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50-1.魔物商人

 講義を終え、屋敷に帰る馬車の中。

「アーネはクリフォードの所に行く前はどこにいたんだ?」

 俺が聞くと、

「魔物商人です」

 とアーネが答えた。

「王都に魔物商人が?」

「実際居ますよ。

 魔物が意思を持つなど考えていない者たちです。

 私なんて裸に剥かれました。

 指でいろいろ弄るなんて当たり前です。

 私の反応を見て楽しむような輩です」

 吐き捨てるように言うアーネ。

「カミラもそんなところに居たのかね?」

「王都に居る魔物商人はそこだけらしいですから、可能性は有りますね」

「じゃあ、やっちゃおうか?」

 俺は笑いながら言った。


 そんなもの無い方がいいと思ったからだ。

 どうせ表立って活動ができないような店なら、潰したほうがいいと思う。

 そりゃ需要があるのだろうが、わざわざ供給させる必要もない。


「で、場所はどこだ?

 知っているんだろ?」

 俺が聞くと、

「えっ、あそこは魔力の強い者しか居ません」

「一応、クリフォードの魔力を上回っているらしいんだが、それでもダメかね?」

 俺は笑った。

 でも目は笑ってなかったと思う。


 潰してしまいたいと思っていたからだ。


「それは私のため?」

 モジモジしながらアーネが聞く。

「アーネだけじゃなく、カミラにとってもだな」

「そこは違っていても私のためと言って欲しい!」

 

 んー、怒られてしまった。

 纏めて言う傾向がある俺。


「まあ、何にしろその組織は潰したい。

 いいかな?」

 俺が言うと、急にアーネは俺の首に噛みつき、血を吸い始めた。


 フウと言いながら口を離すと、アーネは口元を舐り、

「私も魔力は満タンです。

 これでご主人様の足を引っ張らないでしょう」 

 とニッコリ笑った。


 アーネに付いて俺は王都の屋根を飛ぶと、スラム街と言われるところにたどり着く。

「あの建物です」

 大きな倉庫の傍らにある建物をアーネが指差した。

「倉庫に魔物。

 建物で、契約かね?」

 俺が聞くと、

「その通りです」

 とアーネが頷く。

「じゃあ、()っちゃいますか」

 俺は事務所のほうへ向かった。

 入り口に立つ警備の首ににアーネの糸が絡みつく。

 アーネが手を引くと、首に糸が埋まり首が落ちると勢いよく血が噴き出した。

「凄いねそれ」

「姐さんと同じで、糸の強さは魔力の量で決まります。

 ご主人様の血を得て、今絶好調です」

 ニコリとアーネが笑った。


 アーネが襲ってくる者は全て殺す。

 敵と遭遇するたびに首が転がる。

 そして、建物の最上階、一番奥の部屋に小太りの男が居た。

 葉巻のようなタバコを吸う男。

「ここまで簡単に来るとは、なかなかだな。

 しかし、ここには私に隷属した魔物が居る」

 ニヤリと笑う男。

「おい、バケモノ。

 出てこい」

 すると、金色の毛並みの狼が現れた。

 そして、次の瞬間に金色の髪を持つ筋肉隆々な男に変わる。

「ゴルトヴォグレスと言う半人半魔の魔物です。

 人型では最高位の強さだったと思います」

 アーネが俺の耳元でささやいた。


 ワーウルフか?

 肩口に紋章が見える。


「申し訳ないが、主人の言葉には逆らえん」

 苦笑いすると、俺を襲ってきた。

 一瞬で俺に近づき、手の爪で襲ってくる。


 はやっ。


 俺の服が破れた。

 足払いを躱し、そのあとの突き。

 突いた手から真空波が出るのか、服が破れる。

 しかしその下の皮膚には傷がつかない。

「あーあー、あんまり予備を持っていないんだから……」

 俺が軽口をたたくと、

「俺のエアカッターが当れば、普通は皮膚を切り裂き肉をえぐる。

 それが、傷一つつかんとはな」

 苦笑いしていた。

 ワーウルフの再びの攻撃。

 俺は床の摩擦を減らした。

 力強く突っ込んできたワーウルフが方向を変えようとした瞬間、滑って転ぶ。

 その勢いのまま壁に当たると壁をぶち抜いて隣の部屋に飛び込んだ。

 隣の部屋には、解体された魔物。


 凄い匂い。


 アーネも俺も鼻をふさいだ。

「死んだ魔物から魔石を取ったのでしょう。

 この男が扱う魔物は高位のものが多く、死んだとしても魔石は高価ですから……」

 アーネが言った。

 再び現れるワーウルフ。

 俺の顔目掛け拳を振りかぶる。

 ワーウルフの拳を見切りカウンターを入れると縦に回った。

 そのまま白目をむく。


 逃げようとする男はアーネに絡めとられ、既に殺されていた。

 その男に向かってアーネが唾を吐いている。


 相当嫌っていたようだ。


「さて、こんなことができるのは、裏で相当デカいバックが居るからじゃないのかね?」

 魔力感知を強めると、建物がフレームで現れる。

 違和感のある場所。

 隠し棚のようなモノを見つけた。

 そのままその場所に向かうと本棚ごと引きちぎる。

 出てきた扉をそのまま開けた。

 高額貨幣とバルツァー侯爵からの手紙。

 王都へ魔物を入れる方法の相談。

 売り上げに対して一割ほどのバルツァー侯爵への賄賂。

「アラクネを手に入れたと聞いている。

 クリフォードに売って欲しい」

 との内容。


 アーネのことらしい。

 売値は白金貨二枚。

 まあ、いろいろと書いていた。

 さて、どっちにこの資料を渡すかね……。


 俺は、気を失っているワーウルフの頬を張った。

「おい、オッサン」

 声をかけると目を覚ます。

「負けたのか……。

 まあ、あの男の下で働くよりは倒されて殺されるほうがいい」

「ん?

