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41.戦の後

 総大将を表す金の椅子に腰かけた大男が俺その後中央の天幕、つまりバレンシア王国側の天幕に呼ばれた。

 ラインバッハ侯爵と共にである。

「お前が、ハイデマン男爵か?」

 をじっと見る。

 ミルドラウス侯爵である。

 常に前線を駆けてきたその体には多くの傷が残り、スキンヘッドで片目には剣による縦の線が入り潰れている。

 見る者が見れば、恐ろしい顔。

「ラインバッハ侯爵。

 ファルケ王国側はほぼ壊滅し我々の勝ちが決まったのだが、これは右翼が敵左翼を瓦解状態に陥らせたことが要因だ。

 平原が沼地に変わったという報告もある。

 これはラインバッハ侯爵が考えた作戦か?」

 ミルドラウス侯爵がラインバッハ侯爵へ声をかけた。

「ああ……と言いたいところだが、策はここに控えるハイデマン男爵の立てた作戦。

 それがツボにはまった訳だ」

「ふむ」ミルドラウス侯爵は顎を撫でると、

「鬼神の息子。

 王子の優勝を阻んだ男。

 最近王の鳴り物入りで男爵に上がった新参者。

 いろいろな噂が有るがどうなんだ?

 ハイデマン男爵」

「鬼神の息子なのは産まれる場所は決められません。

 私としては鬼神の息子で良かったと思っています。

 王子の優勝を阻んだのは、私が勝ちたかったからです。

 男爵になったのは、リンメル公爵からエリザベス王女を守った礼だと言われています」

「そんな男がなぜ、ラインバッハ侯爵の下に居る?」

「それは学校の関係だと思います。

 現在私は在学中であり、その関係で私はラインバッハ侯爵のご息女の事を知っていますので、気を使ってくれたのでしょう。

 もしかしたら彼女の方で、侯爵へ何か言ったのかもしれません」

 ラインバッハ侯爵はあからさまにギクリとしていた。

「ほう、では、もしもその学校に我が娘が居て仲が良ければ、私の陣営に居たかもしれんと?」

「そういうことです。

 たまたまの結果」

「ラインバッハ侯爵よ。

 (ぬし)の娘はよき夫を見つけたようだな」

 ジロリとミルドラウス侯爵がラインバッハ侯爵を睨みつけると、

「若い者の話ですから分かりませんな。

 もし、娶るとして、男爵では我が娘の夫としてはいささか……。

 せめて子爵になってもらわないと……」

 ラインバッハ侯爵は、俺をジロリと見た。

「ふむ、今回は爵位を上げるには十分の功績。

 儂もこの者を私の部下として欲しいのう。

 四人などと言う少数で大軍を破るきっかけを作ったのだ。

 儂ならば、娘どうこうのしがらみ無しで、正規の数をお前に付けて戦場を走らせてやれるが?」

 ラインバッハ侯爵は「あっ」と言う顔をした。

 ミルドラウス侯爵は「正規の数をハイデマン男爵に与えていれば、もっと戦果があったのではないか?」と言っているのだ。

 寡兵で敵陣に突っ込み、危険な目をして得た戦功。

 俺と俺の父さんがそういう行動をするのを予測していて、なぜ正規の兵を与えなかったかを聞いていた。

 そこで、

「寡兵だったのは、男爵として国の戦争に対する心構えが足りず、準備ができなかったのが原因です。

 今後、このようなことが無いように、準備する所存です。

 ラインバッハ侯爵にご迷惑をおかけしました。

 ミルドラウス侯爵にもお気にかけていただき、ありがたく思います」

 と言って兵士が少なかった理由は俺が原因だと言い切った。

 実際、準備する暇がなかったのは確かだが、うちに来た仕官希望者を集めれば何とでもなったことなのだ。

 まあ、父さん母さんのハードルが高かったのも原因である。

「ふむ、そういうことなら儂も言うことは無い。

 頼りない指揮官だと思ったのなら、すぐに儂のところに来るがいい。

 重く用いよう」

「一部下の言葉を信じて兵を動かしてくれる上司はなかなかいないと思います。

 今の指揮官は私にとっていい上司です」

 俺が言うと、ラインバッハ侯爵はほっとした顔になった。

「引き抜きは難しいか?」

「そうですね、今の位置は狙っている女性の父親にいい所を見せるにはいい位置かと思います」

 そう言うと、

「ふむ、せいぜいその父親である指揮官にいい所を見せてやればいい」

 ラインバッハ侯爵を見ながらミルドラウス侯爵は笑い、ラインバッハ侯爵は苦い顔をしていた。


 陣地への帰り際、ラインバッハ侯爵に

「ラインのことをなぜ公言した?」

 と聞かれる俺。

「そのほうが近道かと思いまして……」

 ラインバッハ侯爵はフンと鼻息荒くすると、

「せいぜい頑張ればいい。

 頑張って子爵になれば考えてやろう」

 そう言うと、自分の天幕へ戻るのだった。



 王都に戻ると「戦いに勝った」という噂は既に届いていたようだ。

 早馬が出ていたらしい。

 そのお陰で、原因が誰であるかも知られていたらしく、屋敷に帰ると様々な来客があり忙しい。

「我が娘などどうだ?」系の貴族。

 その辺は「すでに婚約者が居ますので」で断りはしている。

 ただし、男爵よりも上の貴族たちが動いていないので助かった。

 それ以上だとどう断ればいいのかがわからない。


 商人系の話も来たが「ルンデル商会と懇意にしておりますので……」で追い払う。

 ルンデルさんには

「『レオナを婚約者だ』と公言してもいいんですよ」

 と言われている。

 公言して欲しい部分もあるんだろうな。

 まあ、婚約者をねじ込まれそうになった時に考えよう。


 わからんことが多すぎて困る……。


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