンマスターになったらいっぱい人がくるって言われてなったのに誰も来ない」
と俺を見るモノ。
「友達は居ないのか?」
「友達?
私、来てもらおうと思って頑張ったの。
人が来てもらえるように魔物を配置して、ずっと待っていた。
でも誰も来なかった」
ドラゴンの角が付いた少女。
見た目は小学生……低学年ぐらい。
さて、実際はいくつなのなら……。
バケモノか、そうでないのか……。
「私をどうするの?」
少女は聞いた。
「さて、どうしよっかなぁ……」
俺は少し考える。
カミラを見てもアーネを見ても「お任せで」って感じ。
はいはい……。
「友達になろっか」
俺が言うと、
「友達?」
少女はキョトンとしていた。
「ああ、一緒に居て楽しい存在」
「あなたといると楽しいの?」
「君は何をしていると楽しい?」
「戦っていると楽しい。
でも、強い者が居ない。
すぐに壊れる」
俺はカミラとアーネに下がれと手で指示をした。
「そうだな。
戦って俺が勝ったら友達になってもらえないかな」
「うん、それ楽しそう。
やろう」
少女は跳ね起きると、両手から魔力の爪を出す。
カミラと一緒か……。
でもカミラより格段に強い。
「旦那様」
カミラが聞くが、
「部屋を出ていたほうがいいかも」
と、外に出るように促す。
「じゃあ、始めるよ!」
少女が俺に向かって突っ込んできた。
俺は少女と俺の間に見えないシールドを張る。
「ドン」という音がすると少女の顔がガラスにぶつかったようにブサ顔になっていた。
「イタタタタ。
ズルい。
でも負けない」
シュンという音がすると、俺の前に少女が現れた。
そしてボディーに少女の拳が入る。
そして、背中まで爪が抜けるのがわかった。
「いってぇ……」
治癒魔法全開で、刺さったままの状態を維持する。
血管は拳を避けさせて再生。
「すごい、死なない。
面白い」
ニコリと笑う少女の頬を青い炎の圧縮したファイアーボールを纏わせた右拳で殴った。
勢いで俺は吹っ飛び、腹から爪が抜ける。
急いで腹の傷を塞ぎ、爆発の勢いでダメージを負った右手も治す。
少女はクレーターの底に張り付いていた。
指がピクリと動く。
「あれで動くか……。
指向性を持たせて、少女の体全体に威力が乗るようにしたのに」
少女の顔は腫れ、腕はあらぬ方向に向いている。
足からは出てはいけないはずの骨が出てていた。
しかし、少女は笑っている。
何かオーラのような物に包まれると、すぐに治癒されていく。
「凄い、死ぬかと思った。
次は私」
普通は気絶するだろ……。
再びシュンという音がして少女が消える。
半歩右ってとこかね。
魔力感知で作ったフレームの中を突っ込んでくるもの。
少女の攻撃を避けると、少女は俺に向いて飛ぼうとしたはず……。
しかし、見事に壁に張り付いていた。
床の摩擦をなくしたせいで、方向転換できず、更には減速できず壁に張り付いたのだ。
さすがに自分の力が強いとダメージも大きいか?
「うぐぐ……」
ダメージを回復しようとするところに、俺は少女のボディーに先ほどのファイアーボールでブーストした拳を叩き込んだ。
少女は血の混じった胃液を吹き出す。
そして、俺を睨み付け歩もうとした瞬間気を失った。
終わったことに気付いたカミラが、
「旦那様、お腹は?」
と言って腹をめくる。
「ああ、大丈夫」
「背中まで爪が出た時には……」
カミラは泣いていた。
「あのまま上や下に腕を動かされていたら、俺も膾になっていたよ。
こいつとはもう二度とやりたくない」
黄色いオーラを出し、治癒が進む少女を見ながら俺は言った。
「何でこのような治癒能力を?」
不思議そうなアーネ。
「ダンジョンマスターだからじゃないか?
ダンジョンコアからの魔力の供給で自然治癒しているのかもしれない。
まあ、その辺はこの先にあるダンジョンコアに会ってみればわかるんじゃないかな?」
俺は少女を抱き上げた。
すると、今までなかった場所に扉ができる。
「さあ、行こうか」
俺たちはその扉を開ける。