 ああ、あの男は死んだし、その肩の紋章も外しておこう」

 俺は紋章を外す。

「あとは俺がやっておくから、どこへ行くなり好きにするといい」

 ポカンとするワーウルフ。

「いや、俺は恩を返さない魔物じゃない。

 恩を返したと思うまではお前の下に居よう」

 そう言うと、ワーウルフは片膝をつき臣下の礼を取った。

「名前は?」

「ヴォルフ」

「俺はケインという。

 それじゃ、ディアナの護衛をしてもらえるか?」

「ディアナとは?」


「ああ、俺の妹。

 狼の姿のままがいいな。

 あいつは魔物が好きだから」

「心得ました」

 そう言うと、ヴォルフは金毛の狼に戻るのだった。



「あの倉庫には大物の魔物が居るはずです。

 ご主人様、倉庫内も確認したほうがいいのでは?」

 アーネが言う。

「確かに、最近フェネクという高位の魔物の子を得たと言っていました」

 ヴォルフもアーネに同意する。

「フェネク?

 なんだそりゃ?」

「巨大になる鳥の魔物です。

 不死だという噂がありますね」


 ああ……不死鳥フェニックスね……。


 三人で倉庫に入ると、粗方は売れたのか何も居ない。

 しかし、尻尾込みで十メートルは有ろうかという赤系の羽を持つクジャクのような鳥が寂しげな眼で座っていた。


 こんなの、どうやって王都に?


 そんな事を思いながらクジャクが居る檻に入る。

 クエェ

 と叫びながら、フェネクは俺を襲った。

 横殴りの風でフェネクを吹き飛ばす。

 柵に当たるとフェネクの体に衝撃が走った。

 そのまま動かなくなる。


 ああ、この柵、魔道具なのか。

 暴れて、柵に当たると、麻痺系の魔法がかかるようになっている訳ね。


 痺れて動けないフェネクの体をまさぐると、そこに探していたものがあった。

 俺は紋章を外し、魔力を使って痺れを解く。


 パチリと目を覚まし俺を見るフェネク。

 違和感があるのか紋章があった場所を見ていた。


 でけえ頭。


 なんて考えていると、

 フェネクが光り輝きクジャク程度の大きさになる。


「私の隷属を解いた者はお前か?」

 フェネクが言う。


 偉そうだな……。


「ああ、そうだが?」

「礼を言う」

 と、頭を下げた。

「私はまだ幼く、お前が好むような大人の女にはなれない。

 それで良ければ、体を提供してもいいのだが……」

 フェネクの言葉に、

「何言ってんだこいつ」

 とアーネに聞いた。

「ご主人様が『幼子に欲情する性癖をお持ちならば、体を重ねても良い』と言っているようですが。

 ご主人様にそのような趣味が?」

「えっ、(ぬし)にはそんな趣味が?」

 被せてくるヴォルフ。

「お前一緒に暮らしてきて、俺にそんな趣味があるように見えたか?」

 アーネを睨み付けると、

「いっ、いえ、そんな趣味があるようには……。

 しかし、急に欲情することもあり得るかと……」

 アーネの額に汗が浮かぶ。


 信用無いねぇ……俺。


「勘違いするような事を言うな。

 あまり酷いと血をやらんからな」

「そんなご無体な……」

 ヨヨヨとアーネは泣きまねをしている。

 からかわれているようだ。


 やってろ。


「別に何もせんでいい。

 帰るところがあるのなら帰ればいいし、行くところが無いならしばらく俺んちに居ていい。ただ、元の大きさになるのは困るがね」

「うっうむ。

 私は行くところが無い」

 フェネクは目を伏せる。

「じゃあ、ヴォルフと一緒に俺の妹であるディアナの護衛を頼む。

 護衛と言っても一緒に遊んでやってくれればいい。

 少々の敵が現れても、フェネクなら大丈夫だろ?」

「うむ、任せるがよい」

 フェネクが胸を張る。

「で、フェネク。

 フェネクって魔物の種類の名だよな。

 名前は?」

 俺が聞くと。

「無い」

 フェネクが目を伏せて言う。

「じゃあ、フェネクスな。

 お前の名はフェネクス。

 俺の名はケインだ。

 よろしく」

「お前はケイン。

 わかった」

 俺はアーネ、ヴォルフとフェネクスを連れると、建物と倉庫に火をかけた。

 早々にその場から去る。



 次の日ヴォルフとフェネクスをラムル村に連れて行った。

「にーたんどうしたの?」

 とヨチヨチ歩いてきて俺に聞くディアナ。

「ディアナ、友達を連れてきた。

 仲良くやってくれるかな?」

 とヴォルフとフェネクスが俺の後ろから現れる。

 ラクザルがヴォルフとフェネクスを見て焦っている。


 格が違うようだ。


「ワンちゃんにトリさん。

 お友達?」

「ああ、お友達」

 ディアナはヴォルフの体に突撃していった。

 狼状態のヴォルフは体長が三メートルほどある。

 ヴォルフが吹き飛ばされた。


 え゛……。


 フェネクスはクジャクサイズ。

「可愛いね。

 サルさん仲良くね」

 ディアナが言うと、ラクザルは壊れたおもちゃのように何度も頷いていた。


 ラムル村をラクザルの肩に乗って散歩するディアナ。

 その傍にヴォルフとフェネクスの姿。


 強引だが犬、サル、キジ。

 女桃太郎が出来上がる。


読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] あら本当だ(;・ω・) ママに吉備団子の代わりに クッキーかマカロン辺り おねだりしときますか? いや、甘味より干し肉?
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