42.登校再開
そして、二か月半ぶりの登校。
Aクラスの定位置に俺は座った。
すでに鉄壁のバルトロメを倒したことは知られており、生徒たちは遠巻きにひそひそとうわさ話をしているようだ。
自意識過剰かね?
そんな事を考えながら、席に着いて外を眺めていると。
「おっはよー」
「おはようございます」
と、ラインとリズが現れた。
急な出兵で話しもできなかった。
久々である。
「父さんが帰ってきたから、そろそろ来るかと思っていたけど、やっぱり来たわね」
とライン。
「まあ、とりあえず終わったからね」
「お帰りなさいませ。
怪我が無かったのが何よりです」
リズが俺を見て言った。
「何とか無事にな。
カミラのフォローもあったから、何とかなったんだろう」
「あの、鉄壁のバルトロメを倒したんだって?」
興味津々のライン。
「運良くね」
「『悔しいが、あいつの作戦がツボにはまってしまった』って父さんが苦い顔をしてたわよ。
『右翼が戦功をあげられたのは、あいつのお陰』だってさ」
ラインが嬉しそうに言っていた。
「そういえば、父さんの軍内での位が上がるらしいわ。
あのミルドラウス侯爵と同格になるって」
「そりゃ良かったな」
「これで、父さんもケインに一目置くでしょう」
そんなふうにラインが言っていると思い出したように、
「そう言えば、近々戦勝会があって、ケインが呼ばれるらしいわ。
お父様が言っていたの。
『功一等を呼ばないわけにはいかないだろう』と言っていたから」
とリズが言った。
「はあ……、行きたくないなぁ……」
「私も居るし、ラインも来るのでしょ?
それに、多分レオナさんも来る。
傍らにカミラさんを置いておけば、女避けになります。
学校メンバーで、話をしていればいいのです」
「何々?
私の名前が出てたけど?」
レオナがAクラスの教室に入ってきた。
「ああ、招待状行ってる?」
リズがレオナに声をかけた。
「戦勝会のやつでしょ?
行く行く」
なんか軽い。
「未来の夫に変な虫がついちゃだめだもんね」
レオナが何か言った。
俺がハテナマークでフリーズしていると、
「カミラさんは戦いのフォローをしています。
私たちは私生活のフォローをすることに決めたのです。
今は……ですけどね」
リズが言った。
「私だって、ケインの横に立てるぐらいの魔法使いにはなるんだから」
ラインも言う。
「私は後方支援。
卒業したらルンデル商会を乗っ取っちゃうんだから」
と鼻息荒いレオナ。
「その時はよろしくお願いします」
俺は頭を下げるのだった。
三年になると、騎士団や魔法師団から教師が招かれる。
理由は就職の話だ。
先生に認められるということは、その騎士団に就職できるということ。
貴族の次男、三男は後を継げない。
そのためにこの場で目立つ必要があるのだ。
俺はあまり関係がないため、剣の授業に関してはリズと、魔法の授業に関してはリズやラインと訓練をしていた。
登校を再開したあとの剣術授業の時、
「今日はミルドラウス侯爵のご息女、ミラグロス様に指導に来ていただきました。
ミラグロス様は王都の騎士団で副団長を務めているほどの方です」
俺は「ミルドラウス侯爵」に反応して姿を見る。
イメージとしては、陸上百メートル競走の選手。
「体脂肪率いくつ?」って感じである。
しかし、出るところは出ていた。
二メートルはあろうかという大剣を軽々と担いでいる。
騎士と言うよりアマゾネスだよな……。
リズが、
「何を見てるんですか!」
と少し怒っていた。
先生を見るのは普通だと思うんだが……。
「就職組と手合わせしたいところだが、まずはこのクラスで一番強い奴とやってみたい。
もし、私に勝てるなら、私を好きにしてもいいぞ!」
絶対の自信なのか、そんなことを言うミラグロス様。
全員の視線が俺に注がれる。
いやいや……。
と言うか、リズの目線が厳しい。
「負けたら何かあるのですか?」
「そうだな、私の婿になれ」
ミラグロス様は言った。
「それはミルドラウス侯爵様に吹き込まれたのですか?」
「そうだな『婿にしろ』とは言われたが、元々私より強い者が居れば妻になってもいいと思っておった。
鬼神の息子とあらば、相手にとって不足はないのでな」
ニヤリと笑うミラグロス様。
「勝負をしてもいいですが、勝ってもあなたを好きにしませんし、負けてもミルドラウス侯爵の下に行くつもりはありません。
それでいいのなら」
「いいだろう。
鉄壁のバルトロメを倒した力を見せてもらえるのならな」
こうして戦うことが決まった。
訓練場でミラグロス様と対峙する。
先生の「はじめ!」の声で模擬戦が始まった。
ミラグロス様は声とともに弾けるように俺に近づき、大剣を横に払った。
俺は剣を抜かず軽く飛び、それを躱す。
大剣は勢いそのままに上にはね上げられるとそのまま上から俺にたたきつけられた。
これ当たったら死ぬ奴だよな。
俺は半身になってその大剣を躱すと、腕を持って腰を入れ、一本背負いでミラグロス様を投げた。
勢いでミラグロス様は受け身も取れず大の字になり、大剣を手から離す。
大剣を足で蹴り遠くにやってミラグロス様を見てみると、気絶している。
軽く頭を打ったかな?
俺はミラグロス様に近寄ると、呼吸と心音を確認した。
問題ないね。
頬を張る俺。
すると、
「あん」
という、さっきとは違うしおらしい声でミラグロス様が目を覚ます。
「あなたの負けでよろしいですか?」
俺が聞くと、
「はい」
と頬を染めて頷いた。
これやらかしたよな。
ミラグロス様の雰囲気が一気に変わったな。
俺のほうをチラチラと見ながら、就職組の手合わせをしている。
余裕なのはその剣技のせいか……。
就職組が相手になっていない。
リズも機嫌が悪かった。
「もっとやりようが」
と言われたが、
「仕方ないだろう?
挑戦されて、乗らないわけにはいかない」
リズの愚痴が終わるころ、とりあえず授業が終わり、ミラグロス様が去っていった。
「変なの来たんだって?」
ラインが言ってきた。
「ミラグロス・ミルドラウス」
リズが呟く。
「えっ、鬼神を継ぐものって言われてる?」
ラインが食いついた。
「そう、ケインに絡んだの」
「あちゃー『ミルドラウス侯爵に目をつけられてる』ってお父様も言ってたわ……。
あそこは前線でバンバン戦う家系だからね。
身体能力も高い。
で、ケインは?」
「完勝」
リズが言う。
「すごっ……」
驚くライン。
「それからケインを見る目が変わって……」
リズが続けた。
「何か仕掛けてきそうね。
ケインも『お前なんか弱い』的な事を言っておけば……」
ラインが言ったが、
「逆効果でしょうね。
あの感じゃじゃ馬は強い者にあこがれるみたい」
リズがため息交じりに言った。
「まあ、なるようにしかならないし。
ミルドラウス侯爵には既にラインバッハ侯爵の娘を狙っていると言ってあるから、けん制にはなるんじゃないかなぁ。
ラインのお父様次第だね。
こんな事があった程度には伝えておいて欲しい」
「わかったわ」
ラインが頷いていた。
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