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47.爺さんの死

 俺の爺さんであるマーロンが亡くなった。

 呼び捨てにするのも何だが、あまりマーロンを好きではなかった。

 何度か俺の家に来ていたが、結局聞いたのは父さんへの愚痴ばかり。

 男爵になった時に祝いに来てくれて以来、会ったことは無かった。


 マーロンは子爵位。

 その爵位が空白になる。


 元々マーロンは魔法師団の教育係ということで給料も得ており、領地が無いと言ってもそれなりに暮らしてきていたようだ。


 死因はわからず「胸を押さえて蹲り、そのまま……」とのこと。

「まあ、魔法使いとしては成功したんでしょうけど、母さんも出て行って私一人だったからね。

 だから、寂しくてちょくちょく私たちの家に来てたのかも。

 まだ、人の居るところで死ねただけいいのかもしれないわね。

 死んだことに気付いてもらえたのだから……」

 そんな憎まれ口を言いながら母さんは泣いていた。

 そして、そんな母さんに寄り添う父さんが居た。


 そしてしばらくしたある日、父さんと母さんが王都の屋敷に居た時、王宮から役人が来たようだった。

 相手は母さん。

 母さんは王宮からきた役人と話をする。

 その夜、俺とカミラが話をしていると、ノックが響く。

「ケイン今大丈夫?」

扉の向こうからの声。

俺は扉を開けると、母さんが現れた。

 

「ねえ、ケイン。

 あなた、爵位を上げたいって言ってたわよね?」

 母さんが俺に聞いてきた。

「ああ、あいつらに近づくならばね」

 俺は言う。

「お爺様が持っていた子爵位を世襲することができるんだけど……どうする?

 ただし、子爵位を世襲するには魔法師団の教育係をしなければいけない。

 それが前提の爵位だからね。

 まあ教育係と言っても、週に一日ほど魔法師団に行って魔法を教えればいいの。

「でも、学校があるけど」

 俺が言うと、

「ああ、それは大丈夫。

 毎回じゃなくていいの、教育係には私も行くから」

 ディアナは乳母も居るし……」

 という母さん。

「俺が子爵にならなくても、母さんがなるってことも出来るんじゃないの?」

 俺が聞くと、

「私はね、今の生活がいいの。

 だから、子爵なんか要らない。

 だったらあなたの野望の手伝いに使えばいいと思う」

 母さんはニコリと笑った。

「それじゃ、お願いします」

 俺は子爵位を継承することになる。

 名前は変わらないそうだ。

 しかし、その前に試験らしきものがあるらしかった。


 学校が無い日に、母さんと共に馬車で魔法師団に行く。

「だーうー」

 と母さんの頬を触るディアナ。

 母さんはディアナを魔法師団に連れてきていた。

「何故にディアナを?」

「ああ、ディアナにも魔法師団という者を見せてやりたくて。

 あなたのように、赤子のころから何かするということは無いけども、それでも見るだけでもディアナにとっていいことになるかもしれないから……」

 馬車は魔法師団の門から入り、玄関に止まる。

 俺達三人は馬車を降り、事務所のようなところに行った。

 既に話が通っているらしく、師団長の部屋に通された。

 すらっとした細身のイケメン男性が現れる。

 年齢は、母さんより少し上?

「久しぶりだね、ミランダ」

 親し気に男性は母さんに近づいた。

 しかし母さんは嫌悪感を出し、

「クリフォード。

 あなたが私とあの人に伸されて以来ね」

 と言った。

「私が嫌がっているのに言い寄るあなたをベルトが殴った。

 いい気味だったわ。

 まあ、そのせいでベルトは騎士団長から部隊長に降格された訳だけどね」

 吐き捨てるように言った。

 

 俺にも天敵らしい。


「懐かしいな。

 それでも私と一緒になっていれば、騎士の妻などと言う場所に収まる必要はなかったのに」


 んー、職場環境としては最悪じゃない?

