4.朝練
カミラが俺の家に来た。次の日の朝、
俺は目を覚ます。
カミラの真っ黒な髪が乱れていた。
「これが神祖だって言うんだからな。
人にしか見えないや」
そう呟きながら俺はカミラを起こさないようにベッドを出ようとしたが、カミラが寝間着を持っていた。
カミラの指を一本一本外していくうちに、カミラの目がパッと開く。
「主よ、何をしようとした!」
毛布を持ち怯えるカミラ。
「落ち着け!
俺は何もしていないぞ。
カミラを起こさないように俺の寝間着を掴んでいたカミラの手を外しただけだ」
俺はカミラを抱き寄せ頭を撫でた。
気持ちいいのか目を細める。
「日課の朝練をしようと思ったんだ。
言っておけば良かったな」
「そうだったのだな」
カミラは言わないが、俺に出会う前にはいろいろあったのかもしれない。
庭に出て、木剣をふるっていると、暇そうにあくびをするカミラ。
実際暇なのだろう。
「主よ、私は暇だ。何か手伝えることはないか?」
とカミラが言った。
「そうだね、カミラは冒険者なんだろ?
だったら俺の剣の練習相手をしてくれないか?
今、父さんが戦場に行っててね。相手がいないんだ」
俺がそう言うと、
「心得た。
これで主の役に立てる」
と言って、喜んだ。
「俺は剣だけど、カミラの武器は?」
と俺が聞くと、
「これだ」
と言って手のひらを見せる。
そして、カミラが指に軽く魔力を流すと、五本づつ、計十本の爪が伸びる。
伸びる場所は違うが〇ルヴァリンか?。
「今はケインのお陰で魔力が満ちている。
下手な鉄など切り裂くぞ」
そう言ってカミラは構えた。
俺、木剣なんだけどなあ。
「じゃあ始めよう」
と俺が言うと、獣のような素早い動きでカミラが突っ込んできた。
すれ違い様の一撃。
ギリギリで俺は避けた。
「これを避ける!」
とカミラは驚く。
「父さんのほうが攻撃は早い。
このくらいならね」
戦いながら、話を続ける俺たち。
「魔法だけじゃなく剣もなのか!」
悔しそうにカミラが言う。
「まあ、この世界では必要なことだから、真剣にやらせてもらっている」
「この世界?どういうこと?」
「話す気になったら話すさ」
「今はダメなのか?」
「わからないね。
謎多き子供っていうのも良いだろう?
でも、そんなに知りたいか?」
俺が聞くと、
「知りたい」
即答のカミラ。
「だったら、俺に勝ってよ。
勝ったら話す」
「言ったな」
勝てると思ったのかニコリと笑ってそう言うと、カミラの動きがさらに早くなる。
必死の表情だ。
その攻撃をずっと受け流したり回避したりしていると、疲れが見えたのかカミラの動きに精彩を欠いてきた。
呼吸が荒くなり真っ白な肌に汗が目立つ。
大振りになった攻撃を受け流したときに、カミラの足元がふらつき、踏ん張ろうとしたがそのまま倒れてしまった。
そして空を見上げ大の字になる。
カミラの胸は大きく上下していた。
「大丈夫?
疲れた?
はい水」
俺は水を汲んできてカミラに渡すと、コクコクと喉が動き一気にカミラは水を飲み干した。
急いで飲んだせいか、口元から水がこぼれている。
「ふう、美味い。
しかし、主は本当に五歳の子供なのか?」
「そうでもあり、そうではなし……だね。
勝ったら教えるよ。
でも結構危なかったね。
この木剣もう少しで折れていた」
カミラの前に木剣を差し出す。
カミラの爪を受け続けた硬い木剣はいたるところに傷がつき、いつ折れてもおかしくない状況だった。
「剣を折ったとしても、主には勝てる気がしない」
「魔法は使わないから大丈夫」
俺はニコリと笑う。
「魔法無しでそれか……。
私には冒険者として『黒衣の暗殺者』と言う通り名があるのだが主と戦うと自信が無くなるな」
そう言って、のそりとカミラが起き上がる。
「奥様が来たようだ」
すると、本当に母さんが現れた。
「あらあら、汗びっしょりじゃない。
カミラさん、ケインとと手合わせしたの?」
「奥様、ケイン殿に勝てませんでした」
カミラは母さんを奥様と呼ぶ。
「仕方ないわね、あの人の教えを受けているんだから」
苦笑いの母さん。
「でも、ほらこれ、僕用の木剣がこんなになって」
「あら、これじゃしばらく練習にならないわね」
母さんは折れかけの木剣を見て驚いていた。
「すみません、少し本気になってしまいました」
と言うカミラに対し。
「少し?」
母さんがカミラを見てニヤリと笑いながら言う。
そうすると、
「全力です」
カミラは目を伏し、苦笑いをしながら言った。
「カミラさんありがとう。ケインの相手になってくれて」
母さんはカミラに頭を下げた。
「私こそ、この家に住まわせてくれてありがとうございます」
カミラも母さんに頭を下げる。
「さあ、二人でお風呂に入ってらっしゃい。
女の子がそんなに汗まみれではダメよ」
母さんは風呂の準備をしてくれていたようだ。
俺とカミラは風呂場へ向かうのだった。
一応、俺って男子なんだがなぁ……。
湯船に二人で入ると、早速カミラに疑問をぶつけた。
「カミラ、なぜ母さんが近づいてきたことに気付いた?」
「ああ、あれか。気配察知だ。
私は奥様の気配を知っているからな。
近づけば誰が来たのかがわかる。
つまりケインもわかるぞ?」
当たり前のようにカミラが言う。
「そうなんだ、それって俺でもできる?」
そう聞くと、
「私は生まれつき持っていたからな。
やり方は、魔力を薄く伸ばしていく感じだ」
と言ってやり方を教えてくれた。
ふむ、レーダーのような物だろうか。
魔力の波を飛ばし、跳ね返った波で人を察知する。
ある意味コウモリのような能力。
「確かに、台所辺りに気配がある。
そういやこの雰囲気は母さんだな。
家にはいっぱい小さな気配が居るな」
「えっ、わかるのか?」
「ん、まあ、何となくね。小さくてチョロチョロしてるのは……まさかスモールラット?」
そう言えば、ネズミが増えたと言っていたな
「えっ、それは私にはわからない。
ケインは私よりも感度が良いのかもしれないな」
カミラは俺をまじまじと見ていた。
少し魔力を増やし、範囲を広くしてみる。
すると家や家具。
人や魔物の形がフレームのように現れた。
生き物の中心には光るものが見えるのは魔力か?
母さんの光がひときわ大きいのは、魔法使いだからかね?
「今日の朝ごはんはパンとスープだな」
「そこまでわかるのか?」
カミラが驚く。
「カミラが言った言葉通りにやってみただけだ。
ちょっと魔力を多く使ってみたけどね」
フレームまでは要らないか……魔力を搾り光点のみを表示させる。
「実際にできるとは思わなかった、ありがとな」
俺がそう言うと、そこには嬉しそうなカミラが居た。
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