48.ディアナ
久々のラムル村。
ラムル村の件はほぼ村長さんに任せてある。
大まかな方針を決める程度。
母さんはディアナを連れてラムル村の屋敷に居たり、王都に戻ったりしていた。
ある日、母さんとディアナがラムル村に居る時、屋敷に居る俺にラムル村に居る騎士の一人が早馬でやってきた。
ミラグロスが取り次ぎ、
「ケイン殿、ラムル村で何かあったようだ」
と言ってきた。
そして、
「ケイン様、ミランダ様がお呼びです。
魔物が出ましたが、別に何かが襲われるというでなく、その対処にミランダ様とベルト様は悩まれておりました。
ただ、できるだけ早く来て欲しいとの事」
俺は馬に乗ると、ラムル村に向かう。
隣にはミラグロス。
カミラも行きたいといっていたが、家を守ってもらうために留守番をしてもらうことにした。
一時間ほど走ると、村が見えてくる。
村の入り口で馬を降り、手綱を引いて中に入った。
そして、屋敷に向かう。
俺に気付いた村長が、
「ケイン様、大変です。
ラクザルが現れました」
と焦ったように言う。
「何?
ラクザルだと?」
ミラグロスが言うが、
「ラクザルってなんだ?」
どんな魔物かわからず、聞き返してしまう。
「そんなことも知らないのか?
大型のサルでな。
人を食べることもある」
ミラグロスが説明をしてくれた。
そんなこと言われてもラクザルからサルは思い浮かばん。
「被害はないと聞いたが?」
「ええ、被害はないのですが……ディアナ様が……」
村長は言葉を濁した。
「可愛いディアナがどうした?」
俺が聞くと、
「そのラクザルと遊んでいるのです。
ラクザルもディアナ様もそれは楽し気で……。
今はこちらのお屋敷の庭におられると思います」
と村長は困惑した顔で言った。
それで、俺が呼ばれたわけか。
カミラにしろホルスにしろ魔物を扱っているからな。
「ありがとう、屋敷に行ってみる」
そう言って村長と別れ屋敷に入る。
庭に行くと、ディアナがラクザルと戯れていた。
東屋で見守る父さんと母さん。
苦笑いだ。
「にーたん!」
俺を見つけたディアナがヨチヨチ歩きで近づいてくる。
その後ろからラクザルが近づいてきた。
剣の柄に手を置くミラグロスを手で制した。
「にーたん、サルたん」
ラクザルを指差してディアナがキャキャキャと笑う。
ラクザルはディアナに近づくと、抱き上げて頭を撫でる。
「ひゃひゃひゃ!」
くすぐったいのかディアナが笑う。
俺がラクザルを睨みつけると、ラクザルは伏せた。
敵対心は無いらしい。
「にーたんダメ! メッ!」
ディアナがラクザルの前に行きラクザルを守るようにして怒る。
「メッだからね!」
と再び言われた。
俺が睨みつけたのが気に入らなかったようだ。
俺はディアナの前に行くと、
「ディアナ。
サルたんどうした?」
と聞いてみた。
「寂しい言ってる。
私と一緒に遊ぶと、楽しいって。
だから、サルたん一緒」
俺とディアナの様子をうかがうラクザル。
「ディアナはサルたんと一緒に暮らすのか?」
「うん、サルたん寂しい。
私といると楽しい。
だったら一緒にいる」
要は飼いたいらしい。
「じゃあ、約束。
サルたんが村の人に痛い痛いしたら、にいたんはサルたんを居ない居ないしないといけない。
だから、サルたんが村の人を痛い痛いするのはダメ」
ウンウンと頷くディアナ。
「サルたんが欲しいからって、何かを壊して、欲しいものを取るのもダメ」
再びディアナはウンウンと頷いた。
「サルたんが何か悪いことをしたら、ディアナがちゃんと叱らないとダメ。
サルたんは人のことを知らないんだからね。
ディアナはサルたんのおねえたんになれるかな?」
「なる!」
ディアナは右手を上げにっこりと笑った。
「サルたんわかった?」
とディアナが言うと、ラクザルは頷いていた。
「こんなことになっていたんですね」
俺は両親に言った。
「ああ、別に攻撃するでもなく、ディアナと遊んでいるだけでな。
勝手に飼うわけにもいかないし、一応領主様に出てきてもらったわけだ」
父さんが言うと、
「魔物を見てもらっておいたほうがいいでしょ?」
ニッコリ顔の母さん。
「言っておくけど、ラクザルが手加減無しなら、ディアナなんてすぐに死んでる。
ディアナが特別なのか、ラクザルが特別なのか……。
こんなの私も見たことが無いわ」
はあ……。
「まあ、そうですが。
ちなみにラクザルは何を食べるのですか?」
「たぶん何でも。
雑食だと聞いたわ」
「あと、魔物だから魔力ね。
あなたほどじゃないにしろ、ディアナも魔力を持っている。
ディアナに触れると魔力を得られるのかもしれないわね」
母さんが言った。
「飯の心配は、まあ、何とかなるかな。
仲が良いのは良いと思う。
しかし、何らかの枷が外れて、ディアナだけでなく村人に被害が出ることも考えられる。
でも、そういうのを防ぐ方法が浮かばない」
「それは、クリフォードがカミラさんにしたことをすればいいのよ」
「隷属化?」
「ええ『自分に危害を加えようとする者以外の人に危害を加えない』、『ケイン、ディアナ、私、ベルト、カミラさん、ミラグロスさんの言う事を聞く』これが最低限、その程度を押さえておけばいいと思うわ。
あと『この村に居る魔物には攻撃しない』というのも付け加えないといけないわね。
大切な収入源ですから」
「書類とか要るんじゃないですか?」
カミラの時には契約書があった。
「ああ、あんなの飾りよ。
隷属の紋章に条件を書き込めばいいの。
そうすれば、契約書なんて要らない。
クリフォードはリンメル公爵に文章として見せるためにそうしたんでしょうね」
母さんは苦笑いをしていた。
「わかった、やってみる
紋章は?」
「そんなの適当
黒丸でもいいぐらい」
俺は再びディアナとラクザルの前に行った。
遊び疲れたのか、ラクザルの腹の上でディアナは寝ていた。
ラクザルが困った顔。
「お前を隷属する。
服従させればいいんだろうが、それではお前の判断だけを信用しなきゃいけないんだ。
お前は魔物だから、人の社会をわからない部分もあるだろう?
いいかな?」
仰向けのラクザルが、頷いて同意したように見えた。
俺が近づくが、ラクザルは動かない。
肩に魔力を使って黒丸を書き、条件を封入した。
一瞬ラクザルの体が輝く。
俺がディアナを抱き上げると、子守に疲れ、ヤレヤレと言う感じでラクザルが立ち上がった。
すると、
「サルたん大好き」
ディアナは寝言で呟くのだった。
「これでいいのか?」
ミラグロスが聞いてきた。
「さあね。
でも、ディアナは楽しそうだ。
隷属化もして危害を加えることも無いだろう。
だから、様子見だね」
こうしてラムル村ではラクザルの肩に乗り、散歩するディアナの姿が見受けられるようになる。
そういえば「ついていけません!」と乳母が辞めたらしい。
ただ、ラクザルが乳母代わりになっているようだ。
野生児のようにならなければいいが……と思っていたが、母さんはあまり気にしていなかった。
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