 母さん敵対心丸出しだし。


 そしてクリフォードは俺を見ると、

「その子が噂のハイデマン男爵かい?」

「ええ、ここに教師として通うことになるからよろしく」

 母さんが悪い顔で笑った。

「試験があるとか聞いていたのですが?」

 俺が聞くと、

「そうだったね」

「どのような事をすれば?」

「私と戦って五分持てばいい。

 まあ、持てばだがね」

 とのこと。

 母さんの「やっちゃいなさい」目線。


 クリフォードと俺は訓練場という広い場所に行くと、正対した。


「じゃあ、僕が攻撃するから、それを防いでもらえるかな。

 たった五分立っていればいい。

 それで君は子爵だ

 無理だったら言ってね、やめるから」

「わかりました、五分だけ立っていることにします」

「もしも僕に反撃ができるようなことがあったら、してもいいから。

 まあ、無理だと思うけどね」


 さすが現宮廷魔導士筆頭プライドが高い。


 チラリと母さんを見ると握りこぶしを出して軽くパンチしていた。


「それじゃ始めるね。

 根源たる炎よ……」

 そう言うと、ファイアーボールが五つほど浮かび、俺に攻撃を始めようとする。

 俺は無詠唱で六つのウォーターボールを出し、発動し始めたファイアーボールを消すと、残り一個をクリフォードの顔に当てた。

「パシャリ」

 と顏に水が当たる。

「ちょっ……ちょっと手を抜き過ぎたみたいだね。

 次はちょっと本気で行くよ」

 再び呪文を唱え始めるクリフォード。

 すると、ファイアーボールが十個浮かび始めた。

 十一のウォーターボールを出し、発動し始めたファイアーボールを消すと、残り一個をクリフォードの顔に当てる。

 顏がびしょびしょになった。

「あのー。

 魔法の発動まで待った方がいいですか?」

 俺が聞くと、

「ぶっ無礼な!

 私だって無詠唱はできる!」


 別に侮辱とかしてないんだけどねぇ……。

 言い方と受け取り方の問題かなぁ……。


 するとクリフォードは俺に無詠唱でストーンバレットを打ち込んできた。

 そのもの石の弾。


 まあ、でも一発だし、小指ぐらいの大きさの弾だし……。


 俺は飛んでくる弾を片手で掴む。

 そして握力で握りつぶした。

 砂になったものが地面に落ちる。

 唖然とするクリフォード。


「こっちの番です」

 手を振ったあと、俺はウォーターボールを無詠唱で三十個ほど出しクリフォードを攻撃した。

 対処しきれないクリフォードは顔を手で覆い防御する。


 まあ当たっても水の弾だし。

 速度も出していないし。


 そこにはびしょびしょになったクリフォードが居た。


「五分経ったと思うんですが……」

 髪の毛から水を滴らせながら、立っているクリフォード

 髪の毛の間から睨み付ける目が見える。


 輪っかの映画のサ〇コ?


 そんなクリフォードを見てディアナはキャッキャと喜んでいる。

「びしょびしょだねぇ」

 と母さんが笑っていた。


「合格だ……」

 言いたくない言葉を絞り出すようにクリフォードが言う。

「週一回、君の好きな時に講義をすること。

 まあ、魔法師団の面々はプライドが高い。

 ちゃんと講義ができるといいがね……」

 そう言うとクリフォードが去っていった。


「ケインおめでとう」

 母さんがディアナを連れてやってきた。

「母さん、ありがとう。

 これで子爵?」

「そういうことね、コレで子爵」

 ということで、陞爵の通知が王宮から届き、俺は子爵になるのだった。



 初の講義。

 俺と母さんで練習場に立つと、ピリピリとした雰囲気が場に流れていた。

 講義を聞く魔法使い。

 それも中堅どころと思われる魔法使いが見ているのは母さんの顔だった。

「あら、見た顔が居るわね」

「ミランダ様お久しぶりです!」

 ビシッと気をつけをして一人の少し偉そうな男性魔法使いに近寄って母さんが言った。

「その腕章、部隊長になったのね。

 私に指導されていつも泣いていたのに」

 と暴露する母さん。

「えっ、あの偉そうなカナルさんが涙目に」

「あの人は?」

 などと言う声が聞こえ始めた。

 そして、

「バカ!

 あれが『魔女』ミランダ。

 逆らっちゃダメ。

 根性焼きってファイアーボールを押し付けられるわよ!」

 母さん知ってるのか、一人の女性魔法使いが若い魔法使いに注意していた。


 根性焼きって……。

 何時の時代ですか母さん……。


「あら、久しぶりね。

 サリーさん」

 その女性魔法使いに近づく。

「あなた、人望がありそうね。

 今度、私の息子がこの講義をすることになったの。

 フォローお願いね」

「はっ、はい!

 誠心誠意、仕えさせていただきます」

 即決でサリーという魔法使いが頭を下げていた。


 やり辛いよ、母さん……。

 これじゃモンスターペアレントだ。


「じゃあ、ケイン。

 講義をお願い」

 母さんが俺に振ってきた。

「今度講義を受け持つ、ケイン・ハイデマン子爵です。

 若輩者ですが、よろしくお願いします」

 そう俺が言うと、

「えっ?

 普通じゃん」

 という雰囲気が流れる。

「まずは、魔力の圧縮について……」

 母さんと俺のギャップのせいか話を聞く師団の魔法使い。

「魔力の圧縮ができると、魔法そのものの威力が上がります。

 特に炎系の魔法、ファイアーボールについてはこの大きさの物を普通に使うよりは、圧縮して小さくしたものを使うほうが、威力に格段の差が出てきます。

 ではやってみましょう」

 俺はスイカ大のファイアーボールを無詠唱で発現させ、そのまま標的を狙う。

「ボン」

 という音がすると、炎が上がった。

「これが発動した魔法をそのまま使った場合。

 次は圧縮した場合です」

 俺はスイカ大のファイヤーボールをビー玉大に圧縮して、標的に投げた。

「チュドーン」

 髑髏付きのキノコ雲が上がりそうなぐらいの威力になる。

 パラパラと破片が落ちてきた。

 そして、煙が晴れ見えるようになると、

 そこには結構な大きさのクレーターができていた。

 魔法使い達が俺を見る。

「魔女の息子は大魔王」

 誰かが呟いた。

 俺はスルーして、

「こんな感じですね。

 魔力についてはほぼ使用量が一緒です。

 魔力制御ができれば、同じ魔力でも威力が全然違うことに気付いてください。

 戦場では魔力回復がままならないと聞いています。

 であれば、このことを応用して、同じ威力でも消費する魔力が少なく済むことになりますので、練習をお願いしますね。

 あと、無詠唱の練習をしておいてください。

 次回、できるかどうかを確認します」

 そんな話をして、講義が終わった。


 ザワザワという声が聞こえる。

「無詠唱だと?

 そんなことができるのか?」

 そんな事を言っている男に、

「あら、私はできるわよ?」

 と母さんが人差し指を立て、その上に火球を出現させた」

「講師ですから私もできます」

 俺は右手の指先全部に火球を出現させた。

「魔法とは事象を想像し魔法を使うことで発動させる物です。

 ですから、簡単に火がつく理由や水が発生する理由、土が固まる理由、風が発生する理由を知っていれば、詠唱が無くても魔法は発動させることができます。

 ファイアーストームやサンドストームもそれの合わせ技になります」

 俺がそいうと、母さんまでもがきょとんとしていた。


 えっ、知らんかったの?


「ちなみに、もっと理解するとこのように青い炎が出せるようになります。

 炎の温度は赤いより青い方が温度が高くなりますので、当然のごとく威力が高くなります。

 青いファイアーボールを魔力圧縮して飛ばすと、多分この辺がなくなるのでやりません。

 知りたい人は、私が居る時にでも聞いてください。

 今日の講義は終わりです。

 先ほど言った通り、無詠唱の練習をしてくださいね。

 慣れていない方は部屋で練習せず、広い所でやることをお勧めします」

 そう言うと、俺は練習場を出た。


「ケイン、凄いじゃない。

 私も知らない事を言っていたわね」

「そりゃ、母さんの本を見たりして勉強したからね」

 後で聞くに、母さんの厳しさと俺の解説で講義は好評を博すのであった。


 コレで子爵が貰えるなら良しです……。


「ケイン、魔法師団の講師になったんだって?」

 ラインが休憩時間にやってきた。

「耳が早いな。

 誰から聞いた?」

「通学の馬車でエリザベス様から」


 ふむ、それなら仕方ない。


「言ってはいけなかったでしょうか?」

 リズが不安そう。

「いや、そういうつもりじゃない。

 耳が早いなって思っただけ」

 リズへのフォローの後、

「マーロン爺さんの後を継げば子爵位が貰えるって聞いたんで、跡を継いだんだ。

 仕事も、魔法師団で講義をすればいいだけらしいから」

「マーロンってあの王宮魔術師筆頭だった?」

「そう」

 ラインが少し考えると、

「えっ、子爵?」

 と聞いてきた。

「そう、子爵。

 形だけみたいだけど……

 まあ、これでラインバッハ侯爵に言われた『子爵になれ』って言う約束は守れたね」

「うん。

 嬉しい。

 後はエリザベス様だけだね」

 ちょっと不安そうなリズに、

「大丈夫、間に合わせます」

 というと、嬉しそうに頷いていた。


読んでいただきありがとうございます。

